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鉄のラインバレルログまとめ(森次受中心)

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ハロー、グッバイ(パラレル・早瀬と森次)



※街の様子はアニメ設定っぽい
・森次→JUDA(普通に医療器具メーカー)の開発部社員
・早瀬→普通の中学三年生
・マキナとかアルマとかいないっぽいよ
・ノリとかテンションは「週末」「休日」に近い






 履き潰したスニーカーを爪先に引っ掛けて家を出る。緩やかな丘陵の住宅街、その中程。早瀬の家はちょうど下りに差し掛かるところにあった。

「行ってきます!」

 自転車に跨がり、タッと地面を蹴る。地からの向くままに自転車は加速し、坂を一気に下った。
 坂を下り終えてすぐのカーブを曲がりきり腕時計をちらと見た。
 7:35 a.m
 学校へ行く分には遅刻するはずのない余裕の時間配分だが、早瀬は自転車のペダルを目一杯漕いだ。坂を下った勢いそのままのペダルは軽く、ぐんと漕ぎ出しただけで速度はたちまち上がった。
 初夏の朝日は澄んでいる。しかし風が吹いているとはいえ、早瀬の頬を汗が伝った。気温はしっかりと夏へ歩み寄っている。夏服の制服もシャツが幾分薄い生地とはいえ、体温を逃がし切るにはまだ厚い。
 カラコロと回転する車輪に合わせ、早瀬の息も徐々に上がっていく。汗が首筋にまで落ちてきた。早瀬はそれを拭うこともせず、ひたすらにペダルを漕ぎ続ける。
 今日もあの人は暑さなど素知らぬ顔で、あの黒の衣を着ているのだろうか。
 そう思うと、早瀬の心は焦り以外の感情で一際大きく波打った。自然と顔を上げ、ペダルを漕ぐ足に力が入る。
 中学一年二年と、毎朝幼なじみ二人と一緒に登校していた通学路を過ぎ、人通りの多い大通りへ。
 幼なじみ達と通っていた通学路は、ここ久しく使っていなかった。最後に通ったのは進級する前、歳が明けてすぐくらいまでだっただろうか。あの人を初めて見掛けたのもそれぐらいだったから、間違いないはずだ。
 かつての通学路が学生が頻繁に利用する、いわば学生専用道路だとすれば、今早瀬が通っているこの通りは社会人専用道路だった。行くひと行くひと皆ビジネススーツに身を包み、早瀬と同じ年代の人間は一人もいない。
 人通りが多くなってきたため、早瀬は自転車を降りた。この人波の合間を縫って自転車を漕げば、確実に非難の目を向けられる。いくら焦る気持ちがあっても、そんなことをするつもりはなかった。第一、そんなことをすればあの人からきつい一言と冷笑を頂いてしまう。早瀬の本音としては人々の非難の眼差しよりも、彼に冷笑を向けられる方が回避したい事柄だった。
 濃紺、鼠色、様々な人の波の向こうに、一際目立つ彼の姿を見つけた。
 漆黒の髪に同色のスーツ、コントラストのせいか肌がやけに白く映る。遠くからでも視認出来るその美貌に、早瀬はそろそろと息を吐いた。
 彼の人は交差点で信号を待っているようだった。決して背が低いという訳ではないが、それでも彼は時たま雑踏に飲み込まれてしまう。その度に早瀬は彼を見失い、人の頭の隙間から彼の姿を見つけては安堵の息を漏らした。
 目の前の交差点は交通量が多いことから待ち時間が長い。信号の下にいる大人達は、誰もが小さく苛立っているようだった。
 いくら待ち時間が長いからといって悠長に歩いてはいられない。この間に彼に追い付かなければ、自分の朝の楽しみが潰れてしまう。早瀬は自転車を押す手に力を込め、歩幅を広く取って先に進んだ。
 交差する道路の信号が点滅する。もうすぐ彼のいる信号が変わってしまうことを意味していた。
 人混みを自転車を押しながら突き進む。時折迷惑そうな顔で早瀬を睨む大人がいたが、いちいち気にしている余裕もなかった。早瀬の視界は彼一点に絞られている。

