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その心に触れて

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4.気づいたこと




「お前、生物委員だろ。毒虫も飼ってるって本当か?」


同級生に尋ねられる。


「うん、毒ヘビとかもいるよ」

「なにそれ、気持ち悪いな」


あからさまに嫌そうな表情を見せて、うぇと呟く。
孫兵はむっとして言い返した。


「そんなことないよ。見た目は綺麗だし、こっちが刺激しなかったら噛み付いてもこないし」

「えー、うそだー」

「うそじゃない! なんだったら見せてあげる」


好きなものをバカにされて、悲しかった。少しでも生き物たちのことを知ってもらいたくて、孫兵は放課後、飼育小屋へ向かった。




餌置き場に隠されている小屋の鍵を取って、開ける。孫兵は少し高い位置におかれている毒ヘビの籠に手を掛けた。

いくら好きだからって、先輩のいない時に勝手に触るなよ。

ふと先輩の言葉が蘇り、手が止まる。
危険だからという先輩。それでも、と首を横に振る。
一度も噛まれたことはないし、攻撃しなければヘビに噛まれることはない。何より、あの生じき物達に噛まれる気がしなかった。


僕なら、大丈夫。


そっと籠を下ろして、ふたを開ける。
なんとなく、毒ヘビの様子がいつもと違う気がした。身体を強張らせながら、威嚇しているかのようだった。


「怖くないよ、大丈夫」


そっと手を伸ばす。


「なにやってんだ」


聞きなれた、竹谷先輩の声が耳に届く。
同時に、毒ヘビが、シャーっと飛びついてきた。


「……いっ!?」


差し出していた右の手の親指をきつく噛まれた。


「孫兵!?」


慌てて先輩が小屋へ飛び込んできた。
毒ヘビは地面へ落ちて、そのまま二人の存在を無視して、小屋を出て行く。


「竹谷先ぱ……っ」


驚く孫兵をよそに、先輩は噛まれた親指に吸い付いた。血と一緒に毒を吸い出しては、地面へと吐き出す。何度か繰り返したあと、引っ張られるように医務室へ連れて行かれた。

このとき、先輩に掴まれた手首は、痕が赤く残りそうなくらい、痛かった。



新野先生が手当てをしてくれて、委員会の四年生が生物委員長を呼んでくるよう言いつけられていた。


「処置も早かったうえに毒性の弱いヘビとの話ですし、大丈夫でしょう」


念のためと、塗り薬と飲み薬をもらった。
礼を言って、竹谷先輩のほうへ向いた。


「孫兵、どうして勝手に毒虫の籠を開けた?」


身体が竦んだ。
怒気を含んでいるその声は、まるで別の人の声に思えた。

うつむいて、きつく目をつむる。


「その、同級生が毒虫が気持ち悪いっていうから、……見ればそんなことないと思ってくれるって思って…………」


違うと言いたかった。ただそれだけだった。

何も言われずに不安になって、恐る恐る顔を上げると、先輩の怒った顔があった。
パンっという音が聞こた。
頬がジンと熱くなる。さっき向いていたはずの正面からずれた位置に顔が向いていた。

ちがう、熱いんじゃなく、痛いんだ。

頬を叩かれたと気づくのに、少し時間が掛かった。


「俺、言ったよな。危ないから一人で勝手に触るなって。しかも、同級生に見せようと思ったって、その同級生が噛まれたらどうするつもりだったんだ!」


びく、と身体が強張る。

怖い。目の前にいる先輩が怖い。


「ごめん、なさい……」


必死に声を絞り出す。消え入りそうな声が、あまりにも情けなくてなきたくなった。


「ごめんじゃないだろう。お前が噛まれて、もし俺が通りかからなかったら、どうなったと思って……!!」


「そこまでだ、八左」


現れたのは、生物委員長。
保健委員の四年生から事情を聞いたと言って、腰を下ろす。


「なぁ八左。委員会で一年の面倒見る奴に言ったよな、素手で毒虫や毒ヘビを触らすなって。それなのに、これはどういうことだ?」


静かに、静かに言い放った。それなのに、怒っているというのがよくわかる。
わずかに震えている様子を見て、三年の竹谷先輩でも、六年の委員長に敵わないようだった。


「僕の、勝手な判断です。……すみません」

「ちがいます。竹谷先輩じゃなくて僕が……」

「伊賀崎は黙ってろ。これは俺と八左ヱ門の話だ」



本当は、先輩のせいじゃないのに。意見を聞き入れてもらえないことが悔しくて拳を握る。
委員長は孫兵を制して、竹谷先輩に向きなおす。


「謝る相手は俺じゃないだろ」

「…………」

「後輩を危ない目にあわせて、新野先生や保健委員まで巻き込んで」


うつむく竹谷先輩。保健委員の四年生が落ち着かない様子で見ている。
何も答えられなかった竹谷先輩に、委員長はため息を漏らした。


「で、毒ヘビはどうした?」

「……逃げられました」

「とりあえず、お前は、今すぐヘビを探して来い」


短く返事をして、竹谷先輩が医務室を出て行く。その表情から落ち込んでいるのがわかった。

さてと。委員長は孫兵に向き直った。慌てて姿勢を正す。


「伊賀崎、今のところ気分が悪いとかはないか?」

「いえ……大丈夫です」

「そうか。一応、今日一日は安静にした方がいい。もう部屋に帰って休んでこい」


先程とは打って変わって、穏やかな優しい声音。その意図が、わからなかった。


「……僕には、怒らないんですか?」


じっと、委員長を見つめる。何もなかったかのように、きょとんとしている委員長は、孫兵の頭を撫でる。


「八左ヱ門に怒ったのは、ちゃんと先輩としての責任が取れていなかったから。お前に怒らないのは、もう八左ヱ門に怒られたから」


一度怒られた人間を、もう一度怒る必要はないという。


「ですが……」

「だって、伊賀崎は俺に怒られるより、八左ヱ門に怒られた方が効きそうだからなぁ」


笑う委員長。勝てるわけはないのに、バカにされているのは悔しかった。けれど、孫兵はそれを否定できなかった。
怖いと感じたのも、怒る声を聞きたくないと思ったのも、竹谷先輩が怒ったときだったから。

夕方の、涼しい風が部屋の中を通り抜ける。木々がはを揺らして騒ぐ音が聞こえる。


「まぁ、今頃、あいつは反省と後悔をしてるだろうけど」


委員長が頬に触れた。先輩に叩かれた痕を、そっと撫でるように。
じん、と痛んだ。


「三年生っつっても、まだ子供だからな。上手く自分自身を抑えられないし、どういう対応していいのかわかっていない部分もある。……まぁ、六年になっても大差ないけどな」


たった二年の差は、違うことはない。
そう思っていた反面、自分よりも出来ることが当たり前だと思っていた。

二年しか違わないのに。
二年も違うから。

孫兵は、どういう風に考えていいのかわからなくなってきた。


「竹谷先輩に会いたいです。会って、少し話したいです」


何を話すかという、明確な目的はなかった。それでも、何もしないよりは、どうにか動きたかった。
また怒られるかもしれないと、不安はある。けれど、何よりも、ちゃんと先輩に謝りたかった。自分が言うことを聞いていれば、先輩が委員長に怒られることはなかったはずなのだ。


「……まだ裏山まで入っていないと思うから、草むらでも探したらいるんじゃないか?」

「行ってきます」
作品名:その心に触れて 作家名:すずしろ