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あい?まい?みー?MINE!!

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Episode.3 ご家族に紹介されました。





「何か、うちの母親が強引で、本当済いません。」

静雄は、帝人と共に自宅への途に着いていた。
『今日の勉強の場所なんですけど、うちに来て貰えませんか。』、と静雄が帝人にメールしたのは、昼休みの時である。
簡潔に前夜の経緯を話すと、了承の返事が来たので、学習会の無いこの日、近くの駅で待ち合わせをした静雄は、やって来た帝人の手に手土産が提げられているのを見て、余計に申し訳ない気持ちになった。

「いやいや、とんでもない!寧ろ、平和島君の事を一時でもお預かりしてるんだし、ちゃんと御挨拶はしなくちゃならないよね!」

そう言って気合を入れている帝人の肩には力が入っている。どうやら緊張をしているらしい。
緊張をしているから、聊か思考回路が明後日へ飛んでいるのだろうか、と静雄は帝人の発言を聞いて思った。彼女の両親に結婚の赦しを得ようとする彼氏ではあるまいに、一体何をそこまで思い詰めているのだろうと。
漏らしそうになる溜息を呑みこんで、伴って2人、平和島家の玄関扉を潜った。



「母さん、ただいま。連れて来たけど。」

帝人同様、事前に母親には本日帝人を伴って帰宅する旨を伝えてある。ので、どうやらこの甘ったるい匂いは静雄の母親が手製の菓子でも作っていた事の名残なのだろうと推測する。
肩肘が張っているのは、どうやらお互い様のようだ。
パタパタと、リビングから玄関へ、静雄の母親が顔を出す。
静雄と並んでいる帝人は、彼女の出現に無意識に背筋を伸ばした。

「あらあら、いらっしゃい!ようこそ平和島家へ!狭い所ですけど、どうぞお上がり下さい。」

にこやかに出迎え、彼女は帝人にスリッパを差し出す。
「あぁ、どうも済みません!」、と堅さの残る声で頭を下げる帝人の様子は、常の落着いた姿からは掛け離れていて、少し新鮮である。
促されてスリッパに足を入れる帝人の後ろ姿を見ながら静雄もまた、靴を脱いだ。



「うちの息子が、大変お世話になっております。」

「初めまして、竜ヶ峰帝人と言います。此方こそ、大事な御子息を一時とはいえお預かりしていて、本当に済みません。」

リビングのソファにて。
丁寧に頭を垂れる両者を見ながら、居た堪れないのは対象とされている静雄である。
本当は口を挟んでしまいたいのだが、言うべき言葉が見当たらず、結局ぐぅと黙り込んで煎餅を齧るしかない。

「何でも、静雄の勉強を見て下さっているとか。大学での勉強もありますでしょうに、有難い事です。しかもボランティアだなんて!今までの分の給金をお支払いしますよ。お時間を取らせてしまった上に無償だなんて、申し訳が立ちません。」

「そんな!僕は別に教員免許を持っている訳でも、専攻していた訳でも、ましてや経験者でも無い、ただの素人なんです。それなのに、お金を払って頂くなんて出来ません。静雄君と過ごす時間では僕自身も色々と学ばせて貰っている事も多くありますし、実りあるものなのです。それで対価とさせて頂けませんか。」

「でも、うちの子、はっきり言って成績振るいませんでしょう?先生も教えるの大変じゃないですか?」

「そんな事ありません。静雄君は根がとても真面目ですから、コツさえ分かれば学力も上がります。吸収力もありますし。ですから、僕自身は本当に、ちょっと手助けする程度なんです。教えるなんて大層な事はしていませんよ。」

そんな身分は不相応です、と苦笑を滲ませる帝人と母親を交互に見、静雄は本格的に居心地が悪さを感じ始めた。
これでは三者面談である。帝人はただの大学生だが、しかし今は静雄の家庭教師でもある。彼等に自分の事を語られるのは非常に恥ずかしい。そして、自分の話にも関わらず、完全に蚊帳の外とされている事実も面白く無い。
尚も静雄についての話を募らせようとする2人に限界を感じ、聊か乱暴に帝人の腕を掴むと、立ち上がらせた。

「わっ!」

「こらっ、静雄!何するの!」

「もう挨拶すんだんだから良いだろ。俺は勉強すんだよ。その為に竜ヶ峰先生に来て貰ったんだし。先生、俺の部屋で良いよな?」

勉強の邪魔すんなよ、と言い捨て、返答を待たずズンズンと進んで行く静雄に苦笑し、帝人は静雄の母親に軽く会釈すると、背の高い中学生の後を大人しくついて行った。



「平和島君のお母さん、良い人だね。」

静雄の自室には勉強机と椅子しか無いので、折り畳み式のテーブルを出し、床へ直に座り込んで、教科書を出す。
その様子を見ながら言った帝人の表情は、微笑ましいと前面に押し出されており、実にばつが悪い。
両親に対して反抗している訳ではないのだが、所謂素直になれない年頃と言うやつである。殆ど両親に対してそう言った感情を持った事の無い帝人からすれば、静雄の態度は酷く可愛らしく映る。

「…普通ッスよ、普通。」

視線を逸らした静雄の様子から、あまりこの話題を引っ張るのは良く無いと思ったのか、帝人は苦笑するだけに留めると、静雄との勉強タイムへと脳味噌を切り替えた。


 2人、集中し始めて30分は経った頃だろうか。
ふいに聞こえたノック音に、静雄と帝人は揃って顔を上げた。

「どうぞ。」

部屋主である静雄が入室許可を出すと、キィ、と小さく音を鳴らしながら、扉が開かれる。
その向こう側に立っていたのは、静雄とは対照的に、サラリと流れる美しい黒髪を有した、無表情の少年だった。

「失礼します。」

平坦な声音でしっかりと挨拶をした少年は、足音を殆どさせずに室内に入ってくる。
手には盆が乗せられており、飲み物と、母親手製と見られる茶菓子が乗せられていた。

「幽。」

「母さんが持ってけって。」

テーブルの空いたスペースに盆を器用に乗せ、幽は静雄と帝人の間に腰を下ろした。
そのまま退席するであろうと考えていた静雄は、実弟の行動に首を傾げる。
幽?、と呼んでみるが、少年が横目で見遣っているのは帝人である。
帝人は察した様に少年に向き直ると、静雄に向けるのと同様の自然の笑顔で幽に笑い掛けた。

「初めまして。竜ヶ峰帝人です。えぇと…平和島君、じゃ、ないや。えぇと、静雄君の……」

「…弟、です。平和島幽です。兄がお世話になっています。」

ペコリと下げられた頭に、つい帝人は噴き出しそうになり、どうにか堪えた、のだが、その様子を静雄に見られてしまい、ムッツリと静雄の機嫌を損ねてしまったらしく、口を尖らせている。

「僕の方こそ、お世話になってます。お茶とお茶菓子を持ってきてくれて有難う。お母さんにもお礼を言っておいて貰えるかな?」

幽の目を覗き込む帝人の表情は、やはり変わらない。兄とは正反対の無表情・無反応は、大抵の場合、初対面の人間には不快感を与えるものであると、幽は認識している。
故に、帝人の笑顔が全くの自然体である事を、幽は動かない表情の下、密かに驚いていた。
こうした反応は、兄弟似た様なものである。勿論、それに誰1人として気付く事は無いのだが。

ジッ、と帝人を見返す幽は、やがて小さく肯首すると、夕飯もうちで食べて行って欲しいと言う母親から頼まれた伝言を帝人に伝え、そして、帝人に会って感じた初めてを、自分の中で確信に変えようと、言葉を継いだ。