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あい?まい?みー?MINE!! 番外編

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ヴァレンタイン小噺





 ずっと、聞こう聞こうと思ってたことなんだけど、と、言う帝人の言葉に目を向けた静雄は、持っていたマグカップを口元に持って行き。

「静雄君って、彼女とか居ないの?」

口に含んだ飲み物を盛大に噴き出した。
ゲホゲホと噎せる静雄の背を摩る帝人とは対照的に、向かいに座っていた幽は心持ち呆れたような顔をしていた。
殆ど動かない表情筋であるが、家族である静雄は読み取れるし、帝人もその幽の顔を見て何を思っているか悟ったらしく、苦笑した。
幸い、机の上の勉強道具は、彼らの母親が差し入れてくれた茶菓子を乗せるにあたり退けられていたので、茶色の染みを作ることなく済んだ。
特に幽は兄と共に宿題をやっていた身であるので、万が一にでも掛かってしまった日には悲惨である。
安堵した静雄は、薄らと涙目になりながら帝人を睨む。

「っ、はぁっ、いっ、きなり何なんですか先生!」

「えっ、あ、いやぁ・・・御免。」

後頭部を掻く帝人は申し訳無さそうに静雄に対して小さく頭を下げる。
次いで、幽の方を見て、飛ばなかった?、と訊いた。
微動作で帝人の問いに答えた幽は、尚も視線を向けてくる帝人へと不思議そうに首を傾げる。
無言の催促を受け取った帝人は、だってさ、と言い難そうに言葉を零した。

「今日ってさ、ほら、14日じゃない?それなのに、勉強入れちゃって、悪かったかな、と。」

「何か14日が関係あるんですか?」

意味が分からないと兄弟揃って首を傾げる。
和む光景についつい帝人は携帯で写真を撮りそうになって、慌てて自身の行動を諌めた。
仕切り直すように小さく咳払いをし、だからね、と続ける。

「今日、ヴァレンタインでしょ。2人共格好良いし、彼女とか居るんじゃないかな、って。それなのに、こんな日にまで勉強させてる僕は、かなり野暮なことをしてるんじゃないかと思ってさ。」

ふぅ、と1つ息を吐いて、帝人はコーヒーを啜る。
蜂蜜の優しい甘みのカフェオレを呑んだ静雄は、何とも言えない表情を作った。
本日の勉強会はそもそも事前に静雄の予定を優先させて組まれたものだし、もっと言えば希望したのは静雄の方である。
羞恥やら苛立ちやら寂しさやら、胸に去来する感情は1つに統一されず、寧ろ渦となってグルグルと回っている。
だが最終的に、どうやら寂しさが微かに強かったらしく、ムゥッと口元を尖らせ、横に視線をずらした。

「んなの、居ねぇっスよ。」

「えぇ!?静雄君、そんなに背が高くて顔立ちも良くて優しいのに!?」

褒め言葉の羅列に、一気に顔面へと血液が溜まっていくが、それは帝人の評価であって他者から一般的に与えられる静雄への感情がどういうものか、悲しいかな理解している静雄は落ち着けと暴れる心臓を押え付けた。顔の赤味は中々引かなかったけれども。
長所を覆って余りあるどころか完全に隠してしまう短所が、静雄にはあった。
解せない、と首を傾げる帝人は、次に幽へ視線を移す。
受け止めた幽は、ふるりと1つ首を振った。横へ。

