二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

カイトとマスターの日常小話

INDEX|40ページ/54ページ|

次のページ前のページ
 

黄昏色したキャンディ





 キッチンの小さな窓から見えるのは、オレンジ色に空を染めて沈む、太陽。


 世界の終わりは見たくはないけれど、きっとこんな色をしているのかもしれない。
 黄昏に沈む太陽を眺め、オレンジ味の飴玉みたいだと思う。世界の終わりに飴玉のように溶けたそれを口に含んだのならきっと甘くて美味しいのだろう。そんな世界の終わりなら怖くないかもしれない。そう思いながら、お茶を入れなおしてリビングに戻るとマスターはディスクをケースに仕舞ったところだった。
 その隣に座って、カップを置くとマスターが顔を上げた。


「…もしも、世界が明日終わってしまうとしたら、マスターはどうしますか?」


昼下がり。こたつに浸かりながら、マスターが借りてきたDVDを一緒に観た。映画の内容は地球に隕石が接近し、このままだと地球が消滅してしまう。それを阻止するために色んな人たちが頑張ってそれをどうにかしようと奮闘し、最後には努力の甲斐あって、隕石の軌道を逸らすことに成功する…と言う話だった。世界が消滅する…最期だからと好きなことをするひと、教会で神様に祈る人、好きなものを貪るように食べようとする人…映画には色んな人々がその日を生きていた。地球が無くなってしまうなんて、考えたこともなかったから映画は僕にとって衝撃的だった。…そして、隣で画面を見つめるマスターはその最期の日が来たらどうするのだろうと思って口から出た言葉だった。
「世界が明日終わってしまうとしたら?」
「映画、見てたら、マスターだったらどうするのかと思って」
マスターは考えるまでもないのか、
「どうもしない。いつも通りだろ」
と言って、カップのコーヒーを啜った。
「いつも通りって、最後なのに?」
マスターの言葉が僕の考えていたものと違っていて、僕は首を傾けた。
「慌てたって、最後には変わりないだろ。…でもまあ、前日に食ったことのない高級食材で最後の晩餐ってのもいいかもしれないな」
何を食べたい?なんて、訊いてくるマスターに眉を寄せる。
「…マスター、僕は真面目に訊いてるんですけど」
本当の本当に最期の日が来たら、マスターはどうするんですか?僕の知らない誰かとその時が来るまで一緒に過ごすんですか?


 そこに、僕はいますか?


…なんて、怖くて訊けない。勝手に服の裾を掴んで強張る指先をじっと見つめる。マスターが口を開いた。


「…でもまあ、終わるその瞬間までお前が隣にいて、お前の歌が聴けるなら、幸せな最期かもな」


視線を上げて、自分を見つめるその目を見つめる。目尻に僅かに浮かぶ皺。マスターの口元に浮かべる笑みはいつだって優しい。僕の欲しい言葉を簡単にいつも与えてくれるのだ。このひとは…。


「…カイト、お前は…?」


どうするんだ?…と、向けられた視線に嬉しくなる。マスターは僕の意思も尊重してくれようとする。
僕の答えはもうとっくに決まってる。
「僕、最期の瞬間もマスターのそばにいてもいいんですね」
「他に行くとこあんなら、そっちに行ってもいいぞ」
「何、言ってるんですか。僕の居場所はマスターの隣です。他に行くとこなんてありません」
地球が終わる日なんて出来れば来て欲しくないけれど、もしその時が来たならマスターの大好きな曲をオレンジ色の飴玉を一緒に舐めながら、歌ってあげよう。


 幸せな気持ちに包まれて、マスターにくっつく。その隣はいつもと同じでとても温かかった。




オワリ