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14才の母シリーズ(カズケンカズ/サマウォ)

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どうして君は笑えるの


まるでままごと遊びだと侘助は思う。
まだ上田の陣内の家にいた頃、幼い夏希にせがまれて断り切れず付き合わされたままごと遊びに、目の前の光景はよく似ていた。けれど、少女の奇妙に膨らんだ下腹部が、懐かしい記憶に残る微笑ましい思い出と、目の前で繰り広げられる奇妙なままごと遊びが決定的に違うものだということを侘助に知らしめていた。
どこからどうみても義務教育を終えていない少女の下腹部は奇妙にぽっこりと膨らんで、細い少女の体躯に異物が巣食っているようで、それが侘助には途方もなく不気味に思えた。

 *

「子どもが出来たんだ」と親戚の少女に告げられたとき、思わず盛大に口を開け「はぁあ?」と返してしまった侘助に非はないと思いたい。この愛想はないが生真面目な又姪が大人をからかう為だけにそんな性質の悪い冗談を言うような性格ではないことは、短い付き合いで十分に理解出来ていたはずだが、その又姪の口から出てきた言葉は侘助の理解の許容範囲を明らかに超えていた。
確かにこの又姪とはOZやプログラミングなどの仕事の関係で、他の親族よりも密な関係を築いていたけれど、半分しか血の繋がらない兄妹の孫という、近いのだか遠いのだかわからない、28も歳の離れた親戚の娘になぜ自分がそのような重大事項を打ち明けられたのかもわからなかった。しかし、そんな仕事の上司と部下のような間柄や、親戚関係云々の話を抜きにしても14歳の少女に妊娠の事実を告げられたさいに、大人としてどういう反応をすれば正解だというのか。あの喰えない同い年の甥だってぽかんと口を開け、一瞬固まるくらいはするだろうと現実逃避ぎみに侘助は思った。
しかし、又姪の突拍子もない告白を、冗談だろうと笑い飛ばし一笑に伏さなかったのは、あの夏の大騒動でも見られかった又姪の思い詰めた表情とと、その又姪を支えるように寄り添い立つ、奇縁で結ばれた少年に場にそぐわぬほどに穏やかな笑みをみたからだった。
相手は聞かずとも知れたけれど、侘助は飲んでいたコーヒーのカップを乱雑に書類の散らばったローテーブルにおいて、腹の子の父親であろう少年に向かって問いかけた。
まっすぐに健二は侘助の視線を受け止める。あの夏の、おどおどしていた態度が嘘みたいだと侘助は思った。あの夏の少年はどこに行ってしまったのだろう。
「その胎の中のガキの父親は?」
「ボクです」
「俺が知る限り、お前は夏希の彼氏だったはずだが」
「先輩とは去年の秋に別れています。振られたので」
健二がいう夏希と別れた時期の夏希の様子をを思い返してみて、侘助は深い溜め息を吐く。通りでで秋の一時期、あのじゃじゃ馬の機嫌が悪かったはずだ。思わぬところで侘助に一番懐いていた又姪の大荒れの原因を知って、なんとも言えない気分になるが、その話は今は関係ない。
侘助の入れたインスタントコーヒーを苦そうに啜っている佳主馬の、少し痩せたらしい横顔を眺めながら、侘助は極めて現実的なこれからのことを口にした。もう胎の子は堕ろせない時期にきているというから、産むしかないのであろうけれど。
「で、お前らどうする気なんだ?」
二人とも自分のような馬鹿ではないから、自分達の引き起こした事態の深刻さにはとうに気付いているはずだった。なのに、良識という言葉を体現しているとばかり思っていた少年は佳主馬の手をしっかりと握ったまま、幸せそうに笑っている。掴みどころのない少年だとは思っていたけれど、間違っても常識というものから逸脱しない人間だと思っていたのに、こんな状況にありながら健二は動揺した様子もみせない。動揺するどころか、嬉しそうに笑っているのが侘助には空恐ろしかった。
侘助の視線が不安に揺れるのもお構いなしに、もう気持ちははっきりと決まっているとでもいうように、きっぱりと佳主馬は言い切った。
「産むよ、だって僕と健二さんの子だもん」
「産むってお前、そんな簡単に」
「簡単じゃないのはわかってるよ。そんなのわかってる」
侘助の語調の強さにいい負かされよう、佳主馬が語調を強める。太もものあたりで握りしめた拳が震えているのに侘助は気付いたけれど、言葉を和らげようとは思わなかった。親戚だとかそういうのを抜きにしても、大人として世間に顔向けできない人生を歩もうとしている子どもを放っておくわけにはいかない。目の前の子どもは、まだ14歳なのだ。
「佳主馬」
「絶対産むから、僕らの子だもん」
「だからって」
「侘助さん」
気色ばみ、今にもとっ掴み合いになりかねない侘助と佳主馬の間に割って入ったのは、それまでずっと傍観に徹していた健二で。まだ、この少年だって高校を卒業していない18歳の子どもだというのに、侘助が異様だと思うほど健二は最初から落ち着いていた。
「佳主馬くんに負担をかけちゃうのは心苦しいんですけど、幸いにも二人の貯金を合わせれば当面の生活費には困りませんし…」
「……そういう金銭的な問題じゃないだろう。佳主馬、お前学校は。いや、学校なんかどうでもいいお前の父さんや母さんにはなんて言う気だ」
健二が言うように、キング・カズマを操り、何社もの企業をスポンサーとして稼いでいた佳主馬には自由に出来る金はそれなりにあるだろう。池沢の家(に限らず陣内の家もだが)は子どもに大金を持たせることをよしとはしなかったろうから、今まで稼いだ金がそのまま手元にあるわけではないだろうが、このすべてを覚悟しているらしい知恵の回る子どもならば既に使える限りの手段を用いて、己の権限で自由に出来るまとまった金額を手にしているはずだ。
けれど、金銭的にどうにかなろうとも、親を騙し通すのは無理だ。遅かれ早かれ聖美は佳主馬の異変に気づくだろう。そうなったときにお前はどうするんだと侘助が尋ねれば、佳主馬は一瞬だけ瞳を不安に揺らし健二に視線をやってから、俯いてぽつりと告げた。
「……言わない」
「は?」
「家出するから、言わない。言ったらきっと、母さん達は僕から健二さんを引き離すから、だから言わない」
「佳主馬!!
絶対に言わないんだから、と佳主馬が金切り声をあげて健二の腕にしがみ付く。
「健二も、お前、それでいいのか?!」
「ボクはもう佳主馬くんのことを知らせた時に、勘当されちゃいましたから」
「な、」
お前はそれでいいのかと問い詰める侘助に、健二はただ笑った。
両親は離婚しちゃって、勘当もされちゃって、僕にはもう家族がいないんです。だから、僕は佳主馬くんと家族になるんですと健二は晴々と笑った。その健二の晴れ晴れとした笑みに、侘助が底知れぬ恐ろしさのようなものを抱いたのは、けしておかしなことではなかっただろう。
健二は笑っている、幸せそうに。今まで焦がれていた「家族」を手に入れれる喜びを手放しに喜んでいて、健二の腕にしがみ付く佳主馬を愛おしげに見つめていた。その奇妙に歪んだ二人を見て、侘助は深い不快溜め息を吐き出した。
「俺は反対だぞ」
「うん」
「侘助さん」
「でも、ここで俺が反対だと言い張って連れ戻すと言ったら、お前たちはどうするつもりだったんだ」