「そうなの?幽君だって綺麗な顔だし気が利くし凄く良い子なのに・・・」

うぅん、と唸る帝人と幽を見ていた静雄は、ふいに視線を向けた弟と視線が絡み、2人揃って小さく嘆息した。
帝人の抱く2人への印象と、世間の評価には随分と開きがある。
というより、彼ら兄弟を見て好印象しか持たないという時点でおかし過ぎる。
平和島兄弟は、片やその怪力で、片やその無表情で、言われない中傷を受けることも少なくない。特に兄である静雄は、伝説が1人で歩き回り、他人が寄って来ることなど滅多に無い。
だからこそ、帝人が全面的に彼らを肯定することに、こそばゆい嬉しさを感じると共に、時折その感性の歪さを懸念してしまう。
平凡な容姿、平凡な生を歩んできたであろう彼が、どうにも普通ではないらしいと彼らが思うのは、そうした理由があるのだった。
類は友を呼ぶ、とはこういうことかと、静雄は1人納得した。
しかし、非凡な日常を送らざるをえない静雄にとって、帝人の在り方は彼自身の性質と相まって酷く眩く、憧れさせるものがあることも確かだ。

 未だに考え込んでいる帝人の思考を引き揚げるように、微糖のカフェオレを呑んでいた幽が「じゃあ・・・」、と小さく声を上げた。

「そういう帝人先生は、彼女とか、居ないんですか?」

調子の変わらぬ声で紡がれた音に、聞かれてもいないのに静雄の鼓動が1つ、大きく跳ねた。
ジワリ、と言い得ぬ感情が身体中を巡って行く気がして、不安と不快感に手に持つマグカップに無意識に力を込めた。
どうにか陶磁器が割れない程度にまで力をセーブし、一方の意識は耳へと集中していく。
妙な緊張感で暑くもないのに額に汗が浮かんだような気がした。
チラリと、帝人へと目を向ける。
問われた帝人は一瞬、言葉の意味を読み取れず、一拍置いて、幽に向かって苦笑を零した。

「あはは、居た方が格好はつくかもねぇ。・・・僕も居ないから、気にしないで。」

帝人の口から落とされた否定の言葉に、入っていた肩と両手の力がふと抜けた。
無意識に止めていたらしい息を口から吐き出す。
その様子を弟が見ていたことなど、静雄は知らない。

「先生は、チョコレートとか、好きですか?」

「うん?あぁ、嫌いじゃないよ。疲れてる時とか、無性に食べたくなったりするよね。」

「そうですか。良かったです。」

そう言って、幽は部屋を出て行った。
その行動に、帝人と静雄は顔を見合わせる。

「幽君、どうかしたのかな?」

「さぁ、俺にも良く・・・」

帝人の顔を見た静雄は、再び良く分からない感情に占拠された。
しかし今度の気持ちは、胸を締め付けるというよりは、暖めるような優しく煌めいたもので、静雄は自身の感情の揺れに内心で首を傾げる。
と、退室していた幽が戻って来た。片手に見慣れぬ小さな箱を持って。

「幽?」

「良かったら、貰って下さい。」

言って、幽は帝人へとそれを差し出した。
落ち着いた色合いの包装紙で綺麗にラッピングされ、可愛らしくローズピンクのリボンがあしらわれたソレは―――・・・

「えっ、僕、に?」

「恩チョコ、っていうんでしたか。いつもお世話になってます。」

恭しく差し出されたチョコを、思わず帝人は受け取ってしまう。
瞠目して幽と贈り物を交互に見る帝人へ、幽は首を傾げて「迷惑ですか」、と投げる。卑怯な一言である。
帝人は慌てて首を横に振って否定し、お礼を言うと大切そうに鞄の中へとしまった。
それに慌てたのは静雄だ。出遅れた苦々しさと焦りで、感情が顔に出てしまう。
その上。

「やぁ~、幽君に先越されちゃうとは思わなかったけど。」

と言い置き、鞄を漁った帝人が取り出した物は。

「はい、ハッピーヴァレンタイン。僕からで申し訳ないけども。」

2つの、同じ大きさの、可愛らしくラッピングされたチョコレート。
ちゃんとした洋菓子店で売られている、少し値段が高めのものだろう。自分で食べる分には、絶対に静雄が手を出さないような代物だ。
有難うございます、と変わらない顔で嬉しそうなオーラを振り撒く幽は、静雄程ではないにしろ甘党である。

「あっ、有難う、です。」