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さらんらっぷ
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歓喜の歌は己が為に響かせる 後編

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 おお、友よ、このような音ではないのだ。
 我々はもっと心地のよい歓喜に満ち溢れた歌を歌おうではないか。


 第九は、第四楽章に至るまで歌がつかない。第四楽章に至り、管楽器と低弦のチェロとコントラバスによる応酬が始まる。そしてそれまでの楽章の旋律が再現されては、低弦に否定をされるが如く、諭されるが如く旋律のみが響き渡る。否定の代わりに、低弦からあの旋律が導き出される、歓喜の歌。それは次第に広がり、全ての楽器が歌を歌い始める。だが、それでもやはり違う。音楽は荒れ狂い、そこに言葉が生まれる――人間、人間の歌声だ。
 このような音ではない、歓喜の歌を歌おう。歓喜よ、歓喜よ――、歓喜を、歓喜を――。
 かくして導かれた歓喜の歌は、それまでの旋律を否定した上で演奏される。苦悩を乗り越え、歓喜に至ったのだ。


 演奏会は大盛況の内に終わりを告げた。指揮者が最後、調子がよくなったのか、はたまたオーケストラもそうなったのか随分と走ったような気がする。そんな激奏は六十〇分程に及んだ。そして、コンサートの終了と同時に冬休みに入った。
 来年の四日になるまで、学園は開かない。サッカーは当分、お預けだと思ったが鬼道さんに誘われて、鬼道さんのお宅にお邪魔した。案の定というべきか、源田も一緒だった。
「初めて来たんだ。」
源田はわくわくした様子だった。学園に入って以来、友人の家に遊びに行くとかそういうのは無くなっていたらしい。そりゃ、サッカーを毎日やる生活になっていれば、そうなるだろう。俺も鬼道さんの家は久しぶりだった。
 「先日のコンサート、大盛況だったな。俺も聴きに言ったが、良かったよ。」
まず、鬼道さんに労われた。
「また来月からはサッカー部として、頑張ってくれ。」
それから来年に向けての打ち合わせをした。源田をディフェンス陣の中心に据える、という話だった。先日、自分がここでやっていけるかどうか不安がっていた源田には朗報だろう。俺は、まだ完成できていない必殺技の開発の話が中心になった。
 源田にはとくに関係のない話題だったためか、源田には自室で練習の様子を収録したDVDと資料を渡して、俺は鬼道さんに連れられて部屋から出た。
「源田のことすまんな。」
「なんのことですか。」
鬼道さんの後ろを歩いていたが、隣を歩けと指示され隣についた。
「あいつ、自暴自棄みたいになってただろ?」
それを言われて、ついこの間の源田が声を荒げた日を思い出した。
「源田は途中編入だから、余計に帝国学園のやり方馴染めない部分も出てくるだろうとは思っていたが、案の定それが出た。」
「でも、それだったら他の連中だって……。」
「源田は実力はあるが、自信がそれに付随しているわけじゃない。佐久間もそうだろう?」
「俺はただ、常に向上心があるだけですよ。」
自信がない、なんてかっこ悪い本心は言えない。でも、鬼道さんには全て見透かされているんだろうなと思う。
 「俺から自信が持てるように働きかけていたが、どうも効果がなくてな。でも、話して言るうちにわかったんだが、あいつはお前を目標にしてる。」
「……源田にも言われました。俺に追いつきたいとか――。」
俺たちがたどり着いたのはリビングだった。イスに座っていろと言われ待っていると、鬼道さんから直々に紅茶を差し出された。鬼道さんもイスに座り、また語り始める。
「多分、今の源田はお前に否定されたり、肯定されたほうが成長するし、自信を持てるような気がする。」
「なんで、俺なのでしょうか……。」
「惚れたんじゃないのか?」
まさかそんな言葉が鬼道さんの口から聞けるとは思わなくて、思わず口を開いてしまった。
「あいつ、初めてお前のシュートを受けたとき、ものすごく興奮していた。こんなシュート、受け止めたことがない。そう言っていた。」
一瞬でも、惚れたの意味を如何わしい方に捉えた自分を叱咤したい。
「佐久間も源田の実力はわかるだろ?」
「はい――。」
とくに、ここ最近は一緒になることが多かったせいで、しかも彼の内面さえも見てしまった故に、強さだけではなく弱さも知った。
「さっきの話でも出たが、守りは源田に、攻めは佐久間に任せたいと思う。もちろん、お前たちには俺から指示を出す。だが、お前たち二人も協力し合って欲しい。」
「任せてください。」
それが、帝国の、鬼道さんのためになるなら……。


 鬼道さんの家を後にしたあと、また俺が源田を家まで送ることにした。
「よかったな。ディフェンダーの指揮任されて。これなら、レギュラーの座から落ちる心配もないだろ?」
「え、ああ……そうだな。本当にこの前はすまなかった。」
「いいさ、気にしなくて。」
車は私道から公道に入り、車の流れに入った。
 「なぁ、源田って俺のことどう思ってるの?」
「どうって……。」
はは、と笑ってるような顔をしつつ。眉尻は下がっていた。
「いや、この前の聞いた話だと、俺のことまるで何でも知っていてできる奴だーみたいなこと言ってたから。
なんでそう思うようになったのか気になるじゃん。あといつから?」
腕を軽くくんで、うーんと唸り目線を合わせない。
「最初に会ったときからかな。」
「第一印象でそんな思うかよ。お前、目大丈夫か?」
「いや、まず鬼道のことは知っていた。天才司令塔。帝国学園初等部サッカークラブで活躍していたって。でも、雲より上の人だったし、帝国学園自体もそうだった。それで、初めて中等部から入って、鬼道の隣にいる佐久間を見たとき、鬼道にいろんなことを報告していたり、後は他のメンバーと一緒に練習していて、とても信頼されているように見えた。頼られるってことは、人望があるとか技能があるからだろ?それで、そんな印象になったんだと思う。うん。」
本人も今、自分で考え、言ったことで確信したようだ。
「俺はまだそのときはレギュラー入りも果たせていなかったのに。まぁ、ある意味、お前は人を見る目があるようだな。」
「ん、そうなのか?」
さっき言ったセリフは俺自身への自画自賛だったのだが、とくに突っ込みはいただけなかった。なんだよ、と肩透かしを食らってる俺に源田は、あのにこにこ笑顔だった。
 「俺、今は第九やってよかったかなーって思ってる。」
「唐突だな。」
「いやだって、俺たちがよく話すようになったのは第九に参加することになってからじゃないか?」
「そうか?お前が弁当一緒に食べようって言ったからじゃないのか?」
二人で認識が若干、違うが源田の本心がさらけ出されたきっかけを第九と考えれば、まぁ源田の通りなのだろうか。
「でも来年はやらないなー。」
「俺もやんねぇ。ヴィオラはもういい。サッカーがやりたい。」
「俺もだ。」
「気が合うな。」
「そりゃ、サッカー部なんだから、そう思わなきゃお互い変だろ。」
「それもそうだ。」
くだらない話で小さく盛り上がりながら、車は源田の家の前についた。
「じゃぁまた来年だな――良いお年を。」
「源田もな。来年からは自信もてやってけよ。」
「おう。」
拳を軽くぶつけ合い、源田が見送る中、車を出した。