二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ナターリヤさんが家出してきました。

INDEX|8ページ/12ページ|

次のページ前のページ
 

第7話



■前回までのあらすじ■
ナターリヤさんの必要なものを買いに、二人でお買い物に出かけました。ひょっとしてあれってデートだったんですか?デートだったんでしょうか・・・。
………あ、お味噌がありません……。

私に帰る場所があるのなら、それはどこなのだろう。きっと昔なら即座に答えることができたはずだ。「兄さんのとなり」と。今は・・・。私の帰る場所は、どこにあるのだろう。どこにもないのか、見つけられないのか。見つけたことを認めるのが嫌なのか。私はまだ、わからないんだ。

二人で買い物にでかけてから1週間が経った。本田は、朝から台所に立っていた。
「本田、布団片付けたぞ。」
「ありがとうございます。」
ナターリヤはすっかり本田の家での生活に慣れ始めていた。自分の布団を押し入れに片付け、台所に入ってくる。
「他にすることはないか?」
「ええと・・・とりあえず朝御飯を食べましょうか。」
ほかほかの白米に味噌汁、梅干し、鮭の塩焼き。朝御飯のテンプレートのような食卓を囲み、本田とナターリヤは朝食を済ませた。
「そうだ、ナターリヤさん、おつかいを頼んでもいいですか?」
「・・・1人でか?」
「ええ。お味噌がなくなってしまって。今日はいい天気ですから、洗濯でもしようかと思っているんです。予報では午後から一雨くるそうなので、それまでに。」
にこりと笑う本田。ナターリヤは少し不安そうな顔で、本田を見返す。
「1人で・・・」
「不安ですか?」
「そ、そんなことない!1人でできる!」
ナターリヤはきゅっと拳を握った。紫の瞳がきらりと輝く。本田はそれを見て、またにこりと微笑んだ。
「じゃあ、ぽちくんも連れていってあげてください。多分道は覚えていると思うので。今、地図を書きますね。」
「あ、ああ。」
さらさらと簡単な地図を書いた本田はそれをナターリヤに手渡す。ぽちくんはしっぽを振りながらナターリヤのそばに駆け寄った。
「じゃあ、行ってきます。」
「車に気を付けてくださいね。それからぽちくん、ナターリヤさんを頼みますよ。」
本田はしゃがみこみ、ぽちくんの頭を撫でた。
「きゃん!」
「むう・・・私だって・・・」
本田の言葉を聞いて、ナターリヤは頬を膨らませた。引き戸を開き、走るぽちくんを追いかける。本田は走るナターリヤの背中を見て、目を細めた。子供を見守る親のようだ。
「さて、私も洗濯をしなければ・・・」
とん、と背中を叩いて本田は洗濯機へと向かった。



ぽちくんの行く方向へ歩くナターリヤ。道を覚えているというのは本当のようだ。なんだかちょっと情けなくなってむうと頬を膨らませる。
「本田は私よりも、ぽちくんを信用してるのか・・・」
言葉にしたら更にそうとしか考えられなくなってもっと腹がたった。家に帰ったら一発はたいてやろう。そんなことを考えながら歩いていると、目的の店が見えてくる。きゃんきゃんとぽちくんが鳴いたので、ナターリヤはよしよしと頭を撫でた。
「ぽちくんはお店には入れないから、ここで待ってるんだぞ。」
「きゃん!」
もらった地図に味噌の種類も書いてあったので、店員にメモを見せる。ナターリヤは、日本語を話せないわけではないのだが、本田以外にはあまり話さないようにしていた。ナターリヤのような外見の少女が日本語を話すとかなりの違和感があるそうなのだ。見た目だけで驚かれるのだから、それ以上に驚かさないようにしようとこの間の買い物で学んだのだった。
店員が持ってきてくれた味噌を受け取り、本田から預かっていたお金を払う。
小さな声でありがとう、と呟いた。聞こえないかもしれないくらいの、小さな声で。
味噌の入った袋を持ち、ぽちくんのいるところへ向かう。ぽちくんは、ナターリヤを見つけるときゃんきゃん鳴いた。
「よし、ぽちくん、帰るか!」
とぼとぼと歩きながら、「帰る」ということを考える。「ナターリヤ」の帰る場所は、どこなのだろう。
(私の、帰る場所・・・・)
本田の家を自分の家だと思うくらいに、この国に慣れすぎてしまったのだろうか。
自分の国のことを思い返してみる。やらなくちゃいけない仕事がまだたくさんあった気がする。上司はナターリヤがいなくてもきっとなんとかやっているだろう。ナターリヤがいなくても。
(誰も、私を必要としてない。)
誰かに、求められることを望んだわけではない。けれど、誰かに必要として欲しい。誰かにおかえりと言って欲しい。待っていて欲しい。
世界で一番愛する人は、ナターリヤを必要とはしてくれない。
(兄さんは、きっと私がいなくてもなんとも思わない。)
「押して駄目なら引いてみろ」そんなこと、最初から結果はわかっていたのに。
怖くて。「いらない」と言われるのが。ひとりでいるのが。どうしようもなく、臆病で。逃げて、逃げて、こんなところまで来てしまった。
「ナターリヤ」がいなくなっても、世界は相変わらず回っているのだ。存在価値など、薄っぺらい紙ほどにもない。

ここはよかった。温かくて、なにもかも忘れられる。なんのためにここまで来たのかも、忘れてしまえるくらい。この国の温かさに、本田の優しさに、甘えて。本田菊は、なにも言わなかった。きっと全て、ばれている。ナターリヤの心の中でさえ。作戦に意味などないことも、本当は逃げてきたことも。それを全てわかっていて、本田はなにも言わない。にこりと笑って、ナターリヤを温めた。
温かすぎて、火傷してしまう。凍えた心を溶かすには、十分だった。
「なあぽちくん。私、本田のこと・・・」
言おうとして、やめた。あるはずがない。そんなこと、思うはずもない。ナターリヤには、世界で一番愛する兄がいるのだから。
「くううん?」
「いや・・・ないな。ないない。」
温かすぎて、その中でまどろむくらい。母親の子宮のように、冬の布団のように、愛しくて、出ていけない。
「・・・帰るか。」
とぼとぼと歩いていると、突然猛スピードで車が走ってきた。
公道だから車が通るのは当たり前なのだが、猛スピードで走ってこられて、咄嗟の動きが遅れる。
「いたっ」
車に驚いて、ナターリヤは尻もちをついてしまう。倒れたときに足をくじいてしまったようだ。右足の足首が赤く腫れてきた。
「・・・・まったく・・・」
ふうと溜息をついて立ちあがろうとするが右足に力が入らない。ここが戦場ならきっとナターリヤは死んでいるだろう。
「平和ボケしすぎたか・・・?」
手に持っていた味噌が無事なのを確認して、ほっと息をつく。これがなければミッションは達成できないのだ。どうにか壁を使って立ち上がる。確か店に行くときに公園を通ったような気がした。
「とりあえずどこかに座りたい・・・」
ナターリヤが立ちあがるとぽちくんはきゃんきゃん鳴きながらどこかへ走り去ってしまった。
「ぽ、ぽちくん!っつ!」
ぽちくんを追いかけようにも足が痛くて走れない。なんてざまだ・・・と嘲りながらまた溜息をついた。
「ぽちくんにも愛想をつかされてしまった・・・」
なんとか公園を見つけて、ベンチに座った。休日の午前中だというのに人があまりいない。