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貴方と君と、ときどきうさぎ

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僕の秘密




竜ヶ峰家には秘密がある。その歴史はとても古い。
祖父も父もそして僕にもそれは代々受け継がれていた。
僕達は人間だ。ただ少し他の人間とは違う。それは動物の姿になれる事。
昔は自由にその身を変える事ができていたらしいが遺伝子か血の影響か
次第にその力は衰えていき今ではある条件をきっかけに姿を変えるだけとなった。

どういった経緯でそうなるのか未だに解明されていないのだが
昔から口付けを交わすと僕はうさぎの姿に変身してしまった。
本来人である姿に戻るには僕自身の意思が働くが意識的にうさぎになる事は
できなかった。臨也さんの前で全裸姿を晒すなんて想像しただけで死にたくなる。

呪いのようなものだと、物心ついた頃からずっと思っていた。
口付けを交わしてうさぎになるなんておとぎ話のような現実誰も信じはしない。
僕の秘密を知っているのは幼馴染みの正臣だけだ。後はずっと隠して普通の人間として
暮らしてきた。他にもひっそりと暮らしている同族達がいると噂を耳にしたが出会った
事はない。僕等一族はただ、平和に暮らしていたいだけなんだ。

そう、普通の人間として。

二日前の夜臨也さんと別れたあの日、僕は突然うさぎの姿に変身してしまった。
驚いた。とにかく驚いた。人気のない場所だったのが唯一の救いだった。
感情の高ぶりや精神的に大きな負担が掛ると変身してしまうという稀な
例外は聞いていたが実際に自分が体験したのは初めてだった。うさぎの姿に
なるのは本当に、本当に久しぶりだったから。
幼い頃親戚や正臣がふざけてキスをして、変身した以来だ、それくらい久しかった。

僕、臨也さんに想いを告げた事がそんなに………
報われない恋がそんなにショックだったなんて……
あの人は、顔色一つ変えなかった。ただ短く「だと思った」と、言った。
それがとても悲しくて、寂しくて。怖くて、逃げてしまったくせに後悔している。
走り去った僕をひょっとしたら追いかけてきてくれるのかと期待を抱いた自分に
腹が立った。臨也さんは…引き留めてもくれなかった。

もう今までのように会ってはくれないだろう。あの人がこんな身体の僕を
受け入れてくれるとは思えない。好奇な目を向けられて遊ばれる。下手をすれば
「興味ないや」とばっさりと切り捨てられるかもしれない。臨也さんが好きなのは
「人間」なのだ。化け物じゃない。そんな事はわかっていた。口にしなくても周りから
忠告されなくても、けれど、それでもいつも近くに臨也さんはいた。僕には優しかった。
だから、抑えきれなくなっていた。大きな秘密を抱えていても感情に逆らえなかった。
初めて生まれた人を好きになる心に。僕もまだまだ子供だ。だから言ってしまった。

「好き」と。

どう頑張っても臨也さんとの時間の差を、距離を埋められることなんて叶わないのに。
「なんだー?こいつ」
「なになに?わあうさぎだ!!」
人の姿に戻ろうとした矢先、運悪く柄の悪い若者に捕まった。
「青い目とか気持ち悪っ」
「ええー!かわいいじゃん!」
耳障りな甲高い声。ギャル風の女の人に抱きかかえられてきつい香水の匂いに
鼻が曲がりそうだ!
「飼われていたのかなあ、でも首輪とかないし、私連れて帰っちゃおー!」
「マジかよ!」
逃げようと暴れたが周りの不良組の男達の方が怖かった。
「このうさ公暴れると食っちまうぞ!!」と眼を飛ばされて逃げれる程
僕の肝は据わっちゃいない。
結局そのまま女性に連れられてケージに入れられる事二日。
幸い一軒家だったためケージを開けた瞬間を狙って逃げ出した。
飛び出した街並みは見覚えのある新宿の街だ。皮肉にも臨也さんの
マンションの近くで。うさぎの姿で近づかなければよかったのだ、彼のマンションに。
臨也さん…部屋にいるのかな、何してるのかな。
雨が降ってきた。なんとかして元の姿に戻らないと。
でも人気のない所にいっても着る服が何もない。携帯も服も
ずっと気がかりだったけど今となってはどうする事も出来ない。
寒さで体は震え途方に暮れていた時臨也さんの妹さん達に見つかった。




「─…へえ、キスをするとうさぎになるんだ」
「ええ」
「今でもこうしてうさぎと会話をしていると楽しさともの凄い違和感を感じるよ。
口が聞けるなら始めからそうしてくれればよかったのに」
「信用できません。貴方の事です、動物なんてただ珍しいだけで
確実に僕を見世物にして売り飛ばしてたでしょ」
この人ならやりかねない。
「否定してあげたいところなんだけどねえ」
はは、と楽しそうに臨也さんは笑う。
「でも人の姿に戻ってくれたって事は俺を信用してくれる気になってくれたのかな」
「……臨也さんに売り飛ばされる前に先手を打ったんです」
仕方がなかった。うさぎの姿でやり過そうと思ったけれど僕を売飛ばそうとしていた
先が暴力団絡みだったり、どこかの令嬢や珍獣を扱う怪しげな組織とか
物騒なリストを検索されてみろ。噛んだって罰は当たらない。
「…流石の臨也さんでも知らなかったんですね、僕の身体の事」
本当は知っているのかもしれない、でも一族絡みの事は伏せておこう。
「ああ、驚いた。どこかでそんな一族の話しを噂で耳にした事はあったけれど。
それにしても実在するとはねえ。でもまあ昔からおとぎ話や伝説にはそう言った
種族が登場するものがあるように現実に存在しない可能性はない。君を見て確信に
変わったよ。火のないところに煙はたたない、ってね」
「……………」
「君って本当に予想外な行動を起こしてくれるよ!イレギュラーだ。実に面白い!」
「臨也さん、この事は誰にも……」
僕は小さな前足でくいくいと臨也さんの服を引っ張った。
「大丈夫。誰にも言わないよ。言った所で誰も信じないさ」
「…ありがとうございます」
ぽんぽん、と臨也さんは僕の頭を優しく撫でる。仮に情報が漏れたとしても
本家が黙ってはいないだろう。本来秘密を打ち明けるのは契りを交わした相手、
心から信頼できる相手でなければならない。過去に秘密が世間に洩れそうになって
記憶を消された人間だっている。それなのに僕は打ち明けてしまった。
折原臨也に告げる事がどれほど危険でかなりのリスクが伴うとわかっていたのに、
自分から。
「でも本当によかったよ。無事に見つかって。君の私物と思われる鞄や衣服が
人通りのない裏通りで発見されたと知った時はどうなるかと思ったけど」
「そうだ、僕の私物!」
「この情報の出所が帝人君だったとは正直半信半疑だったんだけど。不振に思うよねえ。服と鞄だけが残されていたら。誰かが通報したみたいだ。君の私物は新宿警察署が預かっているみたいだから引き取りに行くといい。大丈夫その時は俺も一緒に行ってあげるよ。なあに、適当に誤魔化して事件性はなかったと受け取ればいい」
「何から何まで、ほんとうにありがとうございます…すみません…」
「気にしないで。困った時はお互い様だ」
臨也さんは、やっぱりいい人だ。
「ところでさ、帝人君」
「はい」
「ここに連れてこられた時点でうさぎの姿だったって事は誰かとキス、したんだよね」
「え?」
キス、の所だけ声のトーンが低くなったのは気のせい…?
でも臨也さんは笑ったままだ。