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人を呪わば穴二つ

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第六幕 つまらないやつ


 張り詰めた空気の廃工場に、何の前触れも無く闖入者が現れた。
 その姿を確認して、青葉はにやりと笑みを浮かべ、正臣は目を丸くする。
「……随分強力な助っ人じゃねぇか、おい」
 正臣は立ち上がると、警戒を滲ませながら呟いた。
 青葉が開け放していた入り口から、音も無く滑り込んできたのは、漆黒のライダースーツ。
 正臣は、黒バイクがダラーズの一員であることは知っている。しかし、同じダラーズとはいえ、セルティと青葉に繋がりがあるとは知らなかった。当然だ。彼に指示を与えた男さえ、ついさっきまでその事実を知らなかったのだから。
 表面上は平静を取り繕うが、冷や汗が背を伝う。セルティに何が、どこまで出来るのか、正臣は知らなかった。人間相手の対策は幾重にも準備してきたが、得体の知れない存在を相手にどうすればいいのか、正臣は見当もつかない。
 ――――――いや、確か、帝人や杏里とも知り合いなんだっけ……?
 セルティがどういう立ち位置かはっきりせず、正臣の思考は混乱した。
 一方、工場の中心付近で止まったセルティも、両者をきょろきょろと見比べていた。まるで、こんなところに来るはずでは無かったとでも言うように。
 そこへ、不意に正臣の携帯が電子音を鳴らした。
 正臣はセルティが動く気配が無いことを確認すると、携帯の画面を開いた。臨也からだ。短い文面に目を通し、正臣は眉を顰める。
「お前も、とんだ嘘吐きだな」
 セルティに奪われていた視線を青葉に戻し、正臣は忌々しげに吐き捨てた。
 メールは、計画の中止を知らせると共に、セルティのことにも簡潔に言及されていた。タイミングから察するに、青葉がセルティを呼び寄せたのは、廃工場に来てからだ。セルティは、どう見ても美術部の友達には見えなかった。
「お互い様じゃないですか」
 青葉は、にこりと行儀の良い笑みを作った。そういった表情を浮かべると、ごく普通の少年にしか見えない。臨也も、よくそんな表情をする。そうやって、自分は無害だと嘘を吐くのだ。






「……お前ら、後で覚えとけよ」
 臨也が低い声で呟いた。久々に自由になった肩を、解すように回している。
「あはは、イザ兄かっこ悪ーい!」
 舞流はちっとも悪びれた様子も無く、からからと笑った。
 セルティは、臨也から通話中の携帯を奪い、何処かへ連絡したかと思うと、何事も無かったかのようにバイクに跨って行ってしまった。一時出来ていた人だかりも、セルティが去ると自然と解消された。
「私はイザ兄のヘンテコな趣味より、デザートの方が重要だもん!」
「同(私も)」
 得意げに笑う双子を、臨也は恨めしげに睨みつけた。
「それで、お前らは兄貴を一万で売るのか」
 双子は、デザート代と引き換えに、セルティに洗いざらい話してしまった。その交渉はPDAを介して行われたため、臨也が気が付いた時には、既に双子が一万円札を受け取っていた。
「ていうか、約束破ったんだから寿司代返せよ」
 臨也は金銭に執着しているわけではないが、それは双子も同じだ。二人は小遣いに困っているわけでは無いので、面白半分でセルティの提案に乗ったのだろう。それが、臨也の癪に障る。
「嫌(それは無理)」
「だって、人に言うなとは言われたけど、黒バイクさんは人じゃないもん」
 ねー、と双子が顔を見合わせる。なかなかに愛らしい光景だが、実の兄には通用しなかった。
「屁理屈言うな」
 臨也は嗜めるように言ったが、あまりにも説得力が無かった。
「もー、しょうがないから、パフェ食べに行くのついて来てもいいよ?」
「奢(奢ってあげる)」
 双子は、あくまでマイペースを崩さない。呆れ果てた臨也は、本日何回目になるか分からない、深い溜め息で返事をした。
「それでは、秋の味覚に出発!」
「急(早く行こう)」
 跳ねるような足取りの後姿を眺めつつ、臨也は思案した。
 ――――――やっぱり、こいつらを操縦するのは無理があったな……。
 すっかり日が落ちているが、休日の繁華街はまだまだ人通りが多い。臨也は、結局溜め息一つで双子の後を追った。
 ――――――それにしても、新羅まで口を出して来たのは予想外だ。
 ポケットに手を突っ込みつつ、さっきの出来事を思い返す。
 新羅は、セルティ以外には殆ど興味が無い、ある意味臨也とは対極のタイプだ。臨也のすることにも、滅多に口を出さない。それどころか、一種の娯楽のように面白がることさえあった。
「そういえばさぁ、おじゃんになったってあの人に教えてあげなくていいの?」
 不意に舞流が振り返り、臨也の思考は中断した。「あの人」が誰か、一瞬考える。
「あー……、どうしようかな。一応回収しとくか」
 臨也は、ポケットから携帯を取り出した。アドレス帳から、本日の主演の名前を呼び出す。
「あ、クル姉もうメール送ってもいいんじゃないの?」
「煩(うるさい)」
 臨也は素早くメールを打ちながら、中断していた思考を再開する。
 園原堂の事件の真相を、臨也は知らない。しかし、事件の周辺を洗ってみると、別の構図が浮かび上がってきた。罪歌の本体は、元々岸谷森厳が所有していたものだ。長らく手元に置いていたそれを、六年前、突然園原堂に売り払った。
 粟楠会と繋がりのある森厳。
 他の組と揉めていた園原堂。
 とても偶然だとは思えない。臨也は、薄っすらと唇に笑みを刷いた。
 ――――――まさか何も知らないなんて、カマトトぶる気は無いだろうね?
 六年前、新羅は既に闇医者として、粟楠会に出入りしている。






 ――――――何、これ? どういうこと?
 予想外の状況に飛び込んでしまったセルティは、心の中を疑問符で埋め尽くしていた。
 セルティは正臣に視線を向けるが、足元に視線を落としていて、長い前髪が表情を隠している。
 ――――――あれって正臣君、だよね……?
 行方をくらましてしまったという帝人と杏里の友人で、黄巾賊の将軍。セルティは詳しく知らないが、何かと話題に上がる少年だ。それにしても、どうして彼がここで青葉と対峙しているのか。
 未だに状況が理解できていないセルティは、所在無さげに二人のやり取りを見守っていた。
「じゃ、俺は退散するわ」
 不意に正臣が口を開き、出口に向かって歩み始めた。青葉とセルティの間を、堂々と一直線に突っ切る。
 セルティの前を横切る瞬間、正臣は何らかの意志を持ってセルティに視線を向けた。その視線の意味が分からず、セルティは正臣の後姿を目で追う。
「なかなか楽しかったですよ、先輩」
 青葉は、笑顔で手を振って見せた。正臣が出口付近で振り返る。
「次顔合わせるときには、こんな暢気に話は出来ねぇぞ」
「……そうでしょうね」
 正臣はすぐに視線を逸らし、背を向けて工場を出て行った。

作品名:人を呪わば穴二つ 作家名:窓子