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ユキナ・リュカ ~この世界~

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前頭葉



「え!?ユキくんが!?」

リュカは青くなって駆けだした。
ものすごい勢いで医務室に駆け込む。

「ユ、ユキくんは!?」

するとホウアンが困ったように微笑んで言った。

「もう目は覚めてるんですよ、今は多分執務室でシュウ殿と仕事をなさってるかと・・・」

それを聞くと、話の途中であったが、なぜもう仕事をしているのか、など色々な質問すら浮かばずにリュカは執務室へ向かっていた。


フリックに聞いた話では、どうやらユキナは高い崖から落ちたそうである。
崖なら前にも一度、ビッキーの失敗で落ちてはいるが、その時は足をくじくだけで済んだ。しかし今回は打ちどころが悪かったのか、そのまま気を失ってしまったらしい。
ただ、軍主が崖から落ちて意識を失ったと広まると、色々と大変なので、一部の人間にしか伝わってはいないそうであるが。
しかも崖から落ちたもともとの原因は、「きこりの結び目」という崖に張られたロープをつたい、上がっていくゲームだというのだからなおさらである。

「ユキくん!?」

リュカはノックもせずに執務室にかけこんだ。

「なんだ?今は仕事中だぞ。」
「へ?」

リュカは思わずマヌケな声を出してしまった。
今のセリフ、何。
もちろん、シュウがいったのでは、ない。
そのシュウはあきらかに茫然とした様子である。

「あなたに言ったんだが、リュカ。いきなりノックもせずになにかあったのか?」

顎がはずれるかと思った。

「え?あ、あの・・・ユ、ユキ、くん?」
「?どうしたっていうんだ?すまないが、急ぎではないなら後にしてくれないか。」

誰コレ。

あのシュウが茫然とするわけである。
顔は間違いなくユキナなのに、中身が入れ替わったのかと思えるような言動。

「え・・・と。と、とりあえず、無事、なんだ、よね?」
「?ああ、特に俺に問題はないが?ああ、シュウ。この収支なんだが・・・」

ユキナは怪訝な様子でリュカに言った後、すぐに向きを変えてシュウに書類の内容について話出した。
リュカはとりあえず部屋を出た。
そしてフラフラと歩き出しては止まり、歩き出しては止まり、を繰り返して周囲に怪訝な思いをさせつつ石板前へとやってきた。

「ちょっと・・・なんか変だよ?」
「やっぱり!?やっぱり変だよね!?やっぱ打ちどころが悪かったのかな!?」
「は?自分で言う?確かにお大事にって感じだけどね。」
「そうなんだよ!!ほんとお大事にって、え・・・?」

しばらくその場の時間が止まったかのような後、僕のことじゃない!!とリュカは先ほどの事をルックに説明した。

「・・・。あいつって・・・ほんとトラブルメーカーだね・・・。」
「それについては僕も否定できないけど、でもほんと、どうしよう・・・。ユキくんの様子、ほんとに変なんだもん、治らないのかな・・・。」
「僕は医者じゃないんだ、そんなことはホウアンにでも聞けば?・・・あ。」
「うん、まぁ、そうだよね・・・ん?」

何かに気づいたようなルックの目線のほうを振り返ると、そのユキナがこちらに向かっているところであった。

「ルック。」
「何。何か用?」
「ああ。少し魔法兵の事で。今、いいか?」
「は?」

今リュカに話を聞いていたにも関わらず、ルックはけっこうな衝撃を受けた。
誰、ほんと、コレ。
リュカを見ればとてつもなく複雑そうな顔をしていた。


「ほんと何なんだよアイツ!!」

シーナがやってられないとばかりに言い放った。
ユキナの様子がなんだか妙になってから2日目のことだった。
やってられねぇとばかりに腐っているが、まあどうせつるんでられないって事であろうが。
あのルックですら、なんだか物憂いげな様子に見える。
もちろん、今のユキナは軍主としては問題なかった。
だが。

「ユキナがね、今忙しいからって・・・。」

そして今、リュカはナナミと一緒に、ナナミがつくったクッキーを食べていた。
味の破壊王と称されるリュカ。
あのグレミオのもとで育ってきたとは思えないほど、なんでも食べる事が出来た。
もちろん、ナナミ料理ですら平然と食べるリュカを皆は陰でさすが英雄、とほめたたえていた。

「ちょっと、寂しいなぁ。」

少し悲しげにみえるナナミに、リュカはニコリと笑いかけて言った。

「まあ、ユキくんも忙しいもんね。ナナミちゃん、ありがとう、クッキー。美味しかったよ。」
「ううん、一緒に食べてくれてありがとう。」

ナナミもニッコリとして言った。
あのシスコンなユキナは、たとえナナミ料理を差し出されていたとしても、今までなら無下に断る事なんてなかった。


“本気でマクドールさんが好きなんです”
“リュカさん、大好き”

いつだってはっきりと好きだといってくれたユキナ。
溢れんばかりの笑顔で、大好きだ、と。
その彼が変わってしまったんだとしたら、それはそれで仕方がない。
軍主としては今の彼の方がもちろん、正しいのだろうし・・・。
前のユキナなら今のように忙しく仕事にあけくれていない。書類関係も、今のように率先して対応せず、溜めに溜めて渋々やっていた。
テキパキと指示を出すより・・・そう・・・率先して、自らがにっこりといたずらっぽく笑いながら・・・動いていた・・・。

「分かった、それなら大丈夫そうだな。ではその件に関しては彼に任せよう」
“そうなんだ、分かったけどさ、それなら俺がちゃちゃーっと片づけちゃうよ!!”

これが本来の彼なのであれば、それはそれで、いいと、思う。
でも・・・。
でも僕のこの気持ちはどうしたらいい?
どうしたら・・・?


どうもなにか大切な事を忘れているような気がする。
そう思いながらもまったく思い出せず、ユキナは疲れた体をベッドにしずめた。
もう夜もかなりふけた。今日も忙しく働いた、が、なぜかどうもしっくりしない。
ため息をつきながら目を閉じた。
そしてふいに部屋の入り口に違和感を感じた。鍵はしたはずだが、と思った瞬間には誰かが自分の上にのしかかっていた。

「!?」

殺気はまったくもって感じられなかったものの、一瞬やられる、と思った。
だがよく見ると、のしかかっているのはリュカだった。なぜか、どこかが痛むかのような表情でユキナを見ている。
わずかに入ってくる光の中でも、その様子はとてもよく見えた。

「リュカ?いったいどうしたんだ?変だぞ!?」
「変!?変なのは君だ!!」

怪訝に思いつつも、リュカがその小さな手で、痛いくらいにユキナの手を押さえこんでいるので身動きがとれなかった。

「君が・・・今の君が本来の君だというなら・・・それでもいい・・・。だがっ、だが僕は!?僕はどうしたらいい!?」
「は・・・?」

いったい何を言って、と言うつもりだったが、ユキナは口を閉ざした。
あのリュカが、ボロボロと涙を落していた。それをぬぐいもせず、ギュッとユキナの手をつかむ。

「僕を忘れるの!?こんなに・・・こんなに好きにさせといて・・・僕はっ」
「え・・・?」

リュカが・・・俺を・・・す、き・・・?
信じられない、と思いつつ、なぜかとても喜びのような感情が胸の中に広がるような気がした。