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SLAMDUNK 7×14 作品

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ひとさじの甘さ-連載5-










「一本じっくり!」
ゆっくりとドリブルをしながら、息を整える。
ふ、と緩んだ隙に、トップスピードで目の前にいるヤスを抜き去る。
ディフェンスの小暮さんを抜いて、あの人に向かってボールを投げた。
見なくたって分かるんだ。アンタがどこにいるか、なんてさ。
スリーポイントがきれいに決まって、喜んでいるだろう彼の方を見る。
ナイスパス、とあの人は笑顔で笑った。
ナイスシュート、とオレも笑って、アンタとハイタッチ。

癖になるよ、その笑顔。
子供みたいに無邪気でさ、バスケが好きなんだって全身で訴えてる。
自分のプレーでアンタを笑顔にできるなんて、こんなに嬉しいことはないよね。


オレ、宮城リョータが、三井寿を『アイシテル』んだと気づくのに、時間はかからなかった。






突然絡まれて、殴られ、病院送りにされた。
もちろんオレもそれなりの反撃はしたので、相手も入院した。
それから、やっと怪我が治って部活に復帰すると、ぶっ潰してやる、とか何とか言って、ボコボコにした筈のやつが、仲間を連れて乗り込んできた。
すったもんだの末、一番の元凶はバスケがしたいと泣き崩れ、後輩たちが一肌脱いでくれたおかげで、騒動はおさまった。
さて、ここで問題です。
あなたなら、こんな自分勝手なやつを許せますか?
結局は自分がバスケをできない腹いせに、部を脅すなんてありえますか?
答えは『ノー』だ。
オレはアイツを認めない。仲間だなんて思わない。
2,3日後からのこのこと顔を出したソイツは、この上なく偉そうで、とんでもなくきれいなシュートを決めた。
もったいない、と思ってしまうくらい、バスケセンスに溢れていた。
初めのうちはいつも小暮さんが一緒にいて、何かと世話を焼いているみたいだった。
その様子を眺めながら、そんなバカにそこまでしてやる必要はあるのかと、冷めた目で見ていた。

あるとき、大好きなあの子が言った。三井先輩と仲良くしてね、と。
声をかけてもらえただけで舞い上がったオレは、二つ返事でOKした。
彼女の笑顔のためなら、うまくやっていく自信はあったんだ。
会話はぎこちないものの、コート上では結構良いガードコンビだったからさ。
いらつく感情を隠して、話しかけた。
アンタは愛想もなにもあったもんじゃなくて、鬱陶しそうに眉をひそめ、二人になると無口になった。
こりゃもうお手上げかなって思い始めたとき、俺の冗談にアンタが真っ赤になって、困ったような顔を見せたんだ。
そのうち、アンタの無愛想は照れ隠しなんだってことや、周りへの気遣いなんかも見えてきて。
上下関係を重んじるアンタは、先輩ってだけで偉いんだ、と考えてることに気づいて、その傍若無人な態度も許してやった。
分かってくると意外におもしろい人で、子供みたいに笑うくせに、大人みたいに遠くを見つめてる。
よくこれで不良なんてやってたな、と素直に感心してしまった。
きっと、あそこでもこの人は、知らずに誰かに守られていたのだろう。

いつしか、授業以外の1日のほとんどを三井サンと過ごすようになって。
いつの間にか、彩ちゃんより三井サンのことを考えて眠るようになった。

それだけで『アイシテル』のかもなんて思ったりしないさ。

決定的だったのはあの夜。
翔陽戦の祝賀会第2部が水戸の家で盛り上がり始めた頃だった。







「フコーヘーだ!」
花道の大きな声が部屋に響き渡った。
「まあまあ、花道。それが人生ってもんだ」
「いや、待て。確かに花道の言うとおり、不公平だ」
野間が入れたフォローに、高宮が食いついた。
それから、洋平はズルイだとか洋平だけなのは納得いかないとかいう会話が始まっている。
どうやら話の中心は水戸のようだった。
「そんな事いわれてもなぁ…」
バツの悪そうな笑みを浮かべて、水戸はビールを一口飲んだ。
その表情も仕草も、およそ高校生とは思えない。
花道とオレと三井サンと、軍団4人が残る部屋。
ついさっきまで堀田さんたちもいたんだけど、明日も学校があるので、と帰ってしまった。まじめな不良って、どうなの?
俺だって本当は早く家に帰って眠りたい気分だったけど、この人が動かないもんだから、ついつい一緒に居座ってしまった。
一度タイミングを逃したら、朝までコースを突っ走るわけで。
今日の試合で興奮冷めやらぬ花道は、一向に疲れを見せることなく騒いでいる。
様子を眺めていると、いきなりこっちを向いた花道と目が合った。
「そうだ! リョーチンは俺たちの仲間のはずだ!!」
な、そうだろ、と言いながら、ずりずりと這って来る。
「確かに! 花道と張るくらい振られてるんだから、りょーちんもきっとそうだ!!!」
高宮がそれに乗っかって、一緒に這って来た。
「そりゃ言えてる。じゃあ、かけようぜ、花道」
「おう、いいぞ!」
目の前で繰り広げられる話が見えず、慌てて止めに入った。
「おいおい、いったい何の話だよ」
「スイマセン、宮城さん。ちょっとこいつら飲み過ぎたんすよ。勘弁してやってください」
水戸が暴れる花道たちの間に入った。こいつだって結構な量を飲んでるはずなのに、全く様
子が変わらない。めちゃくちゃ酒が強いんだな…。
「オレが仲間ってどーゆーこと? 彼女がいないってことか?」
それだったら皆同じだろう、と思って花道に聞いた。
「ちっがーう! そうではないのだ!」
勢いよく否定されて、じゃあどういう意味なんだと詰め寄ると、ごにょごにょと言いにくそうに下を向いてしまった。
そのまま花道は水戸にタッチをして、水戸が宮城のほうに向き直る。
「童貞かどうかっていう話ですよ」
さらりと言ってのけた水戸に、その後ろで花道が、そうそうと合いの手を入れた。
ちょっと待て。その内容でオレが仲間だってことは、オレも童貞って思われてるってことか?
「振られ虫だからな」
ぼそっと高宮が言うと、うんうんと大楠達が頷く。
「そうだよな、りょーちん! 裏切ったりしないよな!?」
必死に聞いてくる花道。
水戸のほうを向くと、お好きに答えて下さい、と言う顔をした。
ああ、やっぱ水戸には分かってるのか。
でも、ここはひとつ花道のために、オレが恥をかいて…。
「残念だったな、桜木。コイツは童貞じゃねーよ」
今まで黙っていた三井サンがいきなり爆弾を投げてきた。
「な・なにーーー! 違うのかりょーちん!!」
不公平だ、不潔だと叫びながら、花道たちは畳をどんどんと叩く。
「そういう三井サンはどうなんです?」
その水戸の問いかけに、転がっていた軍団たちがガバっと起き上がる。
興味津々の目で三井サンを見つめた。
「俺か? もちろんあるに決まってんだろうが」
多分そうだと思ってた。アンタってよく見ると整った顔をしてるから、相手には不自由しなさそうだもんな。
「ま、今はバスケしか興味ないけど」
くそーっ! と叫んで男泣きをする面々。ミッチーに負けた、と花道は真剣に悔しがっている。
「でも三井サンて、女より男にもてるよね」
思いもよらぬ爆弾を、今度は水戸が投げてよこした。
「あ、でもそれ、オレも思ってた。堀田さんとかって、完全に三井寿ファンクラブだもんな」
作品名:SLAMDUNK 7×14 作品 作家名:鎖霧