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死人に口なし

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説得@新羅


「折原、臨也君?」
 不意に路上でに呼び止められ、臨也は振り返ろうとした。しかし、背に何か押し付けられ、ピタリと動きを止める。脱いだ上着に隠しているが、何かの刃物のようだ。臨也は黙って両手を挙げた。
「ちょっと一緒に来てくれるかなぁ?」
 ノロノロと白いバンが横付けされ、さらに二人の男が臨也の眼前に現れた。その男達の顔を見た途端、臨也は挑発的に言い放つ。
「いやぁ、毎度どうも。お支払いは振込みでって言いませんでした?」
 男達はそれを黙殺し、臨也を強引にバンに押し込めた。バンが大きく揺れる。しかし、しばらくして扉が閉まると、バンは何事も無かったかのように走り去っていった。
 これが、下校途中の門田が目撃した一部始終である。

「警察に行こうと思ったんだが、また何か首突っ込んでるようだったし……本人が捕まりそうでな」
「……確かに」
 新羅は頷いて、軽い調子で静雄に振り向いた。
「君を突き飛ばした罰が当たったんじゃない?」
 本来なら深刻な状況なのだが、緊迫感はまるで無かった。いつかはこうなると、誰もが予感していたからかもしれない。
 静雄は声をかけられても、聞こえていないかのように沈黙していた。しかし、何の音も発していないわけではない。門田が話している最中から、メトロノームのように一定の間隔で、トントン、と音が響いていた。静雄が指先で机を叩く音だ。既に机の表面が削れ、木材が露出しはじめている。新羅はその様子を見とめ、困ったような笑みを零した。すぐに門田に向き直り、今後の方針を考え始めた。
「放っとく……てのはさすがに可哀想かな? せめて行き先が分かればいいんだけど。……通報なんかしたら、こっちが臨也に殺されかねないし、参ったなぁ」
「車なら、一応写真撮ったんだが」
 そう言いながら、門田が携帯の画面を示す。液晶には、車の外観とナンバーがはっきり写っていた。車はバンタイプで、特徴的とまでは言えないが、そう多く走っている型でもない。この近所ならセルティが探し出せるかもしれないと、新羅は思った。
「とりあえず、こっちで手を回してみるよ。ダメそうだったら門田君、警察行ってくれる?」
 静雄も新羅も、警察には少し後ろ暗い。静雄は公共物破損に暴行傷害、新羅は無免許での医療行為、縫合による傷害。
 門田は新羅の言わんとしていることを理解して苦笑した。そして、メモ用紙に何やら書き付ける。
「これ、写真送る。俺も一応、知り合いに声かけて探してみるわ」
 新羅はメモ用紙を受け取り、書かれていたメールアドレスを素早く携帯に入力した。メールを送ると、すぐに返信が帰ってくる。添付された写真を確認し、門田に礼を告げた。
「もし何かあったら連絡してくれ」
 そう言い残して、門田は教室を出て行った。新羅は、結局一言も発しなかった静雄を横目に思案する。机は、もう再起不能なほどに抉れていた。

「じゃ、行こうか」
 携帯の画面を閉じながら、新羅はさも当然のように言った。
「は?」
「え?」
 静雄は思わず、といった様子で顔を上げた。新羅は笑みを作って、その視線を受け止めた。静雄はみるみる表情を歪める。
「……俺の知ったこっちゃねぇ」
 静雄は吐き捨てるように言った。十分想像していたことだが、新羅は思わず溜め息を零す。そして、内心とは若干違う方向に、選んで組み立てた言葉を紡ぎ出した。
「そう言うと思ったけどね。僕は戦力外だし、セルティは臨也と仕事の範囲が被ってるから、相手によっては手を出せないんだ。どっかのグループで何百人、なんてなったりしたら、セルティ一人じゃ心配だしさ」
 新羅は、心底困った顔をして静雄に語りかける。
「放っときゃいいだろ」
 静雄は低い声で唸った。
「……君はね。でも、僕はセルティに言うし、セルティはたとえ臨也でも見捨てたりはしないよ。だから、セルティを助けてあげてよ」
 臨也のためには動かなくても、セルティのためなら動くのではないか。そんな打算と、少しの本音を乗せて、新羅は静雄を見つめた。



 玄関先で少し待つように言われ、新羅に呼ばれて居間に足を踏み入れた静雄が見たのは、セルティ・ストゥルルソンがゲームに没頭している姿だった。
 セルティにメールを入れても返信が無かったので、二人は岸谷家まで足を運んでみたのだ。万一セルティが仕事に出ていたらお手上げだったのだが、セルティは携帯を充電しながら、趣味のゲームに興じていた。室内だというのに、ヘルメットを被ったいつも通りの姿だ。
 新羅に勧められて、静雄はソファに腰を下ろした。セルティは静雄の丁度真ん前で、地べたに直接座っている。
「ちょっと待ってね、今タイムアタックのイベント中だから」
 自らも隣に腰掛けながら、新羅は声のトーンを落として言った。携帯が充電中である以上、ゲームを中断させる必要も無い。
 こうして、ゲームに熱中するセルティと、それを後ろから眺める静雄と新羅という、何とも暢気な光景が出来上がった。

『で、どうしたって?』
 セルティは、充電が完了した携帯電話の画面を掲げた。新羅がおおよその事の次第を話して聞かせる。その間、静雄はセルティに断って、ゲームの説明書を眺めていた。
「……と、いうわけで、何とかならないかな?」
 新羅が説明を終えると、セルティは了承の意を込めてこくりと頷いた。そして、やや躊躇しながら携帯に文字を打ち込む。
『どうやって静雄を連れてきたんだ?』
 新羅はその文面に苦笑して、セルティの携帯を借りて答えた。
『静雄は意外と友情に厚いんだよ』
 セルティは首を傾げたが、この場でそれ以上言及しなかった。その代わり、別の話題を文にする。
『そういえば、昨日臨也から仕事を回されたんだが』
 セルティは当然のように言ったが、新羅は驚きの声を上げる。
「いつの間に仕事を紹介されるような仲になったのさ!」
『向こうが勝手に押し付けてくるんだ。で、昨日の仕事なんだが、ちょっと妙な仕事でな』
 詰め寄る新羅の額を小突きながら、セルティは続きの文面を新羅に見せた。新羅はそれを見て目を瞠り、会話に参加していなかった静雄を呼び寄せた。

作品名:死人に口なし 作家名:窓子