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妖鬼譚

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終章 輪廻


―鬼門による鬼狩本邸襲撃から凡そ一週間。

その最中、突如として姿を消した謙也の行方は、未だに杳として知れないままであった。彼が消えた直後、襲撃の目的を失った鬼門達は潮を引く様に撤退していった為、鬼狩一族の被害は過去の大戦の時とは比較にならない程小さな物で済んだ。
だがしかし、この様な襲撃が再び起これば、今度は鬼狩一族自体が全滅する様な自体に陥りかねない。
結論として、鬼狩一族は自分達を護る為に全体の意思を『茨城童子の探索、及び忍足家に起きた事件の永久凍結、また、仮に覚醒直後である茨城童子の姿を発見した場合、全力を以て抹殺』という方向に固めた。
無論、光やユウジ、小春はそれに真っ向から異を唱えたが、例え次期宗家当主であろうとも一族の意思決定機関である長老会の決定を覆す事は不可能であり、渋々それに従う事になった。
だが、やはりその決定を良しとしなかった光は、毎日の様に鬼門退治の僅かな合間を縫って覚えのある限りの場所を謙也を探して彷徨っていた……


*****


この日もまた、謙也の行方の手掛かりを求めて方々を探したがやはり梨の礫であり、無駄な探索に終わってしまった事に濃い疲労感を隠しきれない光が、夕闇が迫る中最後に訪れたのは、今や住人が誰一人として居なくなってしまった忍足邸だった。
既に鬼狩一族による封鎖も解け、元の静けさを取り戻しているこの家を毎日の様に覗いてはいるのだが、当たり前の様に此処には人っ子一人存在する気配は無かった。
陰鬱な気分で謙也の部屋のある二階の一角へと視線を向けた光は、その場に凍り付いた様に動きを止めてしまう。

「えっ……」

二階の窓の一つから視界の端にちらりと見えたのは、確かに見覚えのある金色。
自分の黒い瞳に映った物が信じられなかった光だったが、我に返ると慌てて忍足家の玄関の扉の取手を掴んで回すと、思い切り引いてみせた。
今迄ならば、ガチャリ、と鍵が掛かっている音を立てる筈の扉は、何の抵抗も無く外側へと開いていく。
扉の開いた家の中へ転げる様に飛び込んだ光は、靴を脱ぐ動作すらもどかしかったのか、焦りの表情を浮かべて土足のまま階段を駆け登ると、二階の突き当たりの扉を乱暴な迄の勢いで開けた。
すると、そこには光が捜して止まなかった金の髪をしたの鬼門の姿が在った。
窓の外の暮れ行く茜色の空へと視線を向けていた謙也は、扉の開く大きな音に驚いて反射的に振り向いたが、そこに呆然と立ち竦む光の姿を眼にして目を丸くした。

「ひ……か、る?」
「謙也、さん……」

自分の名を呼ばれ、我に返った謙也は、反射的にこの場から逃げ出そうと、呪を唱えようとしたのだが。

「待って下さい!!」

そんな悲痛な叫びと共に手首を思い切り掴まれてしまう。
何とかその手を振り解こうとするが、光の小柄な身体からは考えられない程の強い力で腕を握られてしまい、逃げる事が出来ない。

「離してや!!」
「嫌や、絶対離さへん!!」
「俺は……鬼門や!!お前の敵なんやぞ!!」

そんな言葉を鋭く叫んで、鬼門を退治する事を業として背負う少年を拒否しようとする謙也。
しかし、光は自分よりも一回り大きな身体を力一杯抱き締めると、戸惑う謙也の瞳を真っ直ぐに見つめて、自分の思いの丈を全てぶつけた。

「前にも言うた筈です。アンタの正体なんて関係無い、俺は『忍足謙也』を何が在ろうとも、必ず護り続けるって!!俺を信じてくれって!!」

なのに、何でアンタは俺から逃げるんや!?と、苦しげに叫んだ瞬間、光の漆黒の瞳からは透明な雫が一筋零れ落ちた。
そして、そのまま謙也の胸へと顔を埋めて、幼子の様に感情のままに泣きじゃくる光。

「ごめん、ごめんな、財前。頼むから泣かんといて」

身に付けているシャツに冷たい感触が広がっていくのを感じながら、謙也は光の艶のある黒髪を優しく撫でる。
慈しむ様なその掌の優しい感触に光の涙は止まらず、服はじわりと濡れていく。
だが、その涙は次の言葉によって、完全に止められる事になる。
作品名:妖鬼譚 作家名:まさき