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ハガレン短編集【ロイエド前提】

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微笑って






「変わったな。」


私の隣でグラスを弄びながら、ぽつりとヒューズが、言った。

その言葉の意味が解らずヒューズの顔を観ると、ヒューズは微かに笑みを浮かべていた。


「悪い意味じゃ、ねぇ。」


続けて紡がれる言葉。


「昔と比べて、柔らかくなった。」

「柔らかく?」


言葉が抽象的で、今ひとつ解釈につまる。

一体ヒューズは何を言いたいのか。

ヒューズはちらり、と私を観ると、くす、と笑みを漏らした。


「エドの存在が、お前を大きく変えたんだな。」


からん、と、私のグラスの中で、氷が音を立てて崩れた。


「鋼のは…」


小さく言葉を紡ごうとしたが、私は何故かその先を続ける事が出来なかった。

私の、弱い部分を誰よりも良く理解しているヒューズに、鋼のの事を語るのは本能的に
躊躇われたのかも知れない。


「良かったな。」


言って、ヒューズはグラスを呷った。

どう、答えれば良いのか。

黙ったまま、琥珀色の液体を眺めていると、再びヒューズが口を開いた。


「柔らかくなったと同時に、強くなったよ。お前は。俺じゃ、お前に強さは与えてやれなかったからな。」

「そんな事は…」

「あるんだよ。」


飲み干したグラスを店主に差し出し、同じ物をと告げ、カウンターに頬杖を付いて。

そうしてヒューズはこちらに視線を向けた。

心なしか瞳が潤んでいるように見えるのは、アルコールのせいだろう。


「守るものが出来れば人は優しくなれるし、強くなれる。お前にとって俺は、守るものじゃねぇだろう?」


そう言う事さ、と、ヒューズは笑った。


「大切にしてやりたい。守ってやりたい。その気持ちは、デカいぜ。」


確かに、鋼のは大切にしてやりたいし、守ってやりたい。

笑顔を守る為ならどんな事だって出来る。

微笑っていて、欲しい。

だから鋼のの為に、強くありたいと、思う。


「…だが…」


私はゆっくりと、言葉を紡いだ。


「鋼のに掛けてやる言葉は…自分に言い聞かせる物ばかりだ…」


だから私は、まだまだ弱い・・・


「いいんだよ。それで。」


言って、店主から新たなグラスを受け取り、再び呷る。


「俺だって、そうだったさ。」


グラスの水滴が作った小さな水溜まりを指でなぞりながら。


「自分が、自分の為に誰かに掛けて貰いたい言葉ばかりを、さも自分の言葉のように言っていたさ…
そいつを元気付けてやるつもりで、自分に言い聞かせてた…」


意外だ、と、思った。


「何て顔してんだ。」


おかしそうに、ヒューズは口を開いた。


「俺だって人間だ。弱い所はいっぱいあるさ。」


ヒューズは指先にあった水滴を、軽く弾いた。

弾かれた水滴は、ばらばらに散り、更に小さな粒となった。


「基本的に、俺は寂しがり屋なんだよ。」


何処かぼんやりとした口調で、ヒューズは言葉を紡いだ。

その言葉に、私は何となく納得した。

ヒューズは人の様子を感じ取る事が上手い。

それは恐らく、ヒューズの言う寂しさが、無意識に人を観察させているのだろう。


「だからお前は、人の痛みが解るのだな。」


私の紡いだ言葉に、ヒューズのグラスを呷ろうとした手が、止まった。


「…それは買いかぶりってもんだよ…」


ことり、と、グラスを置き、小さくヒューズは呟いた。


「俺はそんなに綺麗な人間じゃねぇ。」

「少なくとも、私にとってはそうだったさ。」


ヒューズは、少々驚いたように、私を観た。

そうしておかしそうに笑みを漏らす。


「照れるね、どうも。」


笑い混じりに紡がれた言葉は、どこか嬉しそうに聞こえた。


「ありがとよ。」


一瞬、声が揺れて聞こえたのは、酔いのせいだろうか。


「そう言やエドはどうした?来てるんだろ?」


思い出したように、ヒューズが口を開いた。

私はヒューズが照れ隠しにわざと会話を摩り替えたように思えたが、そのまま会話を流した。


「取り寄せてやった本を渡してやったらそのまま読み耽ってしまってな。」


何度声を掛けても全く反応しなかったので置いて来た、と、ヒューズに告げた。


「おやおや。」


ヒューズは軽く肩を竦めると、「拗ねるぞ」と言って、笑った。


「構わないさ。拗ねればそれだけ余計に甘えて来る。」

「余裕だねぇ、マスタング大佐は。」

「当たり前だ。」


そう答え、グラスを呷った時。


「大佐っ!」


不意に聞こえたその声に振り返ると、背後に鋼のが立っていた。


「いよぅ、エド!」


明るく手を挙げ、ヒューズが声を上げる。


「酔ってんな・・・中佐・・・」


呆れた様にヒューズを観て、鋼のが呟いた。


「まぁまぁ、いいじゃねぇか♪座れ座れ♪」


そう言って、ヒューズはひとつ席をずれ、自分と私の間に鋼のを座らせた。

私とヒューズを見比べるように交互に視線を移す鋼のに笑みを見せてやると、鋼のはほんの少し
安心したように、少し笑った。

恐らく私が酔っていないと、確信したからだろう。


「本は読み終えたのかね?」


そう聞いてやると、鋼のはこくり、と頷いた。


「もうすぐ、帰るからな。」


その言葉に、鋼のが嬉しそうな笑顔を見せる。

ふと、ヒューズを観ると、ヒューズは笑みを浮かべながら私達の様子を観ていた。




守りたい物がある。

それは小さな、私の天使。

私に向けられるその微笑みは、私の心を強くする。

だから、ほら。

微笑って。



                                        Fin.