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For one Reason

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Phase13.狩猟



「・・・おはよう、ございます」
 寝室から出てきた月を一瞥し、真紀は微笑んで頭を下げた。
「お勤めご苦労様です。ベッドの種類を変えたら少しは良くなるかも?」
「そこまで見てたんですか!?」
 絶叫した月に笑って、真紀は寝室の中へ首を突っ込む。シーツ一枚引っかぶった状態のLがゆっくりと半身を起こすところだった。
「おはようございます竜崎」
「あ・・・おはよう、ござい、ます?」
「ハネムーンは一時中断、仕事です。とっとときやがれ」
 笑顔で脅されてLはしぶしぶ起き上がる。素っ裸の彼に真紀は丸めた服を投げつける。しかしLはそれを受け止めることもせずにぱふりと床に落とした。
「落ちました」
「・・・月君に着せてもらってください」
「わかりました! 月くーん!」
 楽しそうに名前を呼ばれたが、月は部屋に戻ってきてくれない。シーツに包まって月くーんと呼ぶLがとってもアホの子にしか見えないのだが、多分事実もそうだと思われる。
「らいとくーん」
「うるさい」
「服・・・服を着せてくれないと外に出れません」
 調査ができません、と言ったLがぐずぐずしてたが、それは業を煮やして部屋に入ってきた月の姿を認めて目を輝かせた。
「月君!」
「着ろ! 自分で!!」
「着せてください」
「自分で!」
 僕の言ったことが聞こえなかったのか、と怒り心頭の月に怒鳴られて、Lはしぶしぶといった様子で床に落ちた服を摘み上げる。上着だったので手を通そうとする。
「・・・大きいですね」
「そこは頭を通すところだ! こら、左手を右手のところに入れている! ああもうっ、どうやって前後逆に着れるんだ!」
 我慢ならなくなったらしく、結局月は手を出してしまう。結局満足そうな顔のLにいいようにされたというか、駄々っ子の欲求に答えてしまったというか。
「月君!」
「今度は、なに」
「髭をそってください」
「それこそ自分でやれ!」
 絶叫する月の声を背後に聞きながら、無人のモニタールームで真紀はスクリーンに流れるように表示されるデーターを流し見つつ、肘をついてた。
「ねえ、ドット」
『なんだ』
「私は正しいことをしたのかしら」
『珍しい。お前はいつも自分の欲求に素直だ』
「ええ。素直よ」
 スクリーンの名前をなぞる。それは今までにキラ事件の被害者と呼ばれた人の名。実際はここにあるよりも多い。月のノートを見たから知っている。
「私はデスノートを世界を変えるためになんか使わない。私はデスノートを人々のためになんか使わない。夜神月はすばらしい青年だったわ」
 彼は、とその中のひとつの名前に指を滑らせて薄く笑った。
「彼はすばらしい「キラ」だった――今でもあなたにとってはそうなのかしら、L」
 背後に無音で佇んでいたLはぺたぺたと部屋の中に入ってくる。片手には剃刀を持っているので、おそらく自分でなんとかしろと月に言われたのだろう。めんどくさそうにそれをぐるぐる指先で回しながら、Lは背後からスクリーンを覗き込む。止まっている指の先の名前を見てからどげしと顎を真紀の肩の上に乗せる。
「彼は世界の平和のために少数を切り捨てる選択をし、積極的にその罪を自らのものとした」
呟かれた声は低い。
「彼は高潔な堕ちた神、しかし天界への生還を期待しない」
そうね、と真紀は相槌を打つ。
「彼は高位の存在が地球へ落とした最後の希望」
「・・・希望、ですか」
「希望は時として絶望になるでしょう。あなたの追っていた「キラ」はまさにそれだった」
「けれど私は逃しました」
「そう、そして彼は二度と戻らない」
 戻りませんか、とのLの呟きに戻るわけがないじゃない、と真紀は軽く返した。
「人と交わった神はすでに神ではない。その神聖は汚された」
「・・・そうしたらもう、神にはならない?」
 ええ、と真紀は答えてスイッチを幾つか切り替えてスクリーンに監視カメラの画像を映す。先ほどまでLと月がもめていた部屋の中では、散らばった衣類を集める月の姿があった。
 丁寧に拾って、一枚ずつ畳む。そんなことをしていた彼の視線がある一点へと向かう。それはベッドサイドに投げ出されるようにしておかれた手錠。すでにいらないモノ。月の自由を奪いLとつなげていたもの。
 月はその手錠を手にする。
「神は人に恋をした」
 静かに真紀が呟く中、月は軽く手錠を傾けてその先に口付ける。
「恋人を失わない限り、神は神に戻らない」
 無言のLをすり抜けて、ドットは真紀の顔を覗き込む。
『訪問者がいるぞ』
 答えるべく真紀はスイッチを弾く。月の姿が消えて、基地となっている部屋の入口が映った。
「ああ、きました」
 不審者二名を確認して、Lはのっそりと立ちあがる。
「アイバーとウェディです」
「言ってた助っ人ね」
「はい」
 私は出迎えてきます、とLはぺたぺたと部屋を出て行く。コントロールパネルの上に忘れられた剃刀がおきっぱなしになっていたので、真紀は出て行く彼の背中向かって投げつけた。


「じゃあ、頑張ってね、ミサミサ」
「はぁーい、いってきまーす!」
 マネージャースマイルで海砂に声をかけて、真紀はソファーに座ることなく行動を開始する。ドットはある程度自由に動けるし大抵の「死神のモラル」は愉快犯かつ確信犯で無視してくれるが、真紀から遠く離れることはできない。
 これからあることをするためには、なんとしてもレムへ接触しなくてはいけない。つまり真紀がするにせよドットがするにせよ、ある程度は動かなくてはいけないのだ。
「よし、と。これでどう見てもヨツバ社員ね」
『・・・どうだか』
 ドットのいささか不安になる同意をもらい、真紀は行動を開始する。海砂の面接が行われる部屋はわからないが何階かはわかっている。レムが海砂と接触する可能性がある場所といえば、面接室の外だ。
「この階ね。頼んだわ」
『わかった』
 するりとドットは壁を抜けていく。死神センサーという便利なものはないので、一室一室確認していく。その部屋はよりによって一番奥の突き当たりだった。
『・・・』
 レムが驚いたような顔をする。ドットはくいくいと指を動かして彼女を誘った。
『何でお前がここに』
 壁を通り抜け外に出てきたレムにドットは伝える。
『ドット、真紀からの伝言だ』
『なんだ』
『「海砂とは接触するな。彼女には死神もデスノートも関わらせない。彼女がデスノートのことを思い出したら、また寿命が半減する」・・・だ』
『海砂・・・確かに、海砂は夜神月のためならば寿命を半分にしかねない・・・』
 悪いようにはしない、とドットは頷いた。
『真紀は夜神月の策を切り崩した』
『負けたのか、夜神月が』
『そうだ』
『・・・わかった、海砂にはもう接触しない。彼女の寿命が減ることは本意ではない。今のキラはどうする』
『さあ』
 肩をすくめる仕草をして見せたドットに、レムも軽く肩をすくめる。そんな彼女の体を通過するようにすっと海砂が外へと出てきた。もちろん彼女は何も見えていない。
『海砂・・・』
 レムはそう呟いた。聞こえてはいないだろうが。それでもいいだろう、レムの望みは海砂が自分と過ごすことではない、彼女が寿命の限り生きることだ。
作品名:For one Reason 作家名:亜沙木