二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

この手が届いたら

INDEX|4ページ/14ページ|

次のページ前のページ
 

悪人の噂




いつものチャットルームで、いつものようにセットンとの会話を楽しんでいた帝人は、相手の急な仕事によりその日のチャットを終了した。
また明日と挨拶をしてチャットルームからログアウト。
最近、めっきりチャットで夜更かしすることが減ったなと思って、それからついでのように、今日も甘楽さんは来なかった、と考えた。
嘘だ。
本当はチャットに入った瞬間から、ずっと考えていた。
甘楽というのは、帝人をこのチャットルームに誘ってくれた人で、テンションの高いムードメイカーだった。必然的に甘楽がいればチャットは盛り上がったし、セットンより暇があるらしく、深夜過ぎまで2人でずっと会話をしていることも少なくは無かった。その甘楽が突然このチャットを去ったのは先々月の終わり・・・2月の寒い夜のことだったか。
帝人はそのときのチャットログを開きかけて、やめる。いろんな意味で衝撃的なことを言われて、しかもいい逃げるように姿を消した甘楽のことが、気になって仕方が無いのだ。
病気、事件、事故、怪我・・・都会で、若い女性が巻き込まれる厄介ごとなんていくらでも思いつくから余計に。
「・・・はあ」
ため息をつき、帝人はパソコンの画面をアルバイトで管理している掲示板のほうに切り替えた。仕事は真面目に実直に、帝人だって遊ぶお金は欲しい。と、そのとき。
突然、画面がノイズに乱れ、帝人の顔に向かって何かが飛び出してきた。
「・・・っうわああっ!」
とっさに頭を押さえてのけぞった帝人は、しかし、次の瞬間犯人に思い当たってはっと我に返った。
「っ臨也さん!」
案の定、畳に転がった帝人に向かって、画面から顔だけ出しにたにたと笑っているのは臨也である。
「貞子ーってね、一回やってみたかったんだよねー」
「悪趣味です!」
「うん、知ってるよ」
だって俺趣味悪いもん、と平然と答えて、臨也はそのまま帝人の上に覆いかぶさるようにパソコンから離れ、顔と顔を付き合わせる。あと10センチほど距離を詰めればキスができそうな近さで、にっこりと微笑んだ。
「ただいま、帝人君」
「・・・はい、おかえりなさい」
この体勢に意味はあるのかと、早いところどいてくれと言いかけて、そういえば臨也は幽霊だったと思い出し、帝人はため息と同時に返事を返した。このまま起き上がったとしても、帝人は臨也をすり抜けて難なく立ち上がれるのだ。
「冴えない顔してるね、どうかしたの?」
「いえ、ちょっとオンライン上の知り合いに連絡がつかないので、大丈夫かなって。それだけですから」
「ふぅん?」
若干疑うようなまなざしを向けつつも、それ以上はつっこまず、臨也はばたりとその場に体を倒した。つまりそれは、帝人の体に重なるように床に転がったという意味である。
「ちょっ・・・!臨也さんシュール、これシュールだから!」
慌てて自分が起き上がると、床に伏せた臨也が帝人君ノリわるーい、と笑って仰向けに回転する。ノリとかそういう問題じゃないやい、と帝人はほとんど臨也と重なっていた足をずらした。まるで上半身だけ分裂したみたいに見えて気持悪いじゃないか。某芸人の幽体離脱芸みたいだ。
「もー、こういうのやめてくださいよほんとに」
苦々しく言う帝人に、臨也はごめんごめんと笑いながらその場に立ち上がり、意地悪そうににやりと口元を吊り上げる。
「でも帝人君いちいち反応が大げさだから、ついいじめたくなっちゃうんだよねえ」
「悪趣味!」
「分かってるってば」
それからふと真顔になり、ぼそりと。


「心臓の音聞きたいんだ」


「心臓の、音?」
あまりに真面目に言われた言葉に、帝人は首を傾げる。そんな帝人にそうなんだよ、と頷いて、臨也は手のひらを差し出した。帝人の左胸に当てるようにそれをかざすけれど、当然、帝人には触れられているという感触がない。
「こんな風にしてみても、帝人君には触れないから、俺にはその心臓がちゃんと動いているのかわかんないし。ならせめて、音がききたいんだけど、耳も当てられない。いっそ心臓と重なってみたら聞こえるんじゃないかって、思ったんだけどね」
ため息をつく臨也の様子は、ふざけているようではなかった。彼なりに何か思うことがあって、本気で聞きたいと思ったのだろう。帝人はなんと言えばいいのか分からず、言葉を詰まらせる。
幽霊を名乗る臨也との奇妙な生活が始まって、既に1ヶ月がたとうとしていた。学校にも慣れ、池袋と言う都会にも既に慣れつつあるこの生活で、しかし今でも臨也の存在にだけは慣れない。馴染めないというのではなくて、むしろ、居心地が良すぎて違和感があるのかもしれない。
「で、どう?俺の死亡記事、まだ見つからない?」
無邪気に笑う臨也に、帝人はぎこちなく首を振る。
「いいえ、あなたのえげつない所業とか悪口ならいくらでも出てくるんですけど。目撃情報も、やっぱり2月以降無いです」
「うーん、おかしいね。そろそろ死体があがってもいいころなんだけど」
あっさりと当然のようにそんなことを言う臨也に、帝人は密かに心臓が冷える思いをするのだけれど、ため息をつくに留めた。
実際ネットで調べてみると、折原臨也という男の評判はものすごく悪かった。その反面、一部に熱狂的な信者もいたりするのだが、総評は明らかに「極悪人」である。人間観察が趣味で、人間が狂っていく過程を愛している、5秒ごとに信念が変わる、人を自殺にそそのかす、エトセトラエトセトラ。
帝人の目の前にいる幽霊としての臨也と、その噂で伝え聞く臨也がどうしても一致せず、帝人は正面切って本人に、これは本当にあなたのことですかと尋ねたこともある。
臨也はカラカラと笑って、そうだよ俺は極悪人だからねと答えた。
「君にとって善人でも、その他大勢にとって極悪人なら極悪人のほうが普通で当たり前だろう?俺が君に害がないのは、単にそうする手段がないからかもしれない。心の中では、君を陥れる計算をいくらでもできるのが俺だ。だからあんまり信じちゃいけないよ」
そんなことをあっけらかんと言う。
帝人には、臨也が良くわからない。そんな風に突き放すようなことを言っておいて、ただいまにおかえりで答えれば嬉しそうに笑うし、数日戻らなかったときに心配しましたよと言えば満面の笑みを見せる。もしかして、そんな風に当たり前に人に構われたことが無いのかもしれない。ますます、ネット上の噂が信じられなくなる。
「・・・あなた、本当に死んだんですか?意識不明の重体くらいで、入院してるんじゃありませんか?」
半分自分がそう信じたくて帝人が呟くと、臨也はうーん、と複雑そうに唸って見せた。
「もしそうならそうで、事件としてニュースになるでしょ。なってないってことは内々に処理されたってことで、俺が生きているとしたら絶対にここにいると思った闇医者のところにはいなかったんだよね」
だから多分、だめだと思うよ。あまりに淡白に答えた臨也に、帝人はやっぱりほんの少し息苦しい思いをして、大きく息を吐いた。





本日の授業はつつがなく終了、クラス委員の仕事も特になし。そんな日に限って親友の正臣は委員会、目下仄かな想い人である杏里は家の用事があるという。
ついてないと思いながら校門を出た帝人は、一人さみしく帰路を行く。と、そのとき、
作品名:この手が届いたら 作家名:夏野