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飴の蜂屋・神頼み編【鉢雷鉢】

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「三両はもうとっくに化けていたんだよ」
 岡っ引きに連れて行かれる男の小さな背中を見送りながら、三郎が呟く。
「三両なんて目立たず使える額じゃないから、手もとにあるはずだって思っていたのがいけなかったんだ。あの男は、もう三両を使っていた。なあ、何にだと思う?」
 ううん、と雷蔵は開ききらない目を擦りながら、必死に考えている。八左ヱ門も、もやがかった頭で一応のこと考えてみるものの、すぐに答えは浮ばなかった。
 三両を、すぐに使い切れる買い物。ふと、昨夜雷蔵にもらった生姜湯を思い出す。どうしてこれを、と首を傾げていると、あの瓦版に思い当たった。
「……初鰹?」
 三郎が大きく頷く。八左ヱ門は答えを引き当てた。
「そう、鰹だったんだよ。今知り合いの魚売りに裏付け取ってるから、じきにはっきりする。初鰹を買った奴なんて、いくら隠れようが誰かに見られてるものなんだよ」
「『目には青葉、ほととぎす、初松魚』……七百五十日長生きさせるっていうアレだね」
「うん。これ、八左ヱ門が持ってた瓦版。初鰹の話が載っててさ。金を使った時期も計算が合う。最初から初鰹を買うために盗んだのかどうかはわからないけどな」
 瓦版を読みながら、雷蔵はふう、と息を吐く。
「ねえ。あの人は、お武家さんが死んでしまうのが、本当に嫌だったんだね」
 雷蔵の凛とした声が、朝日の下の男と重なる。遠目からでも、男の撫で肩が、重い息をつらそうに押し出しているのが見えた。



 事件の後、飴の蜂屋は数日の休みをもらい、再開した。
 これは八左ヱ門が後で聞いた話だ。今回の一件で心を痛めた雷蔵は、奉公人の皆に、どこか新しい奉公先を紹介しようかと提案したらしい。しかし、今回ばかりはその案に誰も賛同せず、却下された。
「私たちは旦那様の下で働きたいです」
 一番怖い思いをしたトモミが力強く言うのに、一同頷いたという。雷蔵は雷蔵で、感極まって目を赤くしてしまったらしい。
 さて、そんな危機から立ち直った蜂屋は、今日も商売繁盛、嬉しい限り。やっと一息つけたところで、雷蔵に白湯を持って行く八左ヱ門は働く者の鑑と言えよう。
「さあ、旦那も休んで下さい」
「ああ、ありがとう。一日はすぐ過ぎるねえ。あ。ねえ」
 邪魔をしないようにとすぐ部屋を辞そうとした八左ヱ門を、引き止める手。
「三郎はどこにいるかな?」