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臨帝超短文寄集

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6:狂い咲きの夜



初めての恋愛感情に振り回される臨也さんと、そんな大人に振り回される帝人君。
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 深夜、冬の道行き、公園の木にぽつりと咲いた名も知らぬ花一輪を見つける。確かこの木は夏に花がついていたと思うのだけれどと何気なく零すと、じゃあこれは狂い咲きの類じゃないかな、と隣から返答が来る。本来の季節とは外れた時期に咲いてしまった花を狂い咲きというのだそうだ。そう帝人に教えてくれた相手は、皮肉な表情でその花をつまむ。
「俺もこれと同じだよ。自分の本性を忘れて浮かれてる」
 そう言う唇は笑みを象っていたけれど、言葉には苦さがにじんでいる。おそらく彼は今真実苦痛を感じているのだろう。触れた花のもつ以外に鋭利な刺に刺されたためではなく、帝人とともにいることに。己の帝人への思慕に。帝人はそっと息をついた。ため息に聞こえぬよう細く吐き出したそれが、白い煙となって流れていく。

 臨也が帝人のことを好きだというのは本人から聞かされた事実だ。けれどそれを快く思っているわけではないというのもまた本人から聞かされた事実である。それがいわゆる告白と呼べたものか、帝人にはよく分からない。臨也曰く『君のことを好きになりたくなんかなかった』そうだから、違うのかもしれない。少なくとも交際を望まれている様子ではなかったと思う。ただ、帝人に恋をしている、その事実を臨也が認めざるをえなかったこと、そしてそんな彼自身の心を許容できないで苦しんでいるということだけは伝わってきた。

「君を好きになってから、俺は馬鹿になったと思う」
 悪戯に花弁を弄びながらそう呟く大人に、帝人は応える言葉をもたない。一体こんなことを言われてどんな返事をしたらいいというのか?しかし帝人の沈黙は臨也の中の何かを逆撫でたらしく、紅い視線に刺されるはめになる。睨むというほどあからさまな害意はなく、観察するというには熱の籠りすぎた視線。これが恋する男の眼差しだというのなら、恋情と憎しみとは真実紙一重なのだろう。
「本当に自分の頭が急に悪くなった気がするんだよ。こんなに一人の人間のことばっかり考えるなんてどうかしてる。時間と脳の無駄遣いとしか思えないのに、君のこと、君の好きそうなこと、君に気に入られそうなこと、君に好かれたいってそればっかりで、…俺はさぁ!!」
 俺はこんな阿呆じゃなかっただろう!と、急に沸騰しだした臨也に帝人は慌てる。まずいよこれ、夜に路上でこんな大きな声だしたら、と場の流れにそぐわない心配をしてしまう。臨也の言葉や言葉に伴う感情の動きにはノーコメントだ。だってそれは帝人には関わりのないことのように見えるから。
 帝人には臨也の言っていることも気持ちも理解できない。だって全然好かれているようには感じられない。こんな風に突然感情を爆発させられても、彼が一人で苦しんで一人でわめいているとしか思えないのだ。なにごとがこの人の中で起こっているんだろうか、という心配はするし、通常の様子ではない臨也に非日常を求める気持ちが反応もする。けれど、それが帝人に恋をしておかしくなったせいだと言われても首を傾げてしまう。帝人から見た今の臨也は、どう考えても自分で勝手に自分の恋愛感情をもてあましている。個人に心を奪われつつある自分が気に入らないという思いと、勝手に募る恋心の折り合いがつけられないのだろう。
(そんなのって、普通告白する段階以前の問題なんじゃないのかな。信条とプライドと好きって気持ちの兼ね合いとか……)
 そのあたりの感情がまだぐちゃぐちゃな段階で相手に告白してしまう勇足はいないだろうに、この人はそうなんだろうか、と帝人は分析する。もしそうなのだとしたら気が逸り過ぎにも程があって、たしかに折原臨也とは思えないほど考え無しな言動だ。恋をしたらこんなに通常運転から逸れるタイプだと言うのなら、帝人以外の誰を好きになったとしても、同じように苦しんだのではないか。これまではどうしていたんだろう、今までの恋人とかに対しては、と考えて、ふいに閃くものがあった。
(まさかこの人、これが初恋だとか言うんじゃ)
 しかし、そうだとすればこの本人曰く愚かな言動に、全て説明がつくのだった。

 帝人はひとつ深呼吸をした。時期よりやたら遅く咲いてしまった花をまだひっぱっている男の手に、そっと自分の手を重ねる。「せっかく咲いたのに、散らしたら可哀想ですよ」と、できるだけ優しい声をかけると、男の視線が微妙に逸れた。表情に大きな変化はないが、触れた手を意識しているのだろう。確かに自分は恋されている、目の前のこの人に。
 ようやく実感して、そして困ったな、と帝人は思った。それは帝人が思っていた彼よりよほど純情な一面を見せる大人への困惑であり、そんな彼を無碍に振ることができないだろう自分に気がついたからだった。僕も貴方を好きになるかもしれないとか、そんなことはまだとても言えないけれど。

 今宵見つけた花はひとつではない。狂い咲きの夜だ。時期を違えて開いた花が、真夏のような熱を有している。


作品名:臨帝超短文寄集 作家名:蜜虫