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Ladybird girl

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第三章





「ね、まだ拗ねてる?」
「もう大丈夫だから、少し離れてよ」
「そう言ったって、機嫌が直ってるようにも見えないんだけど」
「はい、今機嫌直しましたよアメリカさん。……これでいいでしょう」
「……カナダぁ……」
「そんな顔したって、ダメなんだから」
「ほらやっぱり拗ねてるんだ」
「へりくつばっかり」
「へりくつでもいいよ。カナダがちゃんとしゃべってくれないせいなんだから」
「アメリカには関係ないでしょ。日本さんにでもかまってもらえばいい」
「カナダじゃないとさびしいの!」
「は」
「うん?」
「……ばか」
「へっ?!」
「ばか。アメリカのばか。そんなんだから……」
 言って、アメリカからツンと顔を背けた。
 こんなときのカナダは実にイギリスによく似ているとアメリカは思う。ノンフレームなのにどこか野暮ったい眼鏡越しの海色をした目はいくら追ってもこちらを向いてはくれないし、口調こそふだんののんびりしたものからそれほど変わらないが、台詞がひとつ終われば唇はすぐに閉じられてしまう。ふたつ結びにした髪の先を絡めて弄ぶ指だけがすこしばかりの取りつくしまを与えていた。それでもいちおうは一緒にいてくれるのがまたにくたらしい。
 朝、寮に戻ってからのカナダは食事をしに向かっている今の今までずっとこんな調子で、説明しようとしてもアメリカの言葉をまともにとりあってくれなかった。ただ口に出すか出さないかが違うだけで、一度怒らせると長いところもそっくりだ。もっともイギリスの場合は、時間の単位からして違うけれども。
 思い当たってアメリカは小さくため息を吐いた。普段からうまの合わないイギリスにまとわりつかれるよりも、べったりのカナダにかまってもらえないほうがよっぽどつまらないし辛い。
(このままだと、ごはんまでまずくなっちゃうよ)
 もう一度ため息を吐く。すると隣で深呼吸をする音がして、アメリカは慌てて取り繕った。
「あのねカナダ、いまのはそういう意味じゃなくって――」
「なら、どんな意味なのさ」
 言葉に詰まるアメリカに、不意にカナダがはじかれたように笑い出した。そのまま声もなく身体をふたつに折り曲げてまでしばらく笑ってからアメリカのほうに振り向く。今日はじめてきちんと見たカナダの顔は、あきれるような面白がるような表情を浮かべていた。髪から離した手でアメリカの肩をたたいて、
「もういいよ、アメリカ」
「うん?」
「アメリカとけんかしてると、こっちが悪いことしてるみたいな気になる」
「そりゃ、話してくれなかったのはカナダだもん」
「そういうことじゃなくてね……まあ、いいか。それより昨日のこと、説明してくれないの?」
「最初っからそのつもりだったんだってば。あ、あたしが食べ物取ってくるからカード貸して。カナダは何食べる?」
「サンドイッチセット。スープはコーンスープ。まったく、調子いいんだから」
「それがあたしのいいところだもの」
 いつの間にか到着していたのである。W学園の食堂はいくつかあるが、その中でもふたりのお気に入りは教室からすこし離れているテラスがついた第二カフェテリアだった。何より混まないところがいい。ここからはいつもとおり、カナダのサンドイッチセットと自分のエビフライセットをそろえたところで、ふたりは黙々と食べはじめ、やがて先に食べ終わったアメリカから話し出した。
「抜け出したところまではカナダも知ってるよね?けど、指痛いし苛々するしで、外に出たからって気分が晴れたわけでもなかったの。それで、いつの間にかイギリスの家の前に居た」
「あれはちょっと傷つくから止めて欲しいな」
「え?」
「わたしの眼鏡使って抜け出すの」
「……うん、考えとく。ていうか続き話させてよ、ええと、」
「イギリスさんの家についたところ」
「うん、うん。それでたまたまイギリスとかちあって、たまたま中に入れてもらって、お茶飲んだ。それだけなんだけどね」
「中にって、家の?」
「何が悲しくて夜にあのワイルドガーデンでお茶を飲まなきゃいけないのさ」
 スプーンを持つカナダの手が小刻みにふるえるのが楽しくてゆっくりと言ってやっている間に、アメリカはまたもや少しずついらだち始めていた。なんだってあれくらいのことでカナダに午前中まるまる無視されなきゃならなかったんだろう。矛先はイギリスにあったが、目の前で表情を凍らせたカナダも忌々しい。だからあとは勝手に震えるのに任せておいて自分はそ知らぬ顔でコーヒーをすすっていたけれど、いつまで経っても離れない視線に仕方なく、でも小声でつぶやく。
「だから、家の中に入って、お茶飲んで、客間に泊まったの」
 カナダがスプーンをスープの中に取り落とした。
「ああああああめりか」
「なーによぅ」
「それで、それで朝帰り?!」
「誤解を招く言い方はやめてよね。イギリスが一緒に登校してるところを見られたくないって言うからそうそうに追い出されたけど」
「だからフランスさんがこっちまで探しに来たのか……」
「フランスがどこに?」
「朝、イギリスさんがいないって、寮の中ぐるぐる歩き回ってた。確かにヨーロッパのほう回るよりは、とは思ったけど、でも変だったから気にしてたんだ。なるほど、そういうことかぁ」
「ふぅん」
 話題が少しずれたおかげで落ち着いたかのように見えたカナダはぼんやりした眼差しでスプーンを拾い上げティッシュでぬぐい、再びコーンスープにつけたあと、何に刺激されたのかそのままスプーンの先をアメリカに向けて、
「どういうことだか分かってないよね、アメリカには」
「分かんないし、分かりたくもないよ」
「あのね、」
 アメリカがうたた寝をしていたせいで聞き逃したテスト範囲を伝えるときのような口ぶりだった。
「イギリスさんの家はね、謎なの」
「謎?」
「なんでイギリスさんだけが寮に住んでないのかも謎だし、誰も入ったことがないから中も謎。……セーシェルが、一度玄関で待たされたことがあって、中を覗いたくらい」
「別に普通だったけどなあ。まあ、地下室が魔術とやらの基地になってる可能性も否定できないけど、実験台にされたわけでもないし、それはそれでいいや」
 比較的利用者が少ないとはいえ、やはり昼休み。はしゃいだざわめきで満たされている食堂の中で、ふたりのテーブルだけがしばしの沈黙に包まれた。
 やがて口を開いたのはまたもやカナダである。
「わたしの感想を言ってもいい?」
「この際何でも聞くよ」
「言行不一致」
「…………?」
「もしくは、口ほどでもない。ね、アメリカ、普段あれだけイギリスさんの愚痴を聞かされてるわたしがいきなりこんな出来事にぶつかった気持ち、考えてみてほしいって思うな」
「ならただのハプニングってことにしていていいよ。こんなこと、二度と起こらないから」
 苛々したままでトレーを持って立ち上がる。すると後ろから食べかけの皿もそのままに慌ててカナダが追いかけてきたのでアメリカはほんのちょっぴり溜飲を下げた。


*


 しかしことはアメリカの言葉通りには進まなかった。
作品名:Ladybird girl 作家名:しもてぃ