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妖鬼譚

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捌章 真実 前篇


「謙也さん!!」

漸く三匹の鬼門を片付け、呼吸も荒く抜き身の刀を構えたまま飛び込んできた光の視界に映ったのは、部屋の中心に力無く屈み込み、天を仰ぐと涙腺が壊れてしまったかの様に静かに涙を流している謙也の姿。
今迄鬼門に襲われた家や人々を幾つも観ていた光にとっても、この忍足家の姿は酷く異常に感じられた。
それ故に一刻も早く謙也を見付けなければ、と焦っていた光は謙也の無事な姿を確認し、安堵の息を漏らした。が。

「謙也さん!?」

名前を呼び掛けてみるが、まるで反応は無い。
慌てて駆け寄ると、謙也からは答えは無いものの、瞬きと呼吸をしている事は確認が出来た。
彼が生きていると分かり安心した光は、一先ず刀を鞘へ納めると改めて謙也の名を呼ぶ。
しかし、相変わらず謙也は光の言葉に答える気配は無い。どうしたらええんやろう、と悩んだ光だったが、何は無くともこの場所を離れるのが先決、と何処かに電話を一本入れた後、謙也を支える様にして立ち上がらせた。

「謙也さん、取り敢えず俺の家行きましょう。此処に居っても辛いだけっすわ」
「……でや?」
「謙也、さん?」
「何でおとんを、おかんを、翔太を殺した?邪魔って何の事や!?元に戻すって何をや!?家族を、皆を返せ、返してや!!!!」

虚ろだった瞳に突如として憤怒の炎を点した謙也は、目の前の光の胸倉を掴むと、それを激しく揺さ振りながら怒りに任せて叫ぶ。
謙也が何を言っているかは分からないが、光はその謙也から溢れ出ている感情全てを受け止めようと、敢えて抵抗する事無く黙って彼の言葉に耳を傾ける。

と、自分が責めている相手が光である事に気が付いた謙也は『財前、ごめん』とだけ呟くと、そのまま糸が切れた様に意識を失ってしまった。
崩れ落ちかけた謙也を慌てて抱き止めた光は、何とかして力の抜けた自分より一回り程大きい身体を背負うと、そのままやや覚束無い足取りで忍足家を後にしたのだった。


作品名:妖鬼譚 作家名:まさき