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この手が届いたら

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少年に潜むもの





自宅にたどり着いたときには、死ぬんじゃないかというほど荒い息を付いていた。帝人は、日頃の運動不足を祟りながらも、倒れこむように室内に転がり込む。
「大丈夫、帝人君?」
焦ったような臨也の声に、ああ心配をかけてしまったか、と少し良心を痛めつつ、大丈夫だと言える気力もない。とにかくなんとか死守した紙袋を畳の上におき、仰向けにごろりと寝転がれば、上から心配そうに見おろしてくる臨也と目があった。
「あれ・・・って」
ぜえぜえと息を吸いながら切り出せば、そうだよ、と臨也は眉を顰める。
「平和島静雄。ごめんね、あの化物が帝人君に怖い思いさせて」
「い、いえ・・・。なんとか、なりました・・・し」
「びっくりした、あれって俺がやったのかな。あの電流みたいなの」
おそらく、静雄の手を引き剥がした時のことを言っているのだろう。帝人から見ればあれは完全に臨也が魔法を使ったようにしか見えなかったのだが、本人は自分がやったという実感はないらしい。
「ポルターガイスト現象とか、そういうのなのかな。便利だったなー、自由にできるようになんないかな」
一人感心したようにそんなことを言いながら、手を握ったり開いたりしている臨也に苦笑し、帝人はさっきの怒りにあふれた臨也の姿を極力記憶から追い出すことにした。
信じちゃ駄目だ、なんて、本人ばかりか周囲の人間からも言われてしまった。だというのに、帝人はもうとっくに、臨也を信じてしまっているような気がする。
だって、そうでなければ言われるまま路地裏について行ったり、指紋を残しちゃいけないような場所から紙袋を運ぶなんて、絶対に普段ならやらないことだ。
困ったな、と帝人は思った。
思っていた以上に、自分は、臨也という幽霊に肩入れしている。
「紙袋、開けましょう、か」
「もういいの、帝人君?」
「大丈夫、です」
勢いをつけて畳の上で起き上がり、帝人は臨也の紙袋を手にとった。ぴったりとガムテープでふさいであるそれを、丁寧に剥がす。
そんな帝人を横目で見て、臨也は深い溜息を漏らした。
「・・・そんなの、あいつに渡しちゃっても良かったのに」
おい、ちょっとまってくれ。
「は!?何言ってるんですか、これ守るためにあんな必死だったんでしょう?」
驚いて叫んだ帝人に、はあ?と呆れたような顔をして、臨也が返す。
「ばかじゃないの、なんでそんなもののために俺が必死になるのさ。そうじゃなくて、あの化物はほんとに怪力なの!自販機さえぶん投げるような男なんだよ?帝人君の腕が折れちゃったらどうするのさ!」
「え?あ、痛かった、ですけど・・・」
「俺の持ち物なんか、この先記憶が戻ればまた次の探せるじゃないか。そりゃ帝人君の方が優先でしょ。なのにあんな、頑なに渡すまいとするから、俺は気が気じゃなかったよ!」
涙まで見せちゃってさ!となぜかまた怒ったような顔になる臨也の、言っている意味を理解して、帝人は驚いた。
あんなに必死になって助けてくれたのは、なんと、荷物のためではなく帝人のためらしい。
「・・・臨也さんて」
なんというか、この人が悪人だとか、本当か?
「いい人、ですね」
「・・・それ、すっごくいただけない言葉だなあ帝人君」
まあいいけど、と、帝人の言葉に毒気を抜かれたように怒りを薄めた臨也が、肩を竦めてみせる。帝人はそれに安堵して、紙袋をようやく広げることに成功した。
ひっくり返してみれば、中から出てきたのは黒いコート。
「あ。臨也さんのコート?」
「ああ、ほんとだ。俺が今きてるやつ」
広げてみればそれは、着古した感じの黒コートだった。白いファーが少し汚れているように見える。
「内側のポケット、何か入ってない?」
「えっと、あ、財布と携帯電話が」
「携帯は、多分もうだめだな」
「え?」
「俺の携帯、一週間使わなかったら中のデータ全部消すように設定してるから」
そんなことが可能なのか、とは突っ込まなかった。臨也だし。きっと出来るんだろうな、と帝人は簡単に納得し、携帯を無造作に紙袋に戻す。
「あとはお財布、ですか」
「開けて」
他人の財布をあけるなんて、プライバシーを侵害しているみたいであまりいい気分ではないのだが、このさい仕方がない。こわごわと、高そうなその財布を開ける。
真っ先に目に止まったのは、ぎっしりと詰まった万札。綺麗に整理整頓されて隔離された千円札。僕のアルバイト何回分だろう、なんて皮算用をしながら、次に小銭入れを開ける。持ち歩くのが嫌いなのか、小銭はほとんどなかった。
レシートのたぐいもすぐ捨てる人間なのか、財布には一切残っていない。カード入れには、キャッシュカードとクレジットカードが数枚。ポイントカードなんかは一枚も入っていないあたり、帝人の財布とは全く違う。
「その、カード入ってるところの一番左、布地外れるから」
「え?」
「中に何か入ってない?俺いつも、そのときに一番興味を持ってる人間の情報とか、そこに入れる」
「えっと・・・ちょっと待ってください」
言われたとおりに、一番左のカード入れのあたりを調べると、確かに布地がずれる。内側に押し込まれていた紙をとろうとして、勢い余ってそれを取り落とした。
「うわっ」
慌てて床に落ちたそれを手に取ると、どうやら折りたたまれた写真のようだ。独特のつるつりした肌触りを確かめて、慎重にそれを開く。隣に、臨也もぴったりくっつくように寄り添って、その写真を見ようとしていた。
「・・・っ!?」
そして。
開いたその写真に、そろって息を飲む。



そこには、黒い学ランを着た帝人が、つまらなさそうに空を見上げていた。




しばらくの間、帝人も臨也も呆然とその写真を見つめていた。
明らかに盗撮風の、授業中の一コマ。広げられた教科書は数学だろうか。多分、去年の秋あたり、と検討をつけて、帝人は恐る恐る横に視線を向ける。
「い、ざや、さん?」
声は、酷くかすれていた。
同じように呆然と写真を見つめていた臨也が、帝人の声にはっとしたように顔を上げ、それから何か考えるように眉を寄せた。
「・・・君と、俺は、知り合いだった?」
尋ねられた質問には、帝人は首を振る。口調や雰囲気にはどこか覚えが在るような気がしたけれど、それとこれとは話が別だ。会ったことがあるかと問われれば、絶対にない。だってこんな、一度見たら忘れられなさそうな顔をした人なのだから。
「・・・なんで、僕の写真・・・」
「そりゃ、俺が君を調べていたからに違いないさ!だって俺はいつもそうするからね」
それからボロアパートをぐるりと見渡して、それなら納得出来るんだ、と小さくこぼす。
「俺はずっと、この場所にいなきゃいけないような気がしてた。もしかして君を知ってて、君がここに引っ越すことを知っていたとしたら・・・君に会いに来ようとしてたのかも知れない」
「何のために?」
「話をするためだよ!」
当たり前じゃないか、とでも言うように叫んだ臨也が、不意に息を潜める。


「君は、何者なの」


問いかけは非常にシンプル。
けれども言われた帝人は、その言葉に心がついて行かず、一瞬何を言われたのか理解ができなかった。
「・・・え?」
作品名:この手が届いたら 作家名:夏野