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Second to None 前編

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第2話


「おはよう、菊…どうした?新しいプラグ合わなかったかい?」

昨日いきなり私の充電器が壊れた。いつもと同じく夜、アルフレッドさんが寝静まってから充電しようと思いプラグを差しても電力が来なく、仕方ないので朝までは省電力に切り替え、朝アルフレッドさんが起きてから修理してもらいお昼過ぎた今、漸くいつもの調子に戻った。が何故かいつもより多く充電してしまったようで、足元が覚束ずフラフラ。視界もどこか回っているような。私はゆっくりと歩くと、ベッドに座っていたアルフレッドさんの横にポスンと座る。

(大丈夫です、多分)

いつも持ち歩いているメモにそう書くと、アルフレッドさんはそうかと言って私の肩を抱いてきた。ふと見れば、アルフレッドさんの膝の上には開かれたアルバム。思わず覗き込んだ。少し幼い、アルフレッドさんがこっちを見ている。私の記憶には無い眼鏡、見慣れない白衣、知らない場所。黙ったままそこに視線を落としていると、横からアルフレッドさんの声がした。

「僕のこと、知りたいかい?」

私は思わず何度も頷いた。


***


「今はフリーだけど、昔は大学の教授のコネを使って、ある研究所に居たんだ」

アルフレッドさんはまるでおとぎ話を子どもに読み聞かせる母親のような口調で、過去の話を聞かせてくれた。私はそんなアルフレッドさんに違和感を覚える。アルフレッドさんは、そんなに年ではない。けれど写真に映るアルフレッドさんは幼くはない。だから精々さかのぼったとしても十年ぐらいの話なのに、それ以上の遠い昔を話しているような素振りだった。本当は、私に触れたくない何かがある、気がした。

「楽しかったぞ。研究理念に合うならどんな事だって実験させてもらえた。研究所で一緒に働いていた仲間も愉快な人ばっかりで、アーサー、あ、この写真に写ってる彼なんて自分の手で一から妖精を作り出す研究とかしてたんだぞ。今この研究所出て思うけど、あの頃はわけわかんないことをしていてもそれに見合わないほどたくさんの給料も貰えていた。だから当時はお金を稼ぐということが、全然分かって居なかった。あそこを飛び出して、始めて気づいた…俺は世間知らずだった」
(どうして、研究所を飛び出したんですか?)
「…わからない、でも後悔はしていないよ」

私は、嘘だと思った。アルフレッドさんは後悔をしていると思った。そういう顔をしていた。それにアルフレッドさんがアーサーさんという方の話をしていた時のあの表情。とても穏やかな顔をして、そしてどこか寂しげで。

(アーサーさんのこと、好きだったんですか?)
「アーサーは男だぞ」
(好きだったんですか?)

触れてはいけないタブーだと理解していての行動。アルフレッドさんは戸惑っていた。それでも私はアルフレッドさんから昔の話を聞かせてくれたのだから、きっと聞いても大丈夫だという結論に至った。私が答えを求める視線を送っていると、アルフレッドさんもすぐに観念したようで、わかった話すよ、と言ってくれた。何だか強引だったことが心残りではあるが、その時はどうしても聞いておきたかった。

「好きか嫌いか、と聞かれるなら、多分好きだった。でも恋愛感情は無い。それに俺は、最初から君のことしか見えていなかったんだぞ」

最初からとは?とメモに走り書きをしていた時、珍しく電話が鳴った。アルフレッドさんは部屋を出て行く。いつの間にか閉じられたアルバム、もう片付けてもいいだろうか。本棚を見ればあのアルバムがどこに収まっていたのか、すぐにわかった。私はメモとペンを置いて、アルバムを抱えて本棚に入れようとした。その時、何かがアルバムから落ちる。ひらりひらり、一枚の写真のようだ。私はアルバムをしまうのを止めて、落ちた写真を拾う。どこから抜けてしまったのだろう、元の場所に収めなければ。だが写真の表を見て、固まった。

(誰?)

アルフレッドさんの声がかすかに聞こえる、話している内容まではわからない程度の声。私は写真を見る。おかしい、そこに写っているのは明らかに私であるのに、記憶には無かった。エプロンをして、花を抱えている。その後ろに写っている風景から察するに、どうやらどこかの花屋さんで働いているらしかった。けれど私は目覚めてからずっと、働いたことなどない、なのにどうしてか写真の中の私が抱えている花の名前を知っている気がした。

「菊?」

いつの間にか戻ってきたアルフレッドさんが、私に問いかける。私は置いたメモに一行書いて、写真と一緒にアルフレッドさんに差し出した。

(Who is he?)
「それは君だぞ」
答えがあまりにもあっさり返ってきたことに、驚き。そして知らない私が居たことに、戸惑った。


***


「そうだ、菊。実は君にプレゼントがあるんだぞ」

知らない私を知って、一週間も経たない頃。ある夜、アルフレッドさんは私に言った。

(どんな部品ですか?)
「部品だなんて言ってないぞ」
(ここ最近研究室に篭りっぱなしだったから、てっきり)
「…あ、うーん」
(新しい部品、なのでしょう?)
「うん、でもそれが何かは明日の朝までのお楽しみだぞ!」
そして晩ご飯が終わり、後片付けを一緒にして、それからアルフレッドさんが部品を取り付けてくれることになった。私は電源を落とされて、明朝九時に起動するようにタイマーをかけると説明をしてくれた。私は明日の朝が楽しみで仕方ないまま瞼を閉じた。

「菊」

それが最後に聞いた、アルフレッドさんの声だった。


***


「やあ、アーサー!良かった、君が今もここに暮らしていてくれて!」
「あ、アルフレッド!おまえ、いきなり、てかどこ行ってたんだ!三年も行方不明になったと思ったら、いきなり先月メール送ってきやがって、だいたいなおまえはいつも!」
「それより寝かせてくれないか、長旅だったんだぞ…」
「おい、その前に一つだけ聞かせろ」
「何だい?」
「メールに書いてあった、アンドロイドの話、本当か?」
「うん、もちろん、今俺の家に居るぞ」
「おまえ!何したかわかってるのか!アンドロイドは禁忌だってわかってるだろう!」
「あれ、アーサーにあげる」
「…はあ?」
「だから、アーサーにあげる」


作品名:Second to None 前編 作家名:こまり