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ハーモニクス(7/18 青春カップ2発行本サンプル)

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2・涼野風介


朝早い便の飛行機は、ぽつぽつと席が空いていた。座席に着席してしばらくすると、シートベルトを締めさせられて、離陸の態勢にそなえるよう機械的な声でアナウンスがかかる。離陸する瞬間の体が椅子に押し付けられ、ついで浮かび上がるような感覚は、何度あじわっても妙なものだ。向こうの空港には二時間もかからずに到着するという。

空路を使うこと自体は珍しくなかったが、面倒くさい搭乗手続きと待ち時間を経なければ移動ができないことには閉口した。そもそも民間の乗り物で移動するということが、今まで極端に少なかったからだ。いままで私たちの主な移動手段は、使用者が限定された車や自家用機であり、通信手段はどこのキャリアの物でもないオリジナルの、市販のものより格段に性能がいい携帯端末だった。そういうものが一切なくなったので、私は電車に乗るためのカードを自分で買って、飛行機のチケットを取ってもらう。

備えつけのヘッドフォンをかぶり、しばらく目の前にあったタッチパネル式の液晶画面をいじくっていたが、映画にも音楽にもあまり興味はもてなかった。ボリュームをしぼった静かな音楽を適当に流し、リクライニングを少しだけ倒して目をつむる。数十分ほどすると、機内に再びアナウンスが流れた。左手側の窓から富士山が見えます、というものだ。

富士山。私は閉じていたまぶたをうっすら上げて、間に席をひとつ挟んだ丸い小窓の方へ首を傾ける。窓際の席で韓国語の機内誌をぱらぱらめくっていた亜風炉は、私が窓の外を眺めていることに気づくと外が見えやすいように体を引いた。

「富士山が見たいの? 今日はよく晴れているし、時間が早くて空気も澄んでいるからきっとよく見えるよ。窓側を譲ればよかったな」

そう言われて別にと呟くが、視線は自然と小窓の向こうをさまよっている。気がつけば、先ほどまでさして面白くもなさそうに携帯ゲーム機で遊んでいた南雲も手をとめ、通路側の席から窓の外を横目でうかがっていた。
 私は身を乗り出して眼下の景色をのぞきこむのが、急におっくうになった。そこまでする必要はないと思ったのだった。

「どいてくれなくてもいいよ。アナウンスがかかったから、少し気になっただけなんだ。ありがとう」
「そう? それならいいけど」

私は首を戻し、背もたれに体を預けなおす。富士を見つけた人たちの小声のささやきが、狭い機内のあちらこちらから聞こえる。日本人は富士が好きだ。国内最高峰の伝統的な山として愛着をもっている。私は日本人として富士に思うところは特にないけれど、別の意味で印象深い場所であることは確かだった。

私たちはついこのあいだまで、その山の裾野に広がる樹海の中に身をひそめていた。私たちが暮らす家は、樹海の中へ巧妙に隠された巨大な基地施設だった。爆破されてしまった今では、きっと残骸しか残ってはいないだろう。立ち入り禁止区域になっているから、その残骸すらももう見に行くことはかなわない。

私が最後にその施設を目にしたのは、そこを自ら出ていく直前のことだった。グランのチームが正式にジェネシスに選ばれた後、父の采配に納得がいかなかった私とバーンは、彼に対抗するためメンバー混合チームを作って雷門に試合を挑んだ。その試合すら、割って入ったグランに身勝手だと咎められ、謹慎処分の扱いを受けたとき、私はそれ以上そこにいる意味が見出せなくなった。黙って従っていてもどうせ認められないのならば、認めさせるための手段は自分で講じなければならない。そしてそこにいても練習が許されない以上、施設を出て行くほかなかった。それは失望ではなく、挑戦だった。

私の考えは完全に個人的なものだったので、当初私はひとりで行動するつもりだった。でも、私の計画に勘づいたチームメイトたちは一緒に行くと言ってきかなかった。捕まって連れ戻されれば処罰の対象になることは明白だったのに、そういうことをいとわずについてきた。その時点ではまだ、私はダイヤモンドダストというチームのキャプテンだった。権威を失っても、チームを失ってはいなかったのだ。

私はチームメイトたちと共にこっそり基地を抜け出した。計画の仕上げ段階を迎え、グランもそれどころではなかったのか、また引き止める気がろくになかったのか、どちらにせよ警備は手薄で、私たちはたやすく外へ出ていくことができた。樹海の中にはもう使われていない小さな練習施設がいくつか点在していたから、そこを拠点に練習したり、倉庫に余っていた保存食料を補給したりしながら、いられるだけしのごうと私は思っていた。先のない無茶な計画ではあったが、私たちには他に行くあてがなかった。

しかし結局、出ていったほとんど直後に私たちは捕まることになる。父さんの意を受けたグランにではない。警察にだ。いくつかあった練習施設の全てを張っていた警察に、あっという間に捕まって全員保護されてしまった。

意味がわからず呆然とする私たちはいくつかのグループに分けられてヘリに積まれ、矢継ぎばやの質問を浴びながら、ジェネシスが敗北したことと、父さんの計画が頓挫したことを知った。信じられなかった。何よりも、グランたちが負けたというそのことが。グランの力は冷酷なまでに絶対で、私は最後まで、あらゆる意味でグラン以上に自分のことを認めさせることができなかった。だからこそ、自分の意思で施設を出ていった。それはバーンも同じことだったのだろう。彼もまた、プロミネンスのメンバーを引き連れて私たちより先に基地から出ていっていたのだから。

地上に下ろされたあと、さらに車で搬送される頃には、私たちにもおおよその事態は把握できていた。ジェネシスは雷門に、全国中継のもと公然と敗北した。父さんの計画は悪事として明るみに出て、父さんは自分のしてきたことを罪だと認めた。私たちは計画に巻き込まれた被害者の子供たちとして、彼ら警察に保護されようとしている。つまりはそういうことだった。私たちがいかにそれを信じないと思っても、事実はゆるぎなくそこにあった。病院で簡単な検査と問診を受け、一夜明けたのちに警察署へ連れていかれた私たちは、そこで事実を裏付けるように生気のない顔のジェネシスメンバーたちを目にした。彼らの多くは与えられた椅子にぐったり座りこみ、あるいは壁にもたれて、腫れたまぶたで床や虚空を見つめていた。

私はチームのキャプテンということで、チームのメンバーとはわけられ、別室へ連れていかれた。通された部屋では、大判の地図が広げられた机のそばに座ったグランが、大人たちと何かを話していた。私の姿をみとめたグランは少しだけ目線を上げたが、特に話しかけてはこなかった。きみもおいで、とグランの脇に呼ばれた私は、やはり様々な質問を向けられた。情報の入手というよりは、私たちがどれだけのことを知っているのか確認の意味もあったのだろう。ジェネシス計画の内容から基地内の様子、練習風景、営んでいた生活のことまで。