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SLAMDUNK 7×14 作品

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しあわせのにおい-連載4-










ボールの弾む音がする。
次いで、かけられる声。

「一本じっくり!」

電光石火の男が走る。
低いドリブルで相手のディフェンスをかわして。
一度もこっちを見なかったのに、ボールはまっすぐオレのところへ飛んできた。

チビのくせに。
ふてぶてしくて、後輩らしくないくせに。

ちくしょう、いい男だ。











「三井!!」

大声で名前を呼ばれ慌てて顔を上げると、現国の教師が机の前に立っていた。

「居眠りしてる余裕なんてあるのか!?」
「…スイマセン」

くすくすとした忍び笑いの中、そっぽを向いて頭を下げる。
ふん、と教師は鼻を鳴らし、続きをやるぞ、と教卓に戻っていった。
前の席のにやにや顔と目が合う。
「ちゃんと座っとけよ。てめーも怒鳴られっぞ」
あくびをかみ殺しながら言うと、安部は器用に眉を上げてから肩をすくめた。
その仕草が、皮肉屋の後輩を思わせる。
静かな教室に、教科書を朗読する生徒の声だけが響く。
眠りを誘う穏やかな時間に、俺はまた目を閉じた。
…夢、だったのか。
それにしてはリアルだったな、と思ってからいきなり目が覚めた。
「ありえねえ!!」
思わず叫んでしまうと、
「ありえないのはお前だ、三井!」
と教師に怒鳴られる。
今度は教室中が声を出して笑った。
くそ、どうして俺がこんな目に!
そのとき、天の助けとばかりにチャイムが鳴った。



部活に向かおうとしていると、安部が声をかけてきた。
「三井、部活終わったら用事ある?」
「いや、別にねーけど」
「今日さ…」
声を潜めて、阿部は近づいてきた。
言いにくいことなのかな、と俺も前のめりになり、安部の言葉を待つ。
って、ちょっと近すぎじゃねーか?
安部がにっこりと笑う。ついつい俺もつられて笑う。
「三井サン!」
背中から声がした。
後ろを振り返ると、宮城が教室の中まで入ってきていた。
「どうしたよ」
大声出して、と続けるまもなく、宮城は俺の腕を引っ張った。
「ブカツですよ。迎えに来てあげたんだから、感謝してよね」
ぐいぐいと力を込めるので、椅子から立ち上がる。
「また明日な。いってらっしゃい、三井」
安部がひらりと手を振った。
用事があったんじゃないかと聞くより早く、またもや宮城によって引っ張られる。そのままずるずると廊下まで連れ出された。
「つーか、痛いんだけど」
なんだかよく分からないが不機嫌な宮城に、つかまれたままの腕を指して言う。
「あ、すいません」
さっと手を離される。何なの、オマエ?
「小暮さん、職員室に呼び出されてて、部活に遅れるらしいんス。だから、代わりにアンタのこと迎えに来たの」
「んだよソリャ。ガキじゃねーんだから一人で行けるっての」
最初は行きづらくて、小暮の存在がありがたかったけど。目の前にいるコイツが話しかけてくれたから、自分で考えていたよりもずっと早く部に溶け込んだ。
迎えなんていらないから、と言っても、遠慮するなよ、と小暮は笑う。
本当に人が良いから無碍にもできなくて、結局いつも一緒に部に向かっていたのだ。
「よりにもよって、宮城に頼むんじゃねーよ…」
ぼそっと呟くと、左下にいる宮城が、ん? と顔を上げた。
ナンデモナイ、と前を向く。
夢見が悪かったせいだ。夢の中とはいえ、あんな事思ってしまったから。
さっきから宮城に目が行くのも、すべてあの夢のせいだ。
そう思わないと、やってられっかよ。
「あの前の席のやつと仲良いんだね」
「安部か? …そういや、前にもオマエそんなこと言ってなかったっけ」
そうだっけ、と宮城は片眉を上げる。その様子が安部とかぶって、俺は笑って言った。
「オマエって、安部と同じような事すんのな」
途端に宮城はスッと目を細めて、一緒にしないでよ、と言い置き、一人でさっさと行ってしまった。
迎えに来たんじゃねーのかよ。そもそも、その態度は何だ!?
ほんと、チョーシ狂う…。
そんな態度をとられても、怒れない自分が一番、どうよって話だ。




