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長い長い家路

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再びザナドゥへ


アルゴナウタイ作戦の失敗は、バトルフロンティア艦内に沈鬱なムードを作り出した。
立案段階から賭博性の高い作戦だと判定されていたため、すぐに第2弾の準備が始まったが、何をどのように改良していいのか技術陣の中でも意見が分かれた。
バトルフロンティアが余剰エネルギーと蓄積できる半月後まで、更なるヒントを求めて惑星ザナドゥ上のプロトカルチャー遺跡の調査が行われることになった。
仮称で『カテドラル』と呼ばれている巨大なフォールドクォーツを擁する施設の周辺が集中的に再調査されている。

増強された調査隊の隊長は前回と同様ウラジミール・ヤコブレフ大尉。
衛星軌道上からリモートセンシングで割り出したエネルギー伝送路と情報のネットワークについて地上で調べている。
副隊長のラデン・マス中尉は最新の調査状況を報告しに、ベースキャンプ代わりに使われている大型輸送シャトルに戻ってきた。
「おおよそ、予想通りです。カテドラルを中心にネットワークが形成されています」
ヤコブレフ大尉は大型モニターに地図と調査状況を重ねて表示させた。
情報ネットワークは複雑なパターンを描いているが、カテドラルを中心に張り巡らさている。
「星型ネットワークと、円環型ネットワークの折衷型みたいだな。このマークは何だ?」
ヤコブレフ大尉が指で示したのは、地図上でカテドラル付近で点滅している光点だ。
「鳥の人、です」
ラデン・マス中尉は、少しばかり興奮気味の様子で記録映像を表示させた。
高解像度の記録動画が映し出された。
格納庫らしい広い空間で大きく翼を広げた装置が壁に寄り掛かる用にして置いてある。
とうの昔に機能を停止しているようだ。
画面の中ではラデン・マス中尉が鳥とも人ともつかない形の中心部分、何かを収めていた空洞部分を調べている。
ピンセットで細い繊維状の物をつまみあげている。
「あれは?」
ヤコブレフ大尉の質問に、ラデン・マス中尉は宇宙服のポケットから小さな容器を取り出した。
「これです。多分、人の毛髪かと。こちらの分析器でDNAを調べてみようと持ち帰りました。結果は、あのVF-0Aから見つかった二種類の毛髪のうち、女性のものと一致」
「サラ・ノームのものか」
「はい」
シン工藤とサラ・ノームは再会できたようだ。行方はまだ分かってない。
「プロトカルチャーの探査機である鳥の人がここにあるということは、やはり遺跡は何らかの観測施設ではないでしょうか」
ラデン・マス中尉の言葉にヤコブレフ大尉は、ふむ、と思案顔になった。
「こういう仮説はどうだろう? どうやら、この遺跡にはほとんど人が居なかったようだ。遺跡の建造物は通信と、情報処理のものばかり。一種のアーカイブではないか」
「アーカイブ?」
「超指向性フォールド波を用いて銀河系のプロトカルチャーの扱っていた情報を送信する。ここの遺跡は、その情報をキャッチして一定期間蓄積してから再び送り返す」
「受信したものを送り返すだけですか?」
ラデン・マス中尉は首をかしげた。
「フォールド波は一定の時間、空間を伝播する。空間そのものを情報のストレージとして使っていたんじゃないか、とね」
「……宇宙スケールの揮発性メモリ」
「主観時間と客観時間で差が生じる通常のフォールト通信と、時差が生じないゼロタイムフォールド通信を組み合わせると、そんな真似ができるんじゃないかと、ね……そうだ、鳥の人のフライトレコーダーは解析できたか?」
現在、プロトカルチャーの残した遺物には動作原理が謎のものも多かったが、ある程度解析され、人類が利用可能なテクノロジーも多くある。鳥の人に積み込まれていた記録も解析されつつあった。
ラデン・マス中尉は宇宙服の左腕に装着されたキーボードを操作する。
「解析不能の部分も多いですが、航路の記録は拾えました。やはり地球から…いくつかプロトカルチャーの拠点をたどっていますが、いずれも遺跡となっていたようです」
「ザナドゥまでたどり着いて、力尽きた、か」
「はい。鳥の人は機密性の高い情報を扱っているようで、傍受されないように機体内部に収めた記録媒体を情報の拠点に運ぶようになっていたと推測されます。先程、大尉がおっしゃったザナドゥ=ストレージ説を補強するのでは」
「やはりフロンティアに戻るヒントはザナドゥにあり、か」
ヤコブレフ大尉は小さく呟いた。
「謝らないとな…」
「何か、おっしゃいましたか?」
聞き返すラデン・マス中尉に、大尉は苦笑してかぶりをふった。
「いや、何でもない」
ふと、フロンティアに居るはずの家族のことを思い出していた。バトルフロンティアに乗り込む直前、つまらないことで喧嘩してしまった。
一言、ごめんと言いたいだけなのに、何と遠いことか。

バトルフロンティア、格納庫。
早乙女アルトは与えられたVF-171EXナイトメアプラスの点検をしていた。
地上の遺跡調査活動が盛んになってきたので、大気圏内を飛ぶ機会が増えてきた。
惑星の大気圏を飛ぶのは長年の憧れで、それなりに心踊る任務だったが、惜しむらくはVF-171EXの大気圏内飛行特性は良くない。宇宙空間での運用をメインにした機体だからだ。
(YF-29いや、VF-25の方がいいな)
並外れたエンジンのパワーで重力を断ち切り大気を切り裂くYF-29より、VF-25の長い主翼は風をしっかりと捉えるだろう。
エンジンに専用のノートパソコンを接続し点検プログラムを走らせる。
「アルト少尉」
背後から呼びかける声とともに、尻を鷲掴みにされる感触。
「カーリー中尉、尻を撫でるのはやめてくれ」
アルトの身柄を預かる新統合軍の女性士官カーリー・シェリーは、いつものはすっぱな調子で言った。
「イイじゃないか減るもんじゃなし。なんだったら、アタシのオッパイ揉んでもいいぞ。許可する」
「いらん」
アルトは邪険にカーリーの手を払った。
「即決で言われると、かなり傷付くな」
カーリーは両手を肩の高さに上げて、ホールドアップした。ニヤニヤ笑いを口元に貼りつけているので、ちっとも傷ついたようには見えない。
「何の用だ?」
無表情なアルトに対して、カーリーは悪びれた風もなく答えた。
「お偉いさんが、あんたの話を聴きたいとさ」
「了解」
アルトは、この前のアルゴナウタイ作戦ファーストトライの最中に起きた事をレポートにして上官に報告していた。
フォールドアウト後、アルトが携帯端末を確認すると、メモリーに確かにシェリルの新曲が吹きこまれていた。
個人的な秘密にしてしまいたかった気もするが、今はバトルフロンティアの乗員全員がフロンティアに帰還できるかどうかの瀬戸際だ。少しでもヒントになれば、とレポートしたのが上層部の目に止まったようだ。
「シェリル・ノームとの絆はホンモノってことかい。美男美女でお似合いなこった」
カーリーの言い方はひどく俗っぽかったが、憧憬の響きがあった。
「犠牲も払ってきた」
アルトはノートパソコンを閉じながら平板な口調で言ったが、言語の裏に秘められた重みはカーリーにも伝わったようだ。
「ああ、そうだな…みんな、そうだ」
だからこそ、一刻も早くフロンティアへ戻りたい。
大切な人達と、訪れたはずの平和を感じたい。

作品名:長い長い家路 作家名:extramf