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この手が届いたら

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空白は埋まらない





「ああ、目が覚めた?」
目覚めたとき、目の前にいたのは白衣に眼鏡と言う典型的なお医者様でした。
帝人はぱちくりと瞬きをして、その見知らぬ医者と、初めて見上げる天井について考えた。しばらくのタイムラグの後、ああ、そういえば倒れたっけ、と思い至る。
と言うことは静雄が個人医院にでも運んでくれたのだろうか。ぼんやりと考えて、それからのろのろと上半身を起した。見回せば、どうやら個人の住宅らしきその光景に、もう一度瞬きを繰り返す。
「あの。ここは・・・?」
尋ねた矢先、
「目え覚めたのか?」
と、台所から静雄が顔を出した。
「静雄の家のリビングだよ。ガキが倒れた!とかって血相変えた電話もらったから駆けつけたんだけど、原因は心的ストレス、精神疲労ってところじゃないかな」
「は、はあ」
首をかしげた帝人に、医者はにっこりと微笑み、
「ああ、私は静雄の昔からの知り合いで、新羅というんだ」
と、尋ねてもいない名前を名乗る。
「それは、お手数をおかけしました。竜ヶ峰帝人です」
帝人はぺこりと頭を下げ、ついでに自分も聞かれてもいない名前を名乗る。顔をあげたところに、ずいっと水が差し出されたので、ありがたく受け取ることにした。
「そんな、俺と話すのがストレスになるくらいなら、笑ってんじゃねえよ」
と、ぶっきらぼうに言う静雄の苦々しげな表情に、帝人は苦笑するしかない。
「いえ、多分、原因は違うんです」
どっちかといったら、静雄と話すことは楽しみの部類だ。だって非日常だし。そうじゃなくてこの気分の悪さは、積み重なった今までの心労・・・ぶっちゃけると、幽霊と会話することで消費される気力のせいなのだと思う。
実を言えばその精神疲労については、初めて臨也と会ったときから気づいていた。だるさ、頭痛、眩暈、積みあがるそれらの症状をあえて無視してきたのは帝人の意思だ。会話が好きな臨也を具合が悪いからと拒否したくなかったし、もっと根本的に、帝人が臨也と話をしたかったから。
「ええと、平和島さんが聞きたいのは、臨也さんのことですよね」
水を飲んですこし頭がすっきりしたところで問いかける。静雄は新羅と顔を見合わせて、帝人に視線を移した。
「心的ストレスの原因って、あいつか?」
苦々しげに呟くその言葉に、思わず乾いた笑いが漏れた。
「えーと、まあ、間接的にそうなるんですかねえ」
だが決して静雄が思っているような、凶悪に利用されて破滅の道を歩むとか、そういうのではないのだ。なんと言えばいいのかと答えあぐね、帝人は首を傾げる。
幽霊とかなんとか言ったところで、信じてもらえるのだろうか?
迷う帝人に、イラついたように静雄がこめかみを引きつらせるのが分かる。若干おびえた帝人の肩に、新羅が軽く手を置いた。
「臨也のことを、信じているの?」
ただ純粋に興味があるような言い方だったので、帝人は反射的に頷いた。
「ええと、信じる、というか・・・ほだされているんだと思うんです」
「何でお前みたいな高校生のガキが、あんなのと関わるんだ!」
吼えた静雄には苦笑を浮かべ、やっぱり説明しなきゃだめっぽいなあ、と帝人は面倒そうに肩をすくめる。
「そうですね、それじゃあ、等価交換でお願いします」
言うなれば、これはチャンスだ。ネットをどれほど探っても出てこない、折原臨也の今を知るための。
多分、死んだといわれる覚悟もできている、大丈夫。
帝人は大きく息を吸って、それをゆっくりと吐き出した。


「臨也さんは今現在、どうなっているのでしょうか?それを教えていただけたら、僕も事の顛末をお話します」





朱雀会って知ってる?
へえ、聞いたことがあるってことは、君も多少アンダーグラウンドな世界に触れているってことかな。そう、振興ヤクザ・・・まあ暴力団の一つだよ。
あいつらは自分たちの勢力を広げる為にならなんでもする。どれほど非道なことでも、どれほど危険なことでも、本当になんでもするんだ。そんな面白い集団を、情報屋折原臨也が見逃すはずがない。当然のように臨也は彼らに接触したよ、何しろ彼らの欲しがる情報を山ほど抱えているのが臨也だからね、朱雀会のほうでも臨也を重宝したんじゃないかな。
去年の夏くらいから冬にかけて、半年程度は友好な関係を築いていたことは間違いないんだ。でも、それからがよく分からない。臨也は突然朱雀会を見限った。それが全く臨也らしくないほどあからさまに、きっぱりすっぱりと見限ったんだ。臨也なら、もっとスマートな方法で朱雀会と縁を切れたはずだし、そもそも縁を切らずに適当に泳がせておくのが本来の臨也のやり方だっていうのにね。何かよっぽど耐えられないことでもあったんだろうけど、とにかく慌てて縁を切ったらしい臨也は当然、朱雀会から裏切り者のレッテルを貼られ、そりゃ、そんな物騒な集団だもの、そのまま逃がしてくれるわけが無いよね。向こうは向こうで、自分たちが振興暴力団であることを知っている。けじめは特に重要だよ、逃せば名折れだ。
そんなわけで、臨也は殺し屋に狙われた・・・らしい。
らしいって言うのはまあ、全部知ってるわけじゃないから。臨也に聞こうにも、話せないし。
ああ、そんな顔しないで、大丈夫。
生きてるよ?
いつ死んでもおかしくは無いけど、一応、今は生きているよ、臨也。
「・・・生きて、る」
繰り返す帝人に、新羅はにっこりと微笑む。
「まあ一応ね。本当に今この瞬間死んでもおかしくないけど。知り合いの病院に偽名で入院させているんだ。いくらなんでも、私が24時間付きっ切りで点滴の管理をするのは面倒だから」
会いたいなら、会わせようか?そこまで言われてようやく、帝人は大きく息を吐いて肩の力を抜いた。死んだと聞かされる準備はあったつもりだけれども、つもりだけだったと思い知る。多分、どこかで信じていたのだ、臨也が死んでいるはずがないと。
頑なに、信じていたのだろう。
「朱雀会は、たしか、もう・・・」
言いかけた帝人に、君は本当に詳しいね、と笑って新羅は頷く。
「先月の終り頃にほとんど検挙されたね。まだ2・3人の幹部が逃げているらしいけど。まあ、元から無茶だらけの集団だ。古くからある組でも邪魔だっただろうし、当然の結果だろうね」
それでは、もう臨也は狙われないということだろうか。
帝人は考える。ならば自分がやらなくてはならないことは、あの幽霊を肉体に戻すことなのではないのか、と。
「・・・彼が朱雀会を裏切った理由について、新羅さんの意見を聞かせてください」
乾いた声で尋ねた帝人に、新羅はゆっくりと答えた。
「捕まったメンバーの自供から、朱雀会はそのときダラーズについて調べていたらしいという情報がある」
「ダラーズ・・・」
「カラーギャングの、知ってるだろ?臨也はダラーズについて、なにか重大な情報を握っていたらしいんだよね。そしてその情報提供を拒んだ・・・っていうのが、有力な説かな。何しろあれだけの規模があるカラーギャングだ、上手く傘下に収められれば、それだけで箔がつく」
「・・・っ」
帝人は一瞬、酷く泣きそうな顔で唇を噛んだ。
作品名:この手が届いたら 作家名:夏野