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僕のmonster Ⅱ

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決着




こちら池袋。
今日も池袋最強の後輩は荒ぶってます。





(何てな)
ひっくり返った自販機に、折れ曲がった標識、なぎ倒されたガートレールなどなどえとせとらを視界におさめながら、トムは胸ポケットから取り出した煙草に百円ライターで火を灯す。
「・・・・トムさん」
「落ちついたか?」
「・・・はい、すみませんっした」
「いや、いつものことだし別にいいけどよ」
キレた後後輩が少し凹むのは気付いてはいたが、最近その凹み具合が酷い。
ついでに公共物破壊度も凄かった。
おかげで整備が間に合わず、至るところで『KEEP OUT』の黄色いテープが引かれている。
そのせいか、無駄に静雄を煽っては戦争を繰り返す天敵も最近は池袋に姿を見せていない。
奴も命は惜しいらしい。
ぷかーと煙を吐くトムの横でわかりやすく凹んでいる静雄に、どうしたものかと首を捻っていると、味気の無い着信音が響いた。
短いそれはメールの受信を知らせる音だ。
「静雄の携帯じゃねぇのか」
「え、・・・ああ、そうっすね」
何とも鈍い動作だ。
これは重症だなぁと携帯を確認する後輩を何となく見守っていると、ぼんやりしていた目が画面を確認した途端、じわじわと見開かれていく様を目撃してしまった。
よくわからないが、怖い。
「トムさん!」
「おっ、おお」
「今日はこれで終わりっすよね!」
「ま、まあな。後は報告だけだが・・・」
「なら俺もう帰っていいっすか!!」
鬼気迫るとはこのことか。
静雄の迫力には慣れているものの、怖いものは怖い。
引きつる頬で諾を言い渡すと、静雄は体育会系のさよならを叫びながら走り去って行った。
「・・・・何なんだ、おい」
残されたトムは、とりあえず落ちてしまった煙草の火を靴で消してから拾い上げ持参している吸い殻入れに押し込んだ。



握った携帯がみしりと音を立てたが静雄はそれどころではなかった。
メール受信の知らせ。
義務的に指を動かし、見てみたら、
【お仕事お疲れ様です。竜ヶ峰帝人ただいま池袋に戻りました(^◇^)ノシ】
(^◇^)ノシじゃねぇだろぉぉぉぉがよぉぉぉおぉ!!
静雄は全力疾走で池袋の街を駆け抜けた。
途中轢かれてしまったひとたちの対応に追われた警察はこれを事故で処理すべきか、事件で処理すべきか迷ったという。








どどどどどどどどどどガッメキバコンッ!!


「ちょっと、静雄さん。このアパートぼろだけどれっきとした賃貸なんですから、手加減してくださいと何度も」
「何処行ってたんだ!!?」
「・・・野暮用です」
「そんなんで2週間以上も姿消すか!?しかも場所も言わねぇし!」
「戻ってくるとは言いましたよー」
「何時戻るかも言ってなかっただろうが!!」
ぐわんぐわん揺さぶられ、さすがの帝人も気持ち悪くなってきた時、掴まれていた手の力が一気に抜けた。
「静雄さん?」
「・・・また、置いてかれるかもしれねぇって、・・・何でこんな俺ばっか・・・くっそ、お前まじムカツくっ・・・!」
言葉とは裏腹にぎゅうぎゅうに抱きしめられ、帝人は息苦しさを感じながらも抵抗無くその腕を受け止めた。
背中に手を添えると、びくりと一度震え、さらに力を込められた。
恋慕う甘さというより、まるで不安がピークに達した子供のようで、帝人は思わず笑みを零す。
しかし、こうもずっと抱き合っていては埒があかないと、帝人は一度腕を離すよう静雄の背中を叩いた。
それでも拒絶する静雄に、「話があるんです」と帝人は幾分トーンを沈めた声で囁けば、その声をどう捉えたのか、静雄は普段の彼からは想像もできないほど恐る恐る帝人の身体から腕を離した。
視線だけはけして外さない彼に、帝人は微笑む。
貴方が心配することは何一つないんですとでも伝えるように。
「静雄さん、僕は貴方と再会してから、ずっとずぅっと考えてました。貴方の望むままに僕と同じ存在に変えて、ひととしての貴方を奪って貴方を愛してもいいのだろうかって」
「俺は・・っ」
上がる批判を帝人は首を振ることで遮る。
「貴方が本気だということはわかってました。だからこそ悩んで、想って、そして決断したんです」
「・・・決断?」
「はい」
帝人はぞっとするほど美しく、慈しみ溢れた笑みで囁いた。



「貴方の覚悟に、僕も応えたいんです。だって、僕も静雄さんのことを愛してますから」



「・・・っ、」
「静雄さん」
「・・・・・・」
「静雄さん、―――泣かないで」
「・・泣いて、ねぇよ・・・」
白い指先が頬を辿る。
滴がほろりと指から落ちた。
愛する吸血鬼は、嘘つき、とからかうように笑った。



「・・・どうすればいい?」
静雄は唯一の存在に問いかける。
どんな答えでも受け入れられると確信しながら。
「どうすれば、お前と同じになれるんだ」
ふわりと蒼の眸が僅かに伏せられた。
「・・・簡単です。僕の血を飲めばいい」
「お前の血を?」
「ええ、そうです。僕の血を貴方の体内に取り込めば、貴方の細胞全てに侵食し、そして創りかえるんです。ひとから吸血鬼という化け物へと。姿かたちが変わるわけではないけれど、けれど確かにその身は変わります」
帝人は伏せられていた蒼い眸がひたりと静雄を見据えた。
「僕の血を、飲みますか?」
本当にこの吸血鬼は静雄の気持ちを全然理解できていない。
「いまさらだろ」
静雄が笑って言えば、帝人は「そうでしたね」と少しだけ困ったように、けれどどこか安堵したように微笑んだ。







「言っときますけど、吸血鬼の血はものすごくまずいですからね。吐き出してもいいですけど、そうなったら二度と提供しませんから」
「吐き出さねぇ!」
「じゃあ、しっかり飲み込んでくださいね」
そう言って、帝人は唇を自身の手首に寄せた。
うすらと開けた口から伸びた牙が、白い柔らかい皮膚へと喰い込んだ。
寄せられた眉間の皺が痛みではなく、その血のまずさからだと知るのは静雄はその血を飲んでからだ。
唇を離せば、紅い血が手首から滴り落ちる。
「含む血の量によって、貴方が吸血鬼になる時間が早まります。でもほんとまずいですから、無理はしなくていいですからね」
差し出された腕を静雄はゆっくりと握り、己の口元へと引き寄せた。
錆びた血の匂いが鼻腔を擽る。
まだ吸血鬼ではないというのに、その血が欲しいと酷く感じた。
あとはもう戸惑いもなく、緊張に渇きに渇いた口内へ愛しい吸血鬼の血を誘い入れるだけだった。
作品名:僕のmonster Ⅱ 作家名:いの