二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ふざけんなぁ!! 5

INDEX|3ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

20.もしあの日、アパートが崩壊しなかったら? 2



携帯で時刻を確認すれば11時半。昨日同様、贄川春奈は来良学園の制服姿だった。


「お前、学校はどうしたんだよ?」
「期末テストが近いので、半日なんです」
「真顔で嘘つくんじゃねーよ」


今朝帝人は、朝食の余りでせっせと自分用の弁当を作り、それを抱えて登校していった。
幼馴染の正臣と毎日メールで連絡を取っているのだ。午後の授業が無ければ、前もって、過保護なあの少年が教える筈。

自分自身、高校時代は臨也に嵌められまくっていた為、喧嘩三昧に明け暮れ、遅刻、早退、無断欠席のオンパレードで、決して褒められた生徒ではなかった。
人様に説教できる立場ではないが、だからと言って自分をサボりの理由に使われるのは業腹だったし、何よりうぜぇ。
切れて女に手を上げない用心の為、スラックスのポケットに両手を突っ込むが、こんな程度の防波堤じゃ、どれだけ時間が稼げる事やら。
無意識に、溜息が零れた。


「昨日、俺確かに言ったよな。弁当を受け取るのは、一回こっきりだって」
「好きなんです、私、貴方が好きなんです!!」
「それはありがとよ。でも、俺には婚約者がいるんだ。そいつ以外愛してねぇ」
「私のほうがもっと、より深く、貴方を愛します。愛してます、愛してます、だから……、私を愛して……」
昨日同様、泣きながら重箱を押し付けてくるが、静雄は断固ポケットから両手を出さなかった。

彼女の必死さは、ひしひしと伝わってくる。
さっきソープランド前でとっ捕まえた回収客同様、自分の心に言い聞かせるように呟く、切なくも愚かな思い込み……妄執と同じだ。
こいつは、【静雄を愛している】と信じたいだけ。
彼女が何度も口にする『貴方を愛している』という気持ちは、欠片も感じられない。

「お前、俺の好みじゃねーんだ。だからお前を本当に大事にしてくれる、別な男を探してくれ」


女に好意を寄せられたのは、帝人に続いて二人目だ。
それでも全く、一ミクロンも心がびくとも動かない。
嬉しくもなんともなく、今はもう、ただこの女が鬱陶しい。
自分は彼女を、未来永劫愛する事は無いだろう。
だったら期待を持たせる前に、ばっさり振るしかねぇ。


「愛してます、愛してます、私、絶対諦めませんから!!」
「トムさん、行きましょう」
「あいよ」

わぁわぁと泣き崩れる哀れな少女の姿に、静雄の良心が、泣かせた事に対してだけ、ちくちくと痛む。
振り返るのを我慢し、上司の姿を目で追うと、彼は建物に入る事なく、スタスタと元来た道を戻りだした。
(なんでだ?)
首を傾げながら後を追いかけると、トムは贄川春奈から100メートルぐらい距離を取ると、にぃっと口角を吊り上げて笑った。

「事務所に入っちまったらあの娘、お前が出てくるまで絶対待ち伏せするだろうからな」
「じゃあ夜になるまで、俺達会社に戻れないっつー事っすか?」
「いいや」

トムは携帯をポケットから取り出し、ぴぴぴっと、ボタンを軽やかに押す。

「……あー、すんません。来良学園の女子生徒が今、授業サボってウチの会社前に張り付いているんですよ。治安もあんまり良くない場所ですし、何かあったらじゃ遅いんで、とっとと補導して貰えると助かります………」

会社名と住所、それから己の名前を飄々と名乗る上司の姿に、つつっと冷や汗が流れてくる。
先輩は容赦なく、110番通報をしやがったのだ。
自分の過去の経験からいって、警察署に連れて行かれれば、親か先生が呼び出しコースだろうに。
鬱陶しいけど、一応自分に想いを寄せてくれた娘。
振り返りかけた静雄の首根っこは、むんずとトムに引っ掴まれた。

