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鉄のラインバレルログまとめ(森次受中心)

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惚れた腫れた(森次誕・道明寺に相談する早瀬)



 自分が貰って嬉しいものを相手にあげる。それは何か違う、と早瀬は思う。
 だいたいにして中学生である早瀬と、十は年の離れた青年の欲しいものが一致しているとは思えない。
 加えて、件の青年はとことん欲がない。物欲は勿論のこと、食欲だって必要最低限といった感じだ。成長期である早瀬と比べるべきではないが、それにしてもあの青年は食事を蔑ろにし過ぎである。
 ああ、とあの青年が唯一人並みにあるであろう欲を見つけた。

「……だからって、森次さんへのプレゼントは俺☆ とかやったら」

 息の根を止められるのは、目に見えて明らかだった。
 それはもう、絶対零度の瞳を向けられるだろう。氷の刃となりうる言葉で、心を串刺しにされるに違いない。


 早瀬が森次の誕生日が近いと知ったのは、あの悪戯好きの社長の有り難いような有り難くないような、微妙な心遣いのおかげだった。
 JUDAに入社した際に渡された端末に、特務室の人間の個人情報が入っていた。個人情報といっても、電話番号などのようなものではなく、誕生日、血液型、役職程度の当たり障りのないものだった。
 自室で暇を持て余しているときに、早瀬はその端末を弄っていた。その時偶然開いた特務室メンバーのプロフィール。
 初めは読み流していたが、ある一人の青年の項目で端末を操作していた手がぴたりと止まった。
 中島宗美が入社する前までは、ファクターの中で一番年上だった青年。ファクターをまとめあげ、的確な指示を出す、その青年。
 森次のプロフィールを見たとき、早瀬はちょっと驚いた。驚異的な強さを誇るとはいえ、森次も人の子だ。当たり前のように誕生日もあるし、よほど特殊なものではない限り血液型だって分かるだろう。
 だが早瀬は、森次のプロフィールが特別なもののように思えた。心の中で、自分とは違うものだという思いがあったのかもしれない。だからこうやって普通に、誕生日や血液型があることが意外だったのだ。
 早瀬と森次は、曖昧な在り方ではあるものの、世間一般的な言い回しをすれば恋人同士だ。
 恋、とは少し違うかもしれない。いや、違うのだろう。
 早瀬の恋心は幼なじみの理沙子か、運命を共にする城崎絵美のどちらかに向いている。そのベクトルがぐにゃりと曲がり、森次に向く訳がないと、早瀬自身が一番分かっていた。
 恋ではない、愛ではない、けれど、その目に自分を映してほしい。
 遠い過去ばかり映したがるあの黒い眼は、なかなか早瀬を見てくれないのだ。森次が早瀬を見るときは、早瀬を通して過去を幻視するときのみ。森次はそれを隠そうともせず、早瀬はそれに堪らなく腹が立った。
 そんな人間の構成要素が、少しばかり明らかになった。
 意外性と、なんとも言い表せない複雑な心中。頭の中でカレンダーを引っ張り出せば、その日は三日後だった。
 祝うつもりなのか、と早瀬は自身に戸惑った。
 祝ったところで、素直に相手が喜ぶとは思えない。何か物を贈っても、彼はそれを受け取るだろうか。受け取る以前に、何故自分がプレゼントを贈られているのかも分からないような気がする。
 早瀬がぐるぐると悩んでいる合間に、節電機能が働いた端末の画面は真っ暗になっていた。青年自身が暗闇に飲み込まれてしまった、そんなことを考えた。


「好きな人の誕生日ぃ?」
「べ、別に好きじゃない。ちょっと気になるだけで」
「へぇーふーん」

 ふいと顔を背けてみても、道明寺は早瀬を逃さない。いかにも面白がる様子で、道明寺よりも低い位置にある早瀬の顔を追った。

「しっかし、気になる人ねー。理沙子ちゃんも城崎さんも、まだまだ先だろ? 誕生日」

 道明寺の言い分に、早瀬は何とも言い返せない。確かに早瀬は城崎も理沙子も好きだ。だが、今早瀬の頭を占めているのは彼女たちではない。
 抱き締めたところで柔らかさのかけらもなく、自分よりも背は高くて、そして香水とはまた違った微かな香りを持つ、あの青年だ。
 早瀬はわざと道明寺の質問をはぐらかした。

「それより、なんでお前が理沙子や城崎の誕生日まで知ってるんだよ」

 理沙子と早瀬は幼なじみであるから、勿論互いの誕生日も知っている。しかし城崎の誕生日は、昨日端末内の情報を閲覧して初めて知った。本人に聞く機会はなかったし、それに男が女に誕生日を聞くのは下心が見えるようで嫌だったのだ。

「本人に聞いたに決まってんじゃん」

 すると道明寺は、実にあっけらかんと早瀬の問いに答えた。道明寺の質問に答えられない早瀬とは正反対の反応だ。
 早瀬はぽかんとなった。道明寺らしいといえば道明寺らしいが、それまで早瀬が躊躇っていたことをこうも簡単にやられると胸のむかつきを覚える。

「…………悩みなさそうでいいよな、道明寺は」
「失礼だな、早瀬。俺にだって悩みくらいあるさ」

 どんな悩みだよ、と早瀬は聞かない。聞いたところで、こちらが脱力するような答えが返ってくるだろうから。

「で、誰の誕生日なんだよ」
「あー……秘密」

 素直に答えても良かったが、どうにもまだ躊躇いがある。
 道明寺は、早瀬が城崎と理沙子を気にかけているのを知っている。どちらが本命なんだと尋ねられ、早瀬はあの時も答えられなかった。
 先延ばしの答えとは別に、違う人が気になっているとは、さすがに言えない。ましてや相手は同性で、早瀬が何かと突っ掛かることの多い青年だ。そんな相手を気にかけている、正直に言えば道明寺はその面白精神を発揮して根掘り葉掘り聞くに違いない。

「まあ、言いたくないなら無理には聞かないけど」

 早瀬はびっくりして道明寺を見た。
 てっきり詮索されると思っていたから、拍子抜けしたのだ。
 よく考えてみれば、道明寺は無理に答えを強要したことはない。いつも早瀬が自分から答えるのを待っていた。
 息を吐き出し、一度全身の力を抜く。口にしないまでも、道明寺の態度に救われた。

「その気になる人の誕生日に、何してやるか、だろ?」
「ああ。あの人、素直に物受け取るとは思えないし、何が欲しいかとか、さっぱり分からなくてさ」
「本人に聞けばいいだろ」

 こういう答えを返されると、本当に道明寺と自分は思考回路が違うと思う。
 聞けるものなら聞いている。ただ、誕生日プレゼントに欲しいものを本人に聞いたのでは、面白味も何もあったものではない。

「そんなことしたら、サプライズっぽさがないだろ」
「あ、そっか」

 普段は面白で動いている道明寺が、こんな時だけそんな精神を忘れる。思わず溜息を吐きたくなったが、早瀬はぐっと飲み込んだ。相談に乗ってもらっている側が取るべき態度てはないだろう。
 うーん、と軽く唸り、道明寺は軽い調子で口を開いた。

「普通に二人で過ごして、『おめでとう』って言えばいいんじゃないのか? そりゃあ、誕生日だから何か特別なことしてやりたい気持ちも分かるけど、ひとまず二人で一緒に過ごすことが大前提だろ」

 道明寺の言い分は最もだった。
 プレゼントを贈るにも二人きりの方がいいに決まっているし、やはり特別な時間にしたいからこそ、二人だけという点がポイントになる。

「じゃあ、プレゼントは?」