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ハガレン短編集【ロイエド前提】

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非番






「よぉ、大将」

数週間振りに司令部を訪れたエドが執務室に向かって歩いていると、丁度資料室から出て来た
ハボックがエドに気付いて声を掛けて来た。


「久し振りじゃねぇか。今日はどうした?」

「この間セントラルに寄った時にヒューズ中佐から大佐に届けてくれって言われた物があってさ」


エドは手にしていた封筒をハボックに見せながら、そう答えた。

しかしそれは、エドにとってはいい口実な訳で。

勿論、ハボックもそれは解っていたが、敢えて口にはしなかった。

エドの後ろにくっついているアルの姿が見えないあたり、恐らくはヒューズが気を回したのだろうと
言う事は把握出来たので。


「でも大将、残念ながら今日大佐は非番だぜ?」

「え?!」


ハボックの言葉にエドは思わず声を上げてしまい、慌てて口を押さえる。


「何でっ?!」

「いや、何でって・・・」


先程よりも押さえ気味だが、それでも張りのある口調で発せられた言葉に、思わずハボックは
言葉に詰まる。

それにロイが非番であっても、いつものようにロイの部屋に行けばいいだろうに。

何か都合が悪いのだろうか?


「約束でもしてたのか?」

「別にそうじゃ無いけど・・・」


もごもごと言葉を濁すエドに、ハボックは一瞬どうしようかと考える。

確かにロイは司令部には居なかったのだが、実はそれは非番では無く任務の為で。

隠密行動に近い任務なので、表向きには非番と言う事になっているのだ。

エドになら恐らく言っても問題は無いのだが、誰の耳に入るか解らない。

さてどうしたものかとハボックが思った時、不意に廊下の先でドアが開き、フュリーが顔を出した。


「あ、ハボック少尉。エリザベスさんからお電話が入ってますよ」

「おー」


フュリーの言葉に、ハボックは助かったとばかりにほっとした表情を浮かべる。


「少尉、彼女出来たの?」


良かったねと紡がれたエドの言葉に、ちくりと小さな棘がハボックの胸を刺す。

まぁなと答え歩き出したハボックの後ろをエドも付いて行く。


「もしもし」

『こんにちはハボックさん。何処へ行っていたの?』


受話器の向こう側の声に、ハボックは声を弾ませた。


「あぁ、ごめんごめん。丁度今うちの大佐に来客があってさ」

『あら、いいの?私なんかと話していて。大事なお客様なんじゃなくて?』

「大丈夫だよ。大佐は非番だからってちゃんと伝えたし。それよりもどうしたんだ?」


目の前で機嫌良く話すハボックを横目で観ながら、エドはひとつ向こうのデスクに居るフュリーに
小声で話し掛けた。


「ねぇ曹長、軍回線で私用電話していいの?」

「え?あ・・・あぁ・・・まぁ・・・良くは無い・・・かな・・・」


不意に言葉を紡いだエドに、慌てたようにフュリーはハボックとエドを見比べるように視線を
泳がせる。

そんなフュリーの様子にエドがハボックに視線を移せば、ハボックはくるりとエドに背を向けた。

自分はロイに会えなかったのに、ハボックは彼女と私用電話をしている事で、エドはほんの少し
不機嫌になる。


「・・・大佐に言ってやろー・・・」


ぽつりとエドが呟けば、エドの横でフュリーが慌てたように