「森次さんっ!!」

 信号が変わり軽快な音楽が流れるのと、早瀬が彼を呼び止めたのはほぼ同時だった。周りの人々が横断帯を通行しようと歩を進める中、立ち止まっているのは彼一人だった。
 周りの人々が横断を始めたので、横断帯の手前はかなり空く。早瀬は一気に駆けた。カラカラと車輪の音がついてくる。

「おはようございます」
「早瀬か。おはよう」

 軽く挨拶を交わしても、まだ二人は横断帯を渡ろうとはしない。早瀬が軽く一息ついたとき、森次と呼ばれた青年が一歩を踏み出した。それに気付いた早瀬も何事もなかったかのように森次の隣に並ぶ。

「森次さんのところも今日から更衣なんですか?」
「いや、社長直々に『暑苦しいからいい加減コートを脱いでくれ』と頼まれたのでな」
「そりゃそうですよ! 昨日までの森次さん、あの横断帯じゃ不審者でしたよ」

 早瀬が冗談半分でそう言えば、森次はその柳眉をちょっと顰めた。すうと細まった黒曜石の瞳に、早瀬はひやりとするよりも胸の高鳴りを感じた。そこだけやけに血色の良い唇が薄く開かれる。

「暑くも寒くもないからあの恰好だっただけだ。何故不審者呼ばわりされなければならない」

 不愉快だ、と続かなかった代わりに彼は歩くスピードを速めた。待ってくださいよ、と駄目元で早瀬は声を掛けるが、やはり森次の歩く速度が緩やかになる様子はない。早瀬は再度彼に駆け寄った。
 本当に彼は気難しい性格をしていると思う。一見して冗談が通じなさそうな外見をしているが、話してみれば中々にユーモアに溢れている。──もっとも最近ではそのユーモアすら、ただ彼が天然なだけなのではないかと思えてきたが。ところが時たま、今日のように冗談を冗談と受け取らない日もある。普通こういう物言いをされたときこそ、冗談として受け流すのではないだろうか。早瀬は自転車を押しながら首を傾げる。それとも大人になると冗談と建前と本音の基準がずれてしまうのだろうか。
 何にせよ、森次の感性一つで、当たり前のように彼の捉え方は早瀬とは違うのだからそこは仕方ない。彼とこうやって朝の一時を過ごし始めて早二ヶ月、いい加減早瀬もその辺の案配は分かってきた。

「森次さん」
「…………」
「もーりつーぐさーん」
「…………」

 すたすたと森次は立ち止まることなく先へと進む。本当に彼の琴線はよく分からない。ある程度は諦めているとはいえ、彼を理解することをまるきりほうきした訳ではない早瀬としては、何としても彼の機嫌を直し謝罪したかった。折角の彼と過ごす時間を無言で終わらせたくない。

「俺、今日家庭科で杏仁豆腐作るんですけど」
「…………」
「作り方覚えたら、森次さんの家に作りに行ってもいいですか?」

 この話題はどうだ。
 彼は冗談と取るだろうか、本気と思うだろうか。生真面目な彼のことだから、こちらが問うているのに無視することはないだろう。何等かしらの返答はあるはずだ。
 ぴたりと森次の足が止まった。早瀬の三歩先で立ち止まった彼は、汗一つかかず、実に涼やかな表情で一言。

「ボウル一つ分」
「へ?」
「それくらい作るなら、家に招待してやろう」

 流し目でそう告げられ、早瀬の顔に熱が集まる。急いでいたために流れた汗は冷え切っているはずなのに、体の火照りは治まりそうにもない。
 どうやらこの話題は正解だったらしい。おまけに彼の口調が幾分柔らかくなったところからすると、本当に家に招待してもらえるのかもしれない。

「その時は薔薇の花束でも持って行きましょうか」