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愛しい物語の終わり

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幽霊の行方


 ヨーロッパはいい。国を跨ぐのに、一々細かい審査がいらないからね。俺みたいなのにはぴったりさ。俺は日本が好きだが、海外だって嫌いじゃない。人が集まれば悲喜交々。面白いものは色々ある。
 ……ちょっと思ったんだけどさ、君って日本語は分かるのかな? 英語の方がいい? ……いや、やっぱりやめよう。我慢してくれ。
 あの後、向こうはどうなったんだろう? ちょっと脅かすように頼んでおいたんだけど、上手くいったかなあ。ついナイーブになって、色々お節介を焼いてしまったよ。同情されるのも真っ平だし、いよいよもって帰りにくいなあ。万が一知り合いに出くわしたりしたら、羞恥で転げまわってしまいそうだ。いや、まだ肋骨が痛いからやらないけどさあ。
 ……喉元過ぎれば、何とも楽しい日々だった。失くしたものは多かったが、生きてるだけで儲けもの。情報は金になる。金で命は買える。結局、そういうことだ。






 赤林が四木に伝えた情報はこうだ。
「情報屋の妹に、どこかの監視が付いている」
 赤林と双子は、街中で偶然会ったらしい。そこで、赤林が二人をつけている男に気が付いた。赤林は相手の顔を知らなかったので、その男の目的は分からなかった。舞流はそれなりに強いが、放っておくのも忍びなく、赤林はその人間にやめさせようとした。その時点では、ストーカーか何かだと思っていた。
 その男は素直に引いた。しかし、その態度が、男が素人では無いことを赤林に知らせた。

 一方、その男は最初から赤林を知っていた。そして自分の組に帰ってこう伝えた。
「情報屋の妹を張っていたら、粟楠の赤林に絡まれた」
 男は明日機組だった。
 明日機組が双子に目を付けていた理由は単純だった。二人を人質にして、情報屋を取り込んでしまおう。臨也は裏の世界の住人だが、本職の人間ではなかった。同じ土地に家族がいた。脅すのは簡単なことだ。そして、彼らはこの日こう判断した。
「情報屋は粟楠会と繋がっている」

 情報をもたらされた四木は、部下に臨也の妹を張らせた。赤林の話から、相手はどこかの下部組織の人間だろうと判断してのことだった。元々、臨也は金さえ払えば誰とでも仕事をするスタンスだ。その相手によって自分達に不利益になるならば、潰せばいいだけの話だった。そして、粟楠会は明日機組に辿り着いた。
「情報屋は明日機と関わりがあるようだ」
 四木の部下はそう報告した。それで十分だった。四木は、臨也にそれなりの圧力をかけていた。それで大人しくならないのなら、それ以上の圧力をかけなければならない。たった二日間の出来事だった。

 臨也は、早急に自分の状況を理解した。すぐに身一つで逃げ出し、人混みに身を隠した。いくらその手の組織でも、一般人の前で堂々と手を出したりはしない。そうして状況を整理していたところに、明日機組がこう言って接触してきた。
「うちに協力するなら匿ってやる」
 それを、粟楠会に見られた。この時点までは、臨也は黒に近いグレーだった。すっかり黒になった。
 しかも、臨也は明日機組が妹を押さえていることを知らされた。逃げ場は無かった。臨也は口八丁に丸めこみ、十日の猶予を得た。明日機組は強引に話を進めようとしたが、そこはまだ人の目があり、臨也も丸腰では無かった。後はひたすら、粟楠会から逃げ、明日機組に監視されながら、状況を覆す方法を考えていた。
 もはや何が原因なのか、臨也には分からなかった。



 臨也の当初の計画は、死を偽装して海外に逃げる。それだけだった。しかし、事態は予想外の方向へ転がる。静雄が、妹達についていた明日機組を殴り飛ばしたのだ。
 その直前、臨也は静雄に出くわし、大通りから路地に入り、ぐるりと逃げ回ってまた大通りに戻っていた。静雄を振り切ってから粟楠会に狙撃されたが、雨のおかげかコート一着の犠牲だけで済んだ。しかし、その後かかってきた電話に愕然とした。
「お前が平和島静雄をけしかけたんだろう」
 臨也は、驚きを通り越して、笑った。視界の悪い豪雨の中、静雄と臨也が路地に入り、そして出て来たとだけ見えたらしい。
 ――――――街灯が見えなかったのか!
 臨也は内心罵った。しかし、妹達に張り付いていただけあって、二人が静雄と交流があることは知られていた。上手くそそのかしたんだろう、そんな言葉を聞き流していたはずが、いつのまにか携帯が地面でひしゃげていた。

 明日機組にまで狙われるようになって、臨也はようやく最悪の事態を想定し始めた。携帯は壊してしまった。結局、追手を上手く振り払えず、丸二日で捕まった。先に臨也を捕えたのは明日機組だった。
 幸運だったのは、まだ臨也に利用価値があること、そして、粟楠会がその動向に気付いていたことだった。連れて行かれた先は、ダラーズと黄巾賊が争ったような、廃れた工場跡だった。
 色々聞かれたし、当然暴力もあった。ナイフは取り上げられていた。そこへ、粟楠会の下っ端が踏み込んできたのだ。
 臨也はもう自分の状態もよく分からなくなっていたが、この事態は想定していた。明日機組にせよ粟楠会にせよ、臨也の口から情報が漏れることを恐れていた。むしろ当然の状況だった。
 臨也は、隠し持っていたスプレーをぶちまけた。九瑠璃の試作品。それは確かに失敗作だった。工場内は阿鼻叫喚になった。
 後に聞いた話だと、何人か病院送りになったらしい。

 臨也は何とか工場内から逃れたが、負傷が激しく、スプレーも少し吸い込んでいた。そう遠くへは行けなかった。途中から這うようにして、工場の傍に放置されていたドラム缶の陰に身を隠した。工場はしんと静かだった。だんだん震えが来て、臨也は体を丸め、手に持っていたものをぎゅっと握りしめた。近くに居た明日機組の男の携帯電話だ。胸ポケットから垂れていたストラップを、工場を出る際に掴んできたのだった。
 その後のことを、臨也はよく覚えていない。朦朧としながら、色々考えたとは思う。臨也の記憶がはっきりしているのは、誰かに肩を引かれたところからだ。はっとして仰ぎ見ると、四木が立っていた。四木は黙って手を伸ばし、携帯の通話を切った。どこかに電話をしていたことに、その時はじめて気が付いた。臨也は茫然と四木を見上げ、それから視線を下ろした。銃を持っていた。四木は臨也に質問をしたが、臨也は答えなかった。ただ、携帯電話を差し出し、こう尋ねた。
『命は買えますか?』
 四木は、眉間に皺を寄せた。



作品名:愛しい物語の終わり 作家名:窓子