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APHログまとめ(朝受け中心)

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交わらない感情交差点(フランシスとアーサー)



 アントーニョにとって、酒とはとにかく明るく陽気に騒がしく呑んでなんぼのものである。
 アルコールで気分が高揚するのは気持ちがいいし、上昇する体温も嫌いではない。まるで血が騒いでいるような気がして、これも気分を高揚させる。

「ハッ! なんだよ、おしとやかならなんでもいいって!? お上品なお嬢さんは午後のティータイムのお相手で十分だな。夜にまで上品ぶられちゃたまんねーよ」
「お前こそ欲望丸見えでどうかと思うね。身体だけあればいい訳?」
「そういう思考に行き着く辺りでお前も同類だろ」
「あ、坊ちゃん今知らずに自分のこと肯定したよね。やっぱりエロ大使は開き直りもお見事なもので」
「んだとこの顎髭ワイン野郎! ワイン樽に沈めるぞ!」

 確かにこのテーブルは騒がしい。
 ドン、と力いっぱいテーブルを叩いた童顔の青年は、アルコールと怒りで顔は真っ赤だし、それを煽るまばゆい金髪の悪友もけらけらと笑いっぱなしである。
 男というのは呑めばだいたい自慢話になるか下世話な話題にしかならない。どちらか一方ならば、場の雰囲気ももう少しマシなものになっているだろう。
 最悪なことにアントーニョが座るテーブルの話題は、その両方を兼ねていた。

 仕事も一段落し、休日だから呑もう、とフランシスが誘ってきた。特に断る理由もなかったアントーニョはその誘いに乗った。
 その時点でアントーニョは、フランシスの恋愛変遷に付き合わされるのだろうな、とある程度は覚悟していた。
 フランシスは恋多き男だ。恋というよりは、人生の楽しみそのものが多いのかもしれない。
 長年付き合いのあるアントーニョは、今更彼が惚れた腫れた振られただの騒いだところでさして気にも留めていない。
 構うだけ無駄だし、フランシス本人も軽く流されてもいいと思っている。こういう言い方は適切とは言い難いが、彼の恋沙汰に関する話題は、話が途切れたときに使う繋ぎのような一過性のものだ。
 話題がなくなったら、天気ではなくフランシスの恋沙汰を聞けばいい。それくらい軽い扱いのものだった。
 この晩も例に漏れず、ある程度話題が尽きたところでフランシスの今の恋人の話になった。
 自分達“国”は、一般人と軽い気持ちで恋仲にはなれない。生きている時間、考える単位が違う。それはつまり価値観の擦れ違いだ。
 遊びとはいかなくても、割り切った上で恋をする。他の国は、それほど頻繁に恋人を作ったり別れたりしない。傷は誰にとっても怖い。愛する人と、どんな形であれ別れるときが来る。一途に相手を想えばこそ、自分の立場が憎く悲しい。
 器用ではない国は、滅多に恋をしない。国同士ならまだしも、一般人と同じように出会いと別れを繰り返すフランシスは異常だった。
 一般人が映画や小説にロマンを求めるように、国にとってはフランシスの恋沙汰がそれに当て嵌まった。もしも自分なら、と起きもしない奇跡を思い描いて誰もがフランシスの話を聞く。
 アントーニョもフランシスの話を受け流しつつも、どこかで彼の話に自分を重ねていた。自分ならば、と届きもしない幻想をアルコールに溶けた頭で掻き集める。

「へえ、今の恋人さんは茶髪? ロヴィーノみたいな?」
「あー、あれよりはちょっと暗い色。あと瞳も黒っぽいし」
「また地味な子選んだなぁ」
「大人しくて品ある子がタイプなんだよ」

 ふふん、と鼻で笑うフランシスはぐいとグラスを煽った。へえ、とアントーニョも気のない返事をしつつ自分の酒を味わう。
 フランシスは金髪碧眼で、背丈もかなりある美丈夫である。道行く女性は誰もが熱い眼差しで彼を見るし、同性であっても羨望と嫉妬の混ざった複雑な顔をすることが多い。
 彼の好きなタイプも、同じように華のあるタイプかと思えばそうでもない。だいたいが茶髪や赤毛、たまに黒髪など、割と地味な容姿の人間が多い。瞳の色も似たようなものだ。
 アントーニョは最初、自分を引き立てるためにそういった相手を選んでいるのだと思った。なんだかんだ言いつつも、フランシスは自分の容姿に絶対的な自信を持っている。だからこそ、あれほど堂々と誰もが憧れる美しさが引き立つのだろう。
 そんなことを言えば、フランシスは心外だと眉を吊り上げた。
 自分にはないものを持っているからこそ、相手が羨ましく好きになれるのだと言う。

「……嘘くさ」
「なんか言ったか?」
「んー? 何にも言ってへんよ」

 一旦区切るように、アントーニョはまたグラスに口をつける。
 フランシスの物言いは全て演技じみているのだ。容姿が整っているから余計そう感じるのかもしれないが、漁夫の利を得意とする男が言うには綺麗過ぎる。
 フランシスの片戀の話を聞いたのは一度だけだ。話といっても独り言の延長線がぽろりと途切れて落ちたようなものだ。
 ただフランシスが内心を吐露することは珍しく、余計アントーニョの心に残る結果となってしまった。
 その時の話からすると、フランシスの言うタイプと彼の片戀の相手は真逆だ。そしてアントーニョはその相手が誰か、大方予想できる。

「ほんま、アーサーとは何もかも正反対やなぁ」

 アーサーの名を出せば、フランシスはみるみる顔を顰めた。自分で口にしておいて何だが、アントーニョ自身も言っていてあまりいい気分になる名ではない。
 アーサー・カークランド。フランシスとは違った意味で何かと目立つ人物である。くすんだ金髪、鮮やかな新緑の瞳、建前上の態度は品のある紳士を気取っているが、口を開けばスラング量産機の海賊紳士。
 つまり、フランシスが惚れる人間とは真逆に位置する人物である。
 そしてまた、フランシスと同じくらい恋沙汰の話題が多い。フランシスの場合は、それこそ恋愛映画のような美しい一場面が描かれるようなものだが、アーサーはここでもフランシスと異なる。
 フランシスから「エロ大使」の名を奪うほどだ。健全な青少年には刺激の強すぎる恋愛経験を持つ。

「向こうは金髪に青いお目の姉ちゃんやろ? 胸とかすごいらしいやん」

 フランシスは更に顔を歪めた。明らかに拒絶を示している。
 それはフランシス自身が付き合うならアウトなのか、それともそんな女を選ぶアーサーが信じられないのか。アントーニョには判断がつかない。
 アントーニョたちと同じ国であるアーサーの恋人を姉ちゃん、と呼ぶのはどうにも違和感がある。いくら童顔でも、アーサーと人ならば当然アーサーの方が年上である。
 しかし噂に聞く妖艶な美女とアーサーが並べば、外見上はアーサーの方が年下に見えるだろう。そう思うと何となく、アーサーが美女に押し倒されている構図が想像される。
 フランシスもアントーニョと同じことを思ったらしい。二人で顔を見合わせ、同じタイミングで逸らした。

「いやいや有り得ねーって」
「そうやなぁ……いくらなんでも、あのアーサーが大人しく女に押し倒される訳ないもん」

 荒れに荒れていた海賊時代を知る身としては、アーサーが女に好きなようにやらせるとは思えない。口にするのも憚れるような情交をしていそうだ。
 話題に出してから、アーサーの話題はフランシスにとって禁句だった、と遅すぎる後悔が押し寄せた。