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さらんらっぷ
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歓喜の歌は己が為に響かせる 前編

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 鬼道さんから許可をもらい、火曜日と木曜日は合奏の練習に充てるようにした。ヴィオラパートは男女ともに半々くらいだった。トップは三年の男子生徒で、確か――成金の息子だった気がする。後で聴いた話だが、鬼道さんも実はオーケストラの演奏者としてスカウトを受けていたらしいが、サッカー部の司令塔に加え、学校の中枢部にも関わっており激務をこなしていたため、断ったという話だ。中枢部にいるため、生徒の情報を把握しており、俺も鬼道さんの仕事を手伝う傍らでその情報を吸収していた。帝国の、鬼道の参謀として活躍するため俺はあらゆる情報を把握しなければならない。さらにフォワードとしての力もつけなければならない――だが、このオーケストラでの活動も鬼道さんに期待されている以上、俺はただ黙々とこなし、最高のパフォーマンスで仕事をしなければならない。
 音楽部の練習後、楽器の片づけをしていると同パートの女生徒が話かけてきた。
「佐久間君はすごいね。カルテットでも、いい演奏するなぁって思っていたけど――音楽部に入ればいいのに。」
「佐久間君なら絶対、プロになれるよ!」
「でも、俺はサッカー部だ。演奏者にはなれないよ。」
拭き終った楽器をケースに入れて布を一枚かぶせる。ケースの蓋を閉めたところに先輩の姿があった。
「入らないか?音楽部に。こんなにいい腕を持っているのに、生かさないなんてもったいない。」
「俺にはいい脚があるんで、サッカーで生かしたいんですよ。」
挨拶をして、さっさと部室を抜けた。音楽部はこの後、連絡があるとかでまだ帰れないのだが、俺は別だ。
 俺が練習をしてしばらく経ってから、連中は俺を音楽部に引き込もうと熱心だった。ヴィオラはただの教養。しかし、やるなら最高のパフォーマンスで。そして、最高を目指し続けたいのはサッカーだ。
 エレベーターに乗り、一階を目指す。すんなり降りていくだろうと思ったら、次の階で止まり、入ってきたのはあの源田だった。
「佐久間も丁度終わりか?」
「……。」
もう、音楽部としゃべった分で俺のしゃべる気力は失せていた。
 俺はときたま思うのだ――俺は鬼道さんの参謀であるために努力をしていた。しかし、こいつは鬼道さんとクラスが同じ上、昼食も鬼道さんと食べているし、お互いにお互いが知っているような口ぶりだった――こいつの方が参謀に向いているのではないか、だなんて。
「なぁ鬼道と話していたんだが……。」
そう、こいつはいつも鬼道さんと話をしている。羨ましい、妬ましい……。
「これから昼食はあの控室で一緒に食べないか?」
「どういうことだ?」
「鬼道が心配してたぞ。お前がいつも売店のものしか食べてないって思い込んでる。」
鬼道さんが心配を?あの人に心配をさせてしまうだなんて、自分が許せない。どんな小さいことでも。しかし、あの一緒に昼食を食べた日、本当ならいつもは辺見と一緒に食べているものだから、辺見に怒られたのだ。なんでなかなか帰ってこないんだと。
「心配はいりません……って伝えておいてくれ。」
「――ちゃんと食べろよ?」
源田まで心配そうな顔で俺を見てきた。まるで憐れまれているみたい。
「そんな顔するんじゃねぇよ。お前に心配されなくても、自分のことは自分で面倒は見る。」
「そうか。」
それでも源田は心配そうな表情と苦しそうな表情が顔に混ざっていた。

 朝練は相変わらずサッカー部に充て、とくに音楽部で活動した翌日は気合がはいった。座って演奏してるより、常に状況が変わるこの空気の中で走り続けたいのだ、俺は。そして、隣には鬼道がいる。彼の掛け声一つで俺はどこにでも飛び、蹴り、走る。仲間として、参謀として、そうあり続けることを俺は望んでいた。
「佐久間、気合が入ってるな。」
「はい……!音楽部もやってるからって怠けてられませんから!」
鬼道さんが嬉しそうに笑ってくれた。俺は常に、この人に認められたかった……。
 しかし、気合をいれる分だけ腹は減る。オマケして昼食はパンを二つ買った。辺見の待つ教室に向かうと、教室がざわついていることに気付いた。何があったんだろうと駆け寄り、持っていたパンの入っていた袋を落としてしまった。
「遅かったな、佐久間。」
そう声をかけたのは源田だった。
いつも辺見と食べている席に源田と鬼道、そして辺見が座っていた。
「どうしたんですか、鬼道さん。」
「いや――また、売店のものだけしか食べていないのかと思ってな。」
といい、俺が先ほど買ったパンの入った袋を見やる。恥ずかしくなって、カァッと顔が熱くなった。
「さ、席につけ。早く食べよう。」
鬼道さんにそう促され、ようやく袋を拾って席についた。俺たちが食べ始めると、周りのざわめきも落ち着き昼食らしい雰囲気を取り戻した。
「今日は味噌汁も用意したぞ。」
源田が持っている大きな水筒から確かに、味噌の香りが匂うスープを持ってきたのか、茶碗にいれて四人に回した。
「俺、学校で味噌汁飲むなんて初めてなんだけど。」
辺見がどれどれと味噌汁を飲んで味を絶賛した。俺も味噌汁から飲む――。
「美味いか?」
「おいしい――と思う。」
源田に尋ねられ、断言ははばかれた。否定してやりたいものの、鬼道さんがおいしそうに飲む傍らそんなことはできない。しかも、本当においしい部類だと思う。
 前回の会議室の控室で食べたようなおかずもまた並び、それをつっついた。
「いつも源田と鬼道さんはこれ食べてるんですか?」
辺見が何気に質問すると二人ともうなづいた。
「しかも源田が全部作ってるんだ。」
鬼道さんがそう発言した瞬間、教室全体がガタッと動いたのが俺にはわかった。辺見は「へ~源田が……ええっ!」とワンテンポ遅れて反応した。
「お前、そんな特技があったなんて俺は知らないぞ!だからお前、モテるのか!」
「いや、モテるとかそれは関係ないだろ……。」
ぎゃいぎゃいと騒ぐ辺見にビンタをくらわせて黙らせる。
「食事中だ、慎め。」
辺見は大人しく席に収まり、ぱくぱくと遠慮知らずにおかずを食べる。
 だが内心、俺も驚いた。これを言うと誰にも笑われると思うが、参謀というのはある意味で女房役みたいなものだと思っている。参謀は司令官のために情報と知識を蓄え、いざというときには司令官の代わりに指揮をとる。女房役は逆に精神的な支えと言おうか。しかし、参謀だって参謀の仕事ができてこそ、支える人の心も支えることができると思っている。源田は参謀の仕事も女房役の仕事も見事にこなしているんじゃないのか?情報と知識の面については源田がどれほどの力量かははかりかねているが、常に鬼道さんの隣にいて、しかも食事まで――。ギリッと使っていた箸を歯で噛んだ。
 「そうだ鬼道、佐久間のヴィオラは聴いたことがあるか?」
源田がいきなり俺の話に切り替えてきた。
「初等部から一緒だからな――聴いたことはある。」
「佐久間は本当にヴィオラが巧いよな。前、合唱とオーケストラで合わせをしたときに初めて聴いたんだけど、サッカーだけじゃなくて音楽も巧いなんて羨ましいなぁ……。」
俺は源田を睨んだ。そんなことを褒められてもちっとも嬉しくない。むしろ羨ましいのは……。
「あんなに巧いのにもったいないよなぁ。」