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人を呪わば穴二つ

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終幕 いつか帰る場所


 すっかり日も暮れた頃、露西亜寿司のすぐ傍で、正臣は人待ち顔で立っていた。目の前を通り過ぎる他人の顔を、ぼんやりと眺めている。
 その背に、不意に衝撃が走った。背後から奇襲をかけられ、正臣はたたらを踏む。
「ふふ、驚いた?」
 正臣が振り返ると、私服姿の沙樹が小首を傾げて尋ねた。どうやら裏口から出てきたらしい。正臣は苦笑を浮かべた。
「お疲れさん。頑張ってたか?」
「うん。見て見て、お給料貰っちゃった」
 沙樹が、質素な茶封筒を示した。正臣が、表情を強張らせる。
「マジか? なんか悪いな。無理言ってお願いしたのに……」
 慌てる正臣に、沙樹はくすりと笑った。
「でも中身は、ほら」
 沙樹は含み笑いをしつつ封筒の中身を引き抜き、正臣の顔の前に突きつけた。
「露西亜寿司……特別割引券……?」
 正臣は目を丸くして呟く。沙樹は嬉しそうに頷いた。
「早く戻ってこいってことだよ」
 正臣は、ぱちぱちと瞬いた。
「……ほんと、適わねぇなぁ」
 正臣は軽く肩を竦め、歩き出そうとした。しかし、沙樹がその袖を引く。正臣が振り返ると、沙樹が真面目な表情で言った。
「ねぇ。今ね、お店の中に、正臣が話してた友達っぽい子達がいるよ。ちょっと見てみなよ」
「え……っと、いや、……いいよ」
 正臣は、引き攣った笑みを浮かべて狼狽えた。
「どうして? 本人かもしれないよ」
「……いいんだ」
 正臣は視線を逸らすと、今度こそ足を進める。沙樹はちらりと店の扉を見たが、すぐに正臣の隣に並んだ。沙樹が下から覗くように姿勢を屈めると、正臣はふいと顔を逸らす。
「とっても優しそうな子達だったよ。それなのに、馬鹿だねぇ、正臣は」
「……分かってるよ」
 正臣は、そっぽを向いたまま唇を尖らせた。沙樹がくすくすと笑う。
「あー、事務所寄らないとなぁ……。明日じゃ駄目かなぁ……」
 正臣は、ポケットの中にあるものを引っ張り出した。小型のICレコーダーだ。
「ちゃんと録音できた?」
 伸ばされた沙樹の掌に、正臣はICレコーダーを落とした。沙樹が手の中でICレコーダーを弄ぶ。
「録れてると思うけど。でも、録音してると思うと変に緊張するよなぁ……これあいつに聞かれるの、すっげーヤダ」
 正臣が、嫌そうに顔を顰める。そんな正臣の話を聞いて、沙樹は思い出したように言った。
「そういえば、今日臨也さん来てたよ?」
「マジか? 本当に来たのか……」
 正臣は、微妙な表情を浮かべた。
「うん。なんか妹さん達も一緒だった」
「そっか。……何か変なこと言われなかっただろうな?」
 正臣が、訝しげに沙樹を見つめる。
「奢ってあげるって言われたけど、断ったよ。偉いでしょ」
 沙樹が胸を張って答えた。その様子に、正臣が笑みを漏らす。
「おー、偉い偉い。沙樹はなんかふわふわしてるからなぁ。変質者についていったら駄目だぞ」
 正臣が言い聞かせるようにそう言うと、沙樹は不意に俯いた。不思議に思う正臣に、沙樹は肩を震わせながらICレコーダーを掲げて見せた。
「……録っちゃった。今の」
 笑いを噛み殺す沙樹に、正臣はぽかんと口を開けた。すぐにはっとしてICレコーダーを取り上げようとするが、沙樹は体の後ろに隠して正臣の手を避ける。
「ちょ、やめて沙樹ちゃん! それは消して!」
「録音はしたことあるけど、消し方は知らない」
「いやいやいや」
 正臣が青白い顔で首を振る。
「いいじゃない。こういうの喜ぶよ、臨也さん」
「喜ばねぇよ! ガチで変態じゃねぇか!」
「まだ録音してるよ?」
「ちょ、切って切って!」



作品名:人を呪わば穴二つ 作家名:窓子