「ちょっ、何するんっすか!?」
「耐えろ。こういうのはな、面倒な芽が大きく育つ前に、ばっさり刈り取っちまうのがいいんだ。ここで庇えば泥沼化するべ。それとも静雄、帝人ちゃんと別れて、あの娘を取るのか?」
「冗談じゃないっす!!」
「恋愛はなぁ、一人でするもんじゃないんだ。お前の迷惑を顧みず、我を押し付けてくるだけの少女の気持ちを受け取れないのはお前のせいじゃない。判ったな?」
「うすっ」
「なら、気持ちを切り替えて、旨いメシ食いいくべ♪ 今日は俺が奢ってやる♪ 露西亜寿司の昼ランチでいいな♪」
「うすっ!!」


油断すれば、直ぐに『俺が悪い』とネガティブにどっぷり浸かりがちな自分に、この人は『そんなの簡単だ。お前が悩む事なんかない』って、いつも笑い飛ばしてくれる。
上司がこの人で、本当に良かったと思った。



★☆★☆★


その頃、折原臨也は上機嫌だった。

帝人を怒らせ、パソコンを数台クラッシュさせられてから、以来メインパソコンの常時接続は控えていたのだが、今朝起き抜けにパソコンを立ち上げた時、入っていた情報に、彼は喝采を送った。
なんと昨夜、静雄とセルティが池袋の街で、大乱闘を繰り広げたらしい。

それも静雄は無抵抗で逃げ回り、黒バイクは大鎌を振り回して彼を執拗に追いかけ、何度も何度もバイクで轢きまくり、ボロボロのズタズタにするなんて。
何をしでかしてセルティの逆鱗に触れたか知らないが、ざまあみろ♪だ。


七月だというのに、彼は暑苦しい黒いファーコートを着込み、炎天下をものともせず、木の箱を大事に抱え、左手はSEIYU印の重いビニール袋を持ち、鼻歌を歌い、足取りも軽く、時折くるりくるりと回転する。

どっからどう見ても、危ない男だ。
顔は良いのに、非常に残念な事である。
そんな臨也が向かう先は、迷惑な事に、まっしぐらに新羅のマンションだった。

「みっかどちゃぁぁぁん♪ 今日のお昼、チーズフォンデュね~~♪♪ 勿論、牛乳をチーズに投入なんて邪道じゃなくて、白ワインをちゃんと使ってね♪♪ ワインは君が生まれた年のものにしたよ♪ 俺、偉い♪♪ ロマンチック♪♪」 


勝手に部屋にずかずか上がりこみ、くるくる踊りながら入ってきた彼を出迎えたのは、帝人の物凄く嫌そうで、キュートな可愛い顔ではなく、いつもアルカイックスマイルを崩さない新羅の寒々しい微笑みと、PS3のカーソルを握る、セルティの無視だけだ。

帝人の強姦未遂事件以来、セルティの臨也に対する態度は全く揺るがなかった。
か弱い少女を欲望の餌食にしようとした件は、性を同じくする身にとって、我が事のように許せる物ではなかったらしく、以来彼女は臨也を存在しない者、ただの空気として扱っている。
妖精の分際で、随分人間らしい感情を持ったものだ。

「首なし。昨日も言ったと思うけど、そういう態度は良くないんじゃないの?」
「臨也、セルティを詰るのはお門違いだよ。君なんてもう通い続けて八日目だというのに、被害者の帝人ちゃんに、一言も『謝罪』していないじゃないか。セルティはね、君に全く誠意が見られないと怒っているんだ」


臨也の辞書には勿論、そんな四文字なんて何処にも無い。


「まぁ、こっちの依頼する仕事は黙々とこなして支障をきたさないし、新羅の彼女だから今の所お目こぼしをしているけどね。あんまり俺にウザい態度を取るのならさ、彼氏の手が届かない別な機関に売り払う事も考えるかもねー♪」
作品名:ふざけんなぁ!! 5 作家名:みかる