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物体もじ。
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幻水短編詰め合わせ(主に坊さま)

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antauvidita aflikto (坊さまとアイン=ジード)



 世話する人間の努力の賜物か、それとも生来のものか、手入れも行き届き、最上級の漆のような艶めく黒髪。それがはらりとかかる秀でた額、黒髪との対比も鮮やかな白い面輪に、品良く微笑を刻む形のよい口唇。

 そして、端整な面差しの中に静かに座す、琥珀色をした、大人びた瞳。

 
 敬意を捧ぐに値する将軍の嫡子。ルイシャン・マクドール。


 秀麗な少年だと思っていた。文武に優れ、礼儀をわきまえた、誰から見ても将来を期待するに足る、素晴しい少年だと思っていた。

 帝国の未来を負うのは彼なのだと、心から、安堵していた。


「ルイシャン・マクドール……か」


 それは、決して、こんな形でなく。







 花の油を丹念に塗りこむという姫君のそれにも似た黒髪を隠すように結ばれた、若草と二藍の鮮やかな色。

 引き締まった痩身を包む、人の目を奪うような赤い胴衣は、間違いようもない帝国近衛隊の制服でありながら、まるでこの少年のためだけに誂えたようで、申し訳程度に鳶色の外衣に覆われながら、その存在を高らかに主張する。けれど携えた棍は、本来帝国軍人が扱うようなものではなく。

 覚えにある通り、決して労働階級には有り得ぬ白さを保った肌が、白皙の印象はそのままに、それでも良く見ればそれなりに焼けていて。

 冷静に考えれば絶命の危機にあるはずなのに、強張りもしない口唇、そして、何より。


 類い稀な容貌の中にあって、わずかな揺らぎすら見い出せぬ、その、琥珀の双玉。


 人目を忍び、頭から外衣で覆い隠していてもいいはずの立場にありながら、堂々とその姿、その色彩、その存在を見せ付ける彼の少年が纏うのは、不退転の意思か。

 泰然としたその瞳は、彼の父、テオ・マクドールに似ているようで……あまりにも、違う。


 アイン・ジード自身がこうと思ってきた、少年とも。


「……ふむ。ロッシュ、考えてもみろ。マクドールの息子がこんなみすぼらしい格好をしているはずがない」


 回された手配書、反逆の噂、遥か北方へと征ゆかされた、少年の父。未だ定まろうともせぬ帝室の行方。黄金皇帝バルバロッサ。宮廷魔術師ウィンディ。

 それらを、帝国近衛の制服にまとわりつかせながら、少年は目の前に悠然と。

 見たこともない、瞳と意思持つ者として。


「でも、それでは……!?」

「いいんだ、ロッシュ。行かせてやれ」


 彼の声を受けて戸惑いがちに歩を進める、どこかで見た覚えのある連れの者たちを先に行かせ、慌てる気配もなくそれに続く少年を見ながら、アイン・ジードはふと思う。


 もし、この少年が、あと2年……いや、あと1年でも良い、早く、皇帝の傍に上がっていたとしたら。
 そうでなくても、あのクレイズごときではなく、他の五将軍のもとについていたなら。


「……おい、少年」


 「この」少年を呼ぶ名など、彼は知らない。ただ、その中に、アイン・ジードの見てきた、あの少年が居るのなら、と思ったのだ。

 振り返る瞳は、やはり見慣れぬ強さで、彼を射たけれども。


「父を。大事にしてやれよ」


 理解している。この少年は、このまま見過ごそうとも、連れ戻して皇帝のもとに跪かせようとも、恐らく帝国の利となることは二度とないであろうと。


 それでも、もし……父と子が、手を取り合うのなら。帝国は、それならば。


 いとも典雅な微笑を浮かべた、少年の返答が是、であったのか、否、であったのか。アイン・ジードには読み取ることなど出来なかったのだが。

 彼は、確かにそう、願って、ルイシャン・マクドールを見送ったのだ。