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SLAMDUNK 7×14 作品

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この空の向こう-連載1-









もう、戻ることはできないと。
諦めていた自分を。
突き動かしたのは、確かにあの眼だったんだ。













5月の空はすっきりと晴れ渡り、心地良い風が窓から吹き込んでくる。
この空って、どこまで行ってもこんなふうなのかなって、なんとなく思ったりしていた。



「女ってわかんねー…」
クラスメートの安部が、俺の前の席に座りながらため息をついた。
阿部は野球部の副キャプテンで、かなり頭の切れるキャッチャーだ。
弱小だったクラブを鍛えて、纏め上げ、県大会で優勝まで導いた。
なぜキャプテンにならなかったのかと聞いた時、向いてない、の一言で片付けられた事もある。
ちょっと変わっているけど、信頼できる奴だと思っている。
その安部が、バンバンと机を叩きながら話し出した。
「なあ、三井。俺だって十分に気を使ってたんだぜ!」
朝からヘヴィーな話か、と思ったが、まあ聞いてやることにした。
「なんだ、振られたのか?」
ニヤニヤと笑いながら安部を見ると、むっとした顔でこちらに詰め寄ってくる。
「だいたい、野球をしてる阿部君が好きなのって告って来たのは向こうなんだぜ!?」
そりゃ、野球をしてるお前は文句なしにいい男だと思うよ?
「一緒に甲子園に行けるように、阿部君を応援したいの。部活頑張ってね、って、いっつも言ってたくせに!」
そんなの嘘に決まってんだろうが。一緒に甲子園目指そうって言うんなら、マネージャーかなんかになってるだろ。野球なんてキョーミ無いんだよ、そいつは。
「なのに昨日、いきなり夜中に電話かけてきたと思ったら、野球と私とどっちが大事なの? だと!」
お決まりのパターンじゃねーか。そこにたどり着くまで全く気づかなかったのか?
「それで? 何て答えたんだ?」
すべての感想は心の中に押しとどめて先を促すと、阿部は意地の悪い笑顔を張り付かせて
答えた。
「野球」
さも当然と言わんばかりのその口調に思わず吹き出すと、安部も笑った。
そりゃヒデーよ、俺だったら泣いちゃうね、なんて言いながら、二人してげらげらと大笑いした。
「ははっ、オマエほんとに野球バカ」
「三井だってバスケ馬鹿」
ひひひ、とまた笑う。
ふと、背中をぐっと押されたような何かを感じた。
振り返ると、アイツが教室の入口に立っている。
体を半分だけ覗かせた状態で、目が合うと、ちょいちょいと手招きをした。
「ワリィ。部活のヤツだ」
視線を入口付近にうつした阿部は、あいつ退院したんだ、と言った。
それには答えず、俺は席を立った。


「んだよ」
よう、と声をかければ良かったかも。しかし相手は気にする様子は無いようだ。
「いや、ちょっと言い忘れたことがあって」
気まずい雰囲気、というものが、俺と宮城にはある。何を話していいのか分からないのだ。
部活に戻った日から、コイツは至って普通に接してくる。
さも初めから何も無かったかのように。
それはそれで、なんというか。
やりにくい。
いったい何を考えているのか、俺には到底理解できない人種だと思う。
怒っているのか、許しているのか、それとももう興味が無いのか。
「あのさ」
違うところに行きかけた思考が、宮城の声で呼び戻される。
「今日の放課後、時間ある?」
「は?」
だから、と続けた宮城は言った。
「時間あるんなら、付き合って欲しいとこあるんだけど」
おっしゃる意味が良く分かりません。
という顔を俺はしていたのだと思う。宮城は器用に片眉を上げると、短く息を吐いた。
「…じゃ、また後でね」
くるっと身を翻して、廊下を駆けて行く。
電光石火の名の通り、あっという間にその背中は見えなくなった。
なんだかよく飲み込めない状況だけれど、もしかしてこれは『一緒に帰りませんか?』 というお誘いなのだろうか。
いや、まさか。
だって相手は宮城だ。あの宮城なんだ。
俺はアイツを屋上でボコッて(しかも集団で)、春先に入院までさせた男だ。
アイツは俺の歯を二本折って、顎に(これからもずっと残るだろう)傷をつけた男だ。
それはそんなに前のことじゃない。
なのに、やはり何事も無かったかのように誘ってくるのは、どうしてなんだ?
やっぱり分からない。理解できない人種に間違いない。


けれど俺は、知ってしまった。

コート上であのパスを受ける爽快感。

俺がどこにいるのか、何を考えているのか、アイツは分かっているみたいに。

当たり前のように投げてよこすボールが、ネットを揺らす。

息遣いまでもが、アイツと一体になってるんじゃないかと思うほど。

リアルに、俺に沸き起こる。

―――――快感。


それは、何処から来るんだろう?























「もうすっかり日が暮れちまいましたね」
さっさと屋上に登り、遮るものなく広がるオレンジ色の空を見て言った。
俺はというと。
ほんの少しだけ息を切らしながら、これまたほんの少し距離をあけて、アイツの後ろに立っている。
付いて来なけりゃ良かった、と今更ながら後悔しても遅い。
宮城と俺と屋上なんて、どう考えてもおかしい。
ああ、やっぱりコイツは根に持っていて、今から俺は飛び膝蹴りでも食らわされるんだろうか。
ああ、ほんとうに来なきゃ良かった。
「アンタって、オレと二人になるとあんまり喋んないよね」
緊張するようなガラじゃないっしょ、と言った。
この、先輩を先輩とも思わない態度に、幾分かの怒りを感じつつ、俺は宮城を見ずに答え
た。
「なんつーか、ほら。…わかんだろ、言いたいこと」
「わかんないよ」
はっきりと、宮城は言葉を発する。
「今のアンタは、オレには理解できない。けど、分かりたい、とは思う」
一瞬、聞き違いかと思うほどの真摯な言葉に、俺は思わず顔を上げた。
視線が宮城とぶつかって、だけど逸らせずに、逆らうことなど許されないような、強い瞳と向き合う。
「…アンタとやりあった時、正直オレはクサってた」
宮城の向こうで、雲がゆっくりと動いている。
「赤木のダンナや小暮さんがどんなに頑張っても、去年のチームじゃ全国なんて夢にもならなかった。それどころか予選も一回戦負けで、勝ちたいと思うことすら億劫になってた。どうせ高校で辞めようと思ってたバスケだ。アヤちゃんにはがっかりされるだろうけど、仕方ないって。アンタ達に関わったのは、気を紛らわすためだった。
でもさ…」
いきなり自分の話をぶちまけると、宮城はいったん言葉を切って、大きく息をついた。
目線が俺の体を通って足元に下り、それを追う様に俺の目もアイツの足元に向かう。
あ、新しいデザインのエアマックス。
ちょうど俺のサイズが切れてて、買いそびれたやつだ。
結構良い値段したのに、学校に履いてこれちゃうとこがスゲー。
そんなことを考えていたら。
スニーカーが、一歩、踏み出した。
また一歩。
オレの靴のすぐ近くで止まったから、なんとなく視線を上げていく。
宮城が、手を差し出していた。
「三井サン」
すっと俺の前に伸ばされた手は、握手を求められているんだと分かった。
「…仲直り…?」
思わず口に出して恥ずかしくなった。小学生でもあるまいし、握手して仲直りなんて、今時しないだろうに。
案の定、宮城は盛大に笑った。
作品名:SLAMDUNK 7×14 作品 作家名:鎖霧