5対5のミニゲーム中、敵チームとなった1年生ルーキーが、ドリブルで抜きに来た。
右からと見せかけて、ターンして左。シュートに行く前に小さなフェイクをひとつ。
そこまで読んでいたオレは、完全に流川をブロックした。
周りから歓声が上がる。
そんな目で睨むなよ。まだまだ1年に負けるわけにはいかねーんだから。
キュッとバッシュが床を鳴らす。
ボールが手に吸い付く。シュート体制に入る。よし、絶対に落とさねー。
シュパッと最高の音がして、ネットが揺れた。
このために、俺は帰ってきたんだ。
安西監督の下、赤木と小暮と共に、全国制覇を成し遂げるために。
俺を引っ張りあげてくれた、このチームのために。


『全国に連れてってやるよ、三井サン』


宮城の声が蘇る。オレンジの空と一緒に、その光景が俺の中に焼きついていた。
だからあんまり強気に出られないのかも。あいつには借りがあるから。
ふっと気を抜いた一瞬、ダン、とドリブルひとつで流川に抜かれた。
「くそっ、なめんじゃねーぞ!」
その背中を追って走る。しかし一歩届かず、流川は豪快にダンクを決めた。
コートサイドから再び上がる歓声。
「今、違うこと考えてた」
生意気なルーキーは俺を指差して言った。
「ぁあ? んなわけねーだろ」
「どーだか」
ふう、と小さくため息をついて、流川は走っていく。
この俺が、バスケ以外のことなんか考えるわけがない!
そうだ。バスケ以外のことは考えるな。
宮城だって、バスケの一部じゃないか。うん、そうだ、そうしよう!
急に自分の中で、不可思議だった思考に折り合いが付いた気がして、俺は嬉しかった。
「よっしゃ、勝ちに行くぞ!!」
チームメイトに声をかける。おお! と力強く返ってきた。




ボールの弾む音がする。
次いで、かけられる声。

「一本じっくり!」

電光石火の男が走る。
低いドリブルで相手のディフェンスをかわして。
一度もこっちを見なかったのに、ボールはまっすぐオレのところへ飛んできた。



完璧な既視感。

――チビのくせに。
――ふてぶてしくて、後輩らしくないくせに。


何でこんなに気になるんだ。
どうして姿を見なくても、アイツのことが分かるんだ。
微妙な距離感が、奇妙な一体感となって、俺たちはコートの上でひとつになる。
なんてことだ。
すっかり宮城にはまってる。
ありえないアリエナイ。こんな事あってはならない!

宮城が、好きかも、なんて。

一転して絶不調に陥った俺は、散々赤木に怒鳴られた。
今日は厄日なのか? 何でこう立て続けに怒鳴られなきゃなんねーんだ。
悪いのは宮城! 全部宮城のせいなんだよっ!!
気づいてしまった気持ちに頭の中はパニックだ。
「三井サン、大丈夫?」
くそっ、テメーが原因なんだよ。
心配そうに伸ばされた手を乱暴にはねのける。
「うるせえ、俺に構うんじゃねえ!!」
勢いで叫んだ俺の声に、体育館がシンとなった。
しまった…。
「そうかよ。人がせっかく心配してやってんのに、何だよその態度は。勝手にやってろよ!」
宮城が言い捨てて去っていった。
気まずい空気が支配する中、赤木が声をかけた。
「どうした、練習を続けろ!!」
作品名:SLAMDUNK 7×14 作品 作家名:鎖霧