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Happy Life

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第3章 深まる謎



ハリーは退社後、ぼんやりとしたまま、家路へと歩いている。

ドラコはパソコンの電源を落とすと、(おやすみ)と言い画面から消えた。
後には黒い画面の変哲もないデスクトップの機械があるだけだ。
そこには彼がいた痕跡は微塵もない。

いろんな考えが、頭の中で堂々巡りをしていた。
夕食を買うとそのまま、自分のアパートに帰りつく。
必要最低限な家具しかない、何もない殺風景な部屋にハリーは苦笑した。

彼の部屋の文句を言えた義理じゃないな、自分は。

やっと自立して手に入れた「自由な時間」は、思ったより楽しくなかった。
働きだして自由に使えるお金が入ったら、あれもこれも買おうと思っていたが、実際はあんなにも願ったものを手に入れた瞬間から、その物に輝きがなくなるのだ。

手にしたものが高価であればあるほど、その後のことを考えて気分が重くなった。
壊さないようにしなければとか、なくさないようにしなければとかという、義務感に近い感情に支配されることに、げんなりとした。

いろんなことに、責任を持たされるなんて真っ平だった。

だから人間関係も、広く浅い付き合いのみを選んできた。
特定の一人の相手など選びたくはなかったし、その相手に自分が束縛されることに、恐怖すら感じている。
自分の中に何かひどく欠落している部分があることを、ハリーは分っていた。


買ってきた惣菜をレンジで温めながら、ドラコのことを思った。
彼はこんな四角い箱に入っているだけだ。
ただのソフトだろ?
何焦っているんだ自分は?
ふと、何かかひらめき、ハリーはその答えに頷いた。

なんだ、そういうことか!
つまりあれだ!

ドラコはよく出来た事務ソフトで、しかも恋愛シュミレーションも入っているやつなんだ。
相手がドジを踏んだり怒ったりして、イベントやハプニングが起こるたびに、親密度が上がっていくそういうゲームだ。
あのドラコの一連の予想外の行動は、計算されつくした上でのドジ、というわけだ。
そう考えるとつじつまが、全て合致した。

なぜ自分の相手が男なのかは理解しがたいが、改良中なのだろう。
確か彼はきれいな顔をしているが、口は悪いし、態度は横柄だ。
この手の育成ゲームには向いていない性格だとは多々思うが、まだ調整中なのだろう。
予想外に、照れて赤くなったりするドラコの行為は、十分に理解できた。

事務には全く必要ない、癒し機能かもしれないが、パソコンがああいうふうな態度をとれば、こちら側にいる人間は気分もよくなり、仕事の効率も上がるだろう。
感情を持ったかのように言われたら、いくら機械だからと言っても、まるでそこに相手がいるかのにように勘違いしてしまい、張り切って仕事をするかもしれない。
現に自分の仕事の効率は、格段に上がった。

……つまり、そういうことだ……

謎が解けたというのに、ハリーは浮かない顔をしていた。
まるでその答えに、不満いっぱいという感じで。

テーブルに乱暴に皿を並べると、椅子を引いてドカリと座る。
殺風景な部屋に、味気ない食事。
話し相手はいない。
むかしからそうだった。
食事はいつも一人だ。
叔父の家にやっかいになっていたときなど、その食事すら抜かれることも度々あったし。
毎日の生活に不満はない。
平凡で、退屈な日々。
それが自分が心より望んだ「日常」じゃないか。

昨日まで一度もこの日々に疑問すらなかったのに、今ではひどく色あせて見えた。
ここに一人でいることが、たまらなく寂しく感じられて、何もない天井を見上げた。




──ドラコが湯気の立っているフルコースを前に、上品にナイフとフォークを動かしている光景が浮かんでくる。
細く長い指が銀のナイフを上手に使って、子羊のローストを切り分けていく。
幼いころからしつけられたのか、完璧なテーブルマナーだ。

骨と肉の間にナイフが入らず、四苦八苦している自分と、かなりの違いだった。
とうとう手がすべり、その肉が皿から飛び出してしまった。
ジロリとドラコは、ハリーをにらむ。
ハリーは「やっぱり骨付き肉は手づかみじゃないとね」などと言いながら、それをテーブルクロスの上から拾い上げ、おもむろにかぶりついた。

「お前は本当にマナーがなっていない!」
ドラコは文句を言う。
「ルールなんて、無視していいでしょ。ここには君と僕しかいないんだから。楽しく食べようよ」
ハリーはいたずらっぽく笑った。

デザートはイチゴとクリームがたっぷりかかった、アイスクリームだった。
甘いものが大好きなドラコは、こういうものに目がない。
上機嫌でその皿にのっているものにパクついた。
瞬く間に皿は空っぽになる。
甘いものはどちらかといえば苦手はハリーの皿は、全く減っていなかった。

ゆっくりとそのデザートの一番おいしそうな部分をスプーンですくうと、ドラコの前に差し出した。
「どうぞ」
ドラコは(まったくお前というやつは)という表情をして、その手を引っ込めさせようという態度を取ろうとする。

―――が、その努力をすぐに放棄した。
口元を緩めると、素直にハリーのスプーンに口をつけた。
おいしそうにそれを舐める。
にっこりとドラコは笑った。
それがデザートのおいしさのせいなのか、ハリーの行為のせいなのかは分らない。

「もっと」
ドラコは言う。

皿ごと差し出せばいいのかもしれかないが、ハリーはそんなことはしなかった。
スプーンにイチゴをのせて、ドラコの口元へ運ぶ。
ドラコはハリーがスプーンを差し出すたびに口をひらいた。

ロウソクの暖かな明かりの中で、ハリーはひどく幸せを感じた。

あれはいつのことだったろうか?
ドラコはいつもこんな笑顔でいたのだろうか?
自分をいるときに?


何もかもがあいまいで、不確かで、分らないことだらけだった………


作品名:Happy Life 作家名:sabure