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世界で一番遠い I love you(英米/R15)

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世界で一番遠い I love you act4


言えるとか、言えないとかそういう問題ではなかった。
それ以前の問題だ。
まずイギリスと話せない。
露骨に無視されているわけではないのだが、会議の後に食事に誘っても
他の用事があるからと断られ、休憩時間はいつの間にか姿が消えている。
挨拶はするが雑談はしない。
会議でも反対はするがそれ以上は話しかけてこない。
上手くアメリカのことを交わすだろうとは思っていたがこれほどだとは思わなかった。
思い返せば、独立直後のイギリスもじつに上手にアメリカを避けていた。
あのときは嫌悪や侮蔑といった感情が浮かんでいて、イギリスはアメリカのことを
嫌いになったのだなとすぐにわかった。
けれど今回は表面上はそんな感情など欠片も見せないで、ただアメリカを避けている。
周囲にはまたアメリカがイギリスのことを怒らせたのだろうと思われているが違う。
違わないけど違う。

(そもそもイギリスは元に戻るだけだと言っていたじゃないか)

別れても元に戻るだけだと彼は言っていた。
日本にも笑って受け入れられるのだと、許せるのだと言っていた。
しかし現実は負の感情の余地が無いだけであの頃と全く同じ。
彼はアメリカのことを許せていない。諦めていない。

(だったら俺があの人の手を掴むしかない)

決めたら行動だ。
ダンッと勢いよく机を叩いて日本と話しているあの人の元に向かう。
アメリカに背中を向けているイギリスは気付かなかったけれど、こちらを向いていて
気付いた日本がアメリカが割り込みやすいように少しだけイギリスとの間に
スペースを空ける。
貰ったチャンスを生かすべく、開けられた其処に勢いよく飛び込んでイギリスの顔を
覗き込んだ。
驚きに見開かれるフォレストグリーン。
思ったよりも近くになってしまった距離を恥じるより先にアメリカは勢いのままに
口を開いた。

「ねえイギリス。この後空いているよね」

疑問形ではないのはアメリカがイギリスのスケジュールを把握しているからだ。
まるで少し前のあの人みたいで(いや案外今もそうなのかもしれない)嫌だなあと思いはするものの
背に腹は代えられない。
心なしか首をかしげて齎した言葉にいや、とイギリスは予想外の反応を示した。

「今日は部下との打ち合わせがあるんだ。悪いがお前に付き合えない」

「・・・そんなに時間がかかるものなのかい?」

「ああ。そのまま本国に帰国するつもりだしな。・・・・・・お前も遊びすぎるなよ」

最後の方は保護者のような顔つきで言い、アメリカの頭をポンと一撫でしたイギリスは
日本に断りを入れて会議室を後にした。
その後ろ姿が見えなくなるまで見届けて気まずさなど感じさせないように笑って
日本に向き合う。
予想通り、日本は痛ましいものを見るような沈痛な表情を浮かべていた。

「フラれちゃった」

空気を読まないであえておどけて言ってみるが日本は曖昧な笑みを浮かべただけで
何も言わなかった。
日本は伝説の読める空気を知っているからアメリカの態度に引っかかる点があっても
そのことを尋ねたりはしないのだろう。
笑いを引っ込めて「日本」と名を呼ぶ。
真っ黒な吸い込まれそうな瞳がアメリカを見据えて瞬く。

「あのさ、ちょっと一緒に来てほしいんだ」

思いがけず頼み込むような口調になってしまい、慌てて「反対意見は聞かないんだぞ!」と
付け足すと日本は表情を変えずに「そうですねえ」と返した。
日本の返事を待っているはずもなく「じゃあ行くぞ」と宣言して、日本の腕を掴んで
ぐんぐんと歩き始める。
アメリカの歩く速度は日本より少し早い程度で速度的には問題ないのだが
リーチに少々の差があり、今の速度では日本は小走りにならざるを得ない。
だがアメリカは早くも息切れを起しかけている日本に気を止めず、会議場を出て
ずんずんと進む。
そして廊下の曲がり角に差し掛かったところで足を止め、そうっと曲がり角の
先を窺った。

「いいから飲みに行くぞ髭」

「え、何それ。俺の人権は?」

「あぁ?んなものねえよ」

窺った先の廊下で言い争っていたのはイギリスとフランスだった。
やはりアメリカの把握していた通り、イギリスは部下との打ち合わせなどなかったのだ。
二人は言い争っていたが、やがて諦めるようにフランスが項垂れ、勝ち誇った笑みを
浮かべたイギリスと共にエレベーターホールへと消えていった。

「・・・・・・やっぱり、嘘、だったんだ」

「アメリカさん・・・・・・」

「日本、俺ね、知っていたんだ。今日、イギリスは部下との打ち合わせなんて無いって」

壁に凭れかかって天井を仰ぐ。
上を向いていないと涙が零れてしまいそうだった。
元に戻るだけだというのは嘘だった。
今日、部下と打ち合わせがあるというのも嘘だった。
嘘だらけのイギリス。
けれどアメリカにイギリスを責める資格は無い。
だって、一番最初の嘘つきはアメリカだ。
それでもこみ上げてくるのは悲しみと苛立ち。
若い、若いと言われていても数百年を生きているのだから多少の感情制御には
慣れている。
それなのに何故だろう。
胸の奥底からこみ上げてくる何かが喉に詰まる。
ぐるぐると唸って、苦しくなる。

「最初からきちんと自分の気持ちに気付いていたら、イギリスに嫌われなかったのかな」

ぽつりと零れたのはアメリカらしくない泣き事めいた言葉だった。
ヒーローは弱音なんて吐かない。
だからこんな言葉は吐いてはならないとわかっているのにするすると言葉は
零れ落ちていく。