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カイトとマスターの日常小話

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黄色いお月様






 三月に入り、気温も上がってきて、早いところでは桜もほころび始めたけれど、朝晩は少し、冷える。冷たい水で顔を洗って、朝ごはんを作るべくキッチンに入ると、ふわりと卵を焼くいい匂いがする。
「お早う」
卵の匂いと一緒にマスターの声。僕は目を見開いた。
「…え?!」
キッチンにはマスターがいて、オムレツを作っていた。いつも、八時過ぎ…早いときでも八時前に起きてくるマスターが起きてる。…一瞬、僕は自分が寝坊したのかと思い、壁の時計を見やった。壁の時計は間違いなく七時前だ。
「どうしたんですか?」
おはようのあいさつをすっ飛ばして、そう訊ねる。フライパンの中でオムレツが宙を舞う。
「んー?」
「マスターがこんな時間に起きてくるなんて」
「今日はたまたま、早く、目が覚めたんだよ。…カイト、皿取って」
言われるがままに皿を取る。ふんわりしたオムレツにちょっとだけ感動する。…僕が作ると何故かふわふわにならなくって、卵焼きかスクランブルエッグになっちゃうんだよね、オムレツ…。
「そうですか。後、僕、やりますよ」
「いや、もう終わる。お前はコーヒー淹れといてくれ。今日は昨日買ってきたパンを食うから」
「はーい」
コーヒーと言っても、インスタントをスプーン一杯すくって、カップにお湯を注いで出来上がりだ。僕は自分用にカップに牛乳を注いで、レンジで温める。それに砂糖とコーヒーの粉を入れれば出来上がりだ。…それにしても、年に二回あるかないかの洋風な朝ごはんだ。
「んじゃ、飯にすっか」
テーブルには卵とキャベツのベーコンスープにレタスとハム、ポテトサラダを挟んだロールパンが二つ。そして、オムレツが並んだ。
「…マスターが作った朝ごはん食べるの、久しぶりです」
「…だな。俺も久しぶりにオムレツとか作った」
オムレツの中身は、たまねぎとチーズ。…ああ、おいしい。僕のアイス以外に好きな食べ物のひとつだ。
「マスターが会社にまだ行ってる頃に作ってくれましたよね」
「だったか?」
「…はい。初めて食べたごはんですから、良く覚えてますよ」
あのときの僕はアイスさえ食べれたらいいと思っていたけれど、マスターが作ってくれたものを一緒に食べて考えが変わった。アイス以外にもおいしいものがあるんだってことを知った。でも、それはマスターと一緒に食べるからこその、『おいしい』で。ラップをかけられて準備されたご飯をひとりで食べてもおいしいって思えなかった。
「そうだったか?」
「はい。アイスが食えるんだから、飯も食えってマスターが言って、作ってくれたのがオムレツでしたよ」
「アイスばっかり食ってたら、栄養が偏るだろーが」
「僕はボーカロイドなので、栄養はとる必要はないんですけど」
「…って、あんときもお前、そう言ったな」
「でした。でも、栄養とってるかもしれないです」
身体のためじゃなくて、違う意味での栄養だけれど。マスターには解るかな?
「摂れてんだったら良かったんじゃね?…心なしか、成長した気がするし」
マスターは決して、僕をロボット扱いしないし、そんな言葉は絶対、口にしない。反対に僕が自分のことをロボットだからと言うと酷く悲しそうな厭な顔をする。そんな顔は見たくはないし、だから僕も自分がそうだということを忘れていることが多い。
「本当ですか?どのへんが?」
成長してると言われて嬉しくて、身を乗り出す。マスターは勢いに押されたかのように顎を引いた。
「…んー。料理が出来るようになった?」
「それは、僕の分はちゃんとしたものを出すくせに、自分はいい加減な食事でマスターが済ませようとするからです」
「…むぅ…」
「他には?」
「片づけが上手になった!」
「…誰かさんがすぐに散らかして、それを片付けないからですよ。僕がやらなきゃ、ずっとそのままじゃないですか」
「…むむう」
マスターは返す言葉もないみたいだ。
「…もう。もっと、他にないんですか?」
半ば強請ると、マスターは言葉に詰まり、何やら言い辛そうに口を開いた。


「…歌に感情が籠もるようになった。お陰で最近は作業を妨害されて困る…」


小声でごにょりとマスターはそう言うと、ぐーっとコーヒーを飲み干して、席を立った。
「仕事する!!」
マスターがダイニングを出て行くのを慌てて追いかけて、後ろから抱きつく。嬉しい。どうしよう…すごく、嬉しい!!マスターが歌を褒めてくれた。
「抱きつくな、何だ!?」
抱きつかれたマスターがそう怒るけど、マスター、耳、真っ赤ですよ?


「…マスター、大好き!!」


僕の歌に感情が籠もっているとするなら、それはマスターのお陰だ。マスターがいなければ僕は歌うことも出来ないお人形さんと一緒だから。
「…解ってんだよ…そんなことは…。…って言うか、早く飯を食え」
ぐいっと押されて、剥がされる。むう。


 仕方なくテーブルに戻って、冷めたオムレツを口にする。冷めていてもそれはとても美味しかった。





オワリ