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かぐたんのよせなべ雑炊記

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特別寄稿(三)にーちゃんと私



この世は弱肉強食、それは血を分けた兄妹であっても変わらない。否、むしろ骨肉の争いほど激しく悍ましいものはない。私と兄とはまさにその因縁を具現化した存在としてこの世に生まれ落とされたようなものであった。
事実、私は何度も兄に頃されかけた。まじシャレならん氏ぬじゃろがい!と思ったことも決して一度や二度ではない。
氏を覚悟した闘いの日々、最初の鮮明な記憶は、――忘れもしない、あれは土管置き場の野ッ原で行われた48時間耐久リサイタルでのシーンである。
断言しておこう、兄は致命的な音痴である。なのに、夕陽の海辺で己が破壊したビルの残骸の天辺にちょこんと腰かけて、調子っぱずれな鼻歌引っ掛けて♪フンフフンフ、さも感慨深げに「うたはいいねぇ……」
――てめぇ何気取りだ! さらにはそのヘッタクソな歌を人に聞かせるのがもっと好き、という、ナチュラル・ボーン・ジャイソニズムの持ち主なのであった。
マイクで爆音増幅された兄のダミ声にシェイクされた私の脳みそは痙攣を起こし、眠ることさえ叶わない。意識を飛ばしてやり過ごす、という手段を奪われた私にできた次善の策は、せいぜいピクニックシートに這いつくばるようにのど飴の袋を隠し、兄の声枯れを早めることぐらいであった。
あーちすとを自負する彼はまた絵を描くことにも執心していた。歌がジャイアソ級ならば、絵の腕前とて紛うことなき画伯クラスである。凡人には、……常識をわきまえた一般ピープルには、常に半ニヤケの彼の芸術的糸目が何を捉え、何を描かんとしたか到底理解することはできまい。
彼はその前衛最前線の筆致で描かれた画でもって、私におえかきクイズを強要するのであった。正解を答えられなければ恐ろしい罰ゲームが待っている。恐怖である。苦痛である。焦りも加わり、私はトンチキな誤答を重ねる。すると兄は、にっこり笑ってこう言うのだ、
「……芸術は、バクハツだ」
カチっとな、――ドッカーン!!
私が答えを外すごと、仕込まれた爆薬の位置が近くなる。爆風と熱い粉塵が頬を掠めても、解答席にぐるぐる巻きに縛り付けられた私に逃れる術はない。涙目に鼻水交じりで私は訴える、
「ひひひんとっ! ヒントおながいしますっ!!!」
「……えー、」
途端に兄が興ざめだとばかり白けた目で私を見やる。しかし、つまらないからとその度解答者を発破していてはおえかきクイズは続けられない。……もしも兄に妹が12人ばかしいたのなら、11人までは躊躇いなく発破するのであろうが。ヤツはそういう男である。が、幸か不幸か、現状知る限り私は兄のたった一人の妹であったから、おえかきクイズ続行という最優先事項のためにのみ、ヒントを受け取ることを許された。
「そーだなー……、」
おえかきフリップを眺めて兄が考え込む。どんな小さなヒントも聞き漏らすまいと私は耳をそばだてる、
「おまえの口グセ!」
兄が言った。
「あっ、アルっ?アルっ?」
私は必死の思いで答えを手繰り寄せようとした、
「よしいいぞ、最初の2文字は合ってる、」
発破スイッチに手を掛けながら兄が笑った、
「あーあとな、ちょっとだけダジャレも入ってるんだ」
そのときだった、怯え、委縮しきった私の思考に一筋の光明が差した。どうしていきなり回路が繋がったのか、奇跡としか言いようがない。腹の底から私は叫んだ、
「あっ、アルミ缶の上にあるみかんっ!」
「正解っ!」
――ピンポーン、解答席の◎印が上がると同時に鋼鉄製の拘束も解かれた。間一髪、椅子から地面に倒れ込んだ私の背中をどっと冷や汗が伝う。ちなみに兄が描いた絵はどう好意的に解釈したところで腐りかけの潰れた巨大マッシュルームにしか見えなかった。
「ああ、みかんの重さでアルミ缶が潰れたんだよ」
こともなげに兄は言った。垂らしたおさげ髪を弄り、カラカラと涼しげな笑い声さえ立ててみせながら。
「よかったな、おまえも潰れミカンにならなくて」
――ポンポン、兄が私の頭を撫でた。私はぞっとした。――やられる、このままじゃいつかきっと本当に、私は潰れミカンになった自分を想像し、ポソジュースの汗をダラダラかいた。
……ま、だからと言って以来みかんジュースがトラウマになっているかと言えばぜんぜんそんなこともなく、私は今もこうしてずぞぞぞうっすいオレンジカルペスなんかをすきっ腹に流し込んでいるわけだが。
「……」
私はひとり、場末のスナックのカウンター席でため息をついた。いくら音を立ててストローを啜っても、もはや遠いみかん風味の水しか上がってこない。コップに残った氷をあおり、私は席を立った。
「……マッダーム、ツケといて」
奥で煙管をふかしていたマダムが眉を寄せた。客商売にしては愛想こそないが、あれでマダムはなかなか話の分かる人物なのだ、私は彼女を人生の師として敬愛している。
「アンタ、次またソレやったら今度こそ出入り禁止にするよ」
揚々と店を出際、私の背中に吐き捨てるように投げつけられた言葉とて本心ではあるまい。
外に出ると、日の落ちた通りには冷たい風が吹いていた。口の中の氷をガリガリ噛み砕きながら私はぶるっと首を竦めた。
――やれやれ、ロクでもない記憶を反芻していたらすっかり心が冷えてしまった、なじみのおでん屋でガンモでも引っ掛けて帰るとしよう(もちろん半眼天パのツケで)。


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