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カイトとマスターの日常小話

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ライナスの毛布






 珍しく、こたつではなく、リビングのソファーに腰を下ろしたマスターが午前中、本屋で買ってきた文庫本を貪るように読んでる。何でも発売日が来るのをそれは楽しみにしていた作家さんの本らしい。先から僕が声を掛けても生返事です。
「もう、ご飯、片付けますからね」
「…んー…」
もう。お昼ごはん、冷めちゃったじゃないですか。マスターの好きなものを作ったのに。おかずにラップをかけて自分の分と一緒に棚にしまう。…一人で食べたって美味しくない。それに、僕はご飯を食べなくなって平気だ。…でも、人間は違うんでしょう?…そう思うけれど、目先のことに夢中になってるマスターは何言っても訊いちゃいないのだ。

 …退屈。

 マスターがかまってくれないから。僕を見てくれないから。…お仕事中は仕方ないけれど、そんな字ばっかの何が面白いのか、僕には理解不能です。…やることもなく暇を持て余してマスターの隣に腰を下ろして、ぴとりとくっついてみる。マスターは無反応。…面白くない。そう思いながら、マスターのカーディガンの裾を引っ張ってみる。でも、それ以上のことはしない。邪魔をしたら不機嫌になるだろうし…不機嫌になるとマスターは口すら訊いてくれなくなる。それは嫌だ。…だから後で、今、かまってくれなかった分をかまってもらうんだ。
 ぴとりとくっついたところから、マスターの体温が少しずつ僕の体に移ってくる。…あったかい。そのあたたかさに目蓋がとろんと落ちる。…もういいや、寝ちゃえ…。勝手にスリープモードに移行する意識に逆らうのも億劫で僕は目を閉じた。








「…こうきたか」

やっぱ、面白いわ。このひとの書く話は。ファンタジーも時代物も。読了の満足感に暫し浸っていると、それを遮るように腹の虫が鳴いた。
「…何時だ?」
時計を見やれば、三時近い。…昼飯、本読むのに夢中で食うの忘れてたぜ。…そういや、カイトは?…そう思って、不自然な肩の重みに意識がいく。
「…カイト?」
いつからそばにいたんだろう?ぴたりと俺に体を寄せ、カイトがすやすやと俺の肩を枕に寝息を立てていた。
(…いつの間に?)
全然、気がつかなかった。しかしまあ、よく寝てるな。頬に落ちる睫毛の影が長い。カイトの普段の喜怒哀楽に忙しい表情からは想像もつかない程、整った顔に黙ってりゃ、そう言えば美形の部類に入るのだということを思い出して笑ってしまう。その僅かな動きに、カイトの頭がずるっと肩を滑り落ちる。
「…っと!」
慌て、ソファから体が落ちないように腕を掴む。それと同時にカイトの頭が俺の膝に落ちた。
「………」
その衝撃に流石に起きると思ったが、そんなことでは目は開かぬ程、熟睡しているのか。カイトは僅かに身じろぎしたかと思うと、また寝息を立て始めた。
「…動けねぇな…」
叩き起こせばいいんだろうが、気持ちよさそうに眠っている相手にそれは出来かねた。
「…仕方ないか…」
膝に抱いた猫でも撫でるようなつもりで、カイトの頭を撫でる。撫でられるのが心地よいのか、カイトの顔が緩む。指の間をするすると落ちていく癖のない髪の感触は指ざわりがいい。風呂に毎日入れと躾けた甲斐があったな。…そう思ってる間に俺の目蓋も重くなった。









「…ふぇっ?」


目を開けるとあたりはかなり薄暗い。暗さに目が慣れなくて、何度か瞬く。そして、自分の真上にマスターの顔があるのに気がついて、擬似心臓が跳ね上がる。
(…えっ、何がどうなってるの!?)
状況判断しようとメモリーを手繰るけれど、こうなった経緯のデータは見つからなかった。
(…なんか、熟睡しちゃったみたいだな…)
そう思いながら、真上にあるマスターの顔を見つめる。
(…マスターも熟睡してるな…)
そっと手を伸ばす。頬を撫でると、マスターの目蓋がひくりと震え、慌てて僕は手を引っ込めた。
「…っん…、あー」
欠伸をひとつ。ぐっと腕を上げたマスターが伸びをして、僕に気付いた。それに体が硬直してしまう。
「…カイト、」
「…は、はい」
何か言われる…勝手に触れたことを怒られるだろうか…何を言われるのか解らなくて、ただただ、緊張に体を縮込ませていると、マスターが次の言葉を発するのと同時にお腹の鳴る音がした。
「…腹、減った」
その音はマスターのお腹からだ。それに強張りがへにゃりと緩む。
「…そうですね。もう、夕飯の時間ですし」
「昼飯、食い忘れたしな」
「呼んでるのに、生返事ばっかりするからですよ。もう」
僕は離れがたく思いながらも、体を起こした。
「お昼の分が残ってますから、それでよければ直ぐに準備できますけど」
「それでいい。…腹減って、それと足が痺れて、感覚がねぇ」
僕が点けた明かりにマスターが眩しそうに瞬き、顔を顰めた。
「…ごめんなさい…マスターを枕にしちゃうなんて…」
「いや、別にいいけど。お前に風呂入れって、口酸っぱく躾けた甲斐があったと実感できたしな」
「?」
意味が解らず首を傾げると、マスターは笑って、僕の頭をくしゃりと撫でたのだった。




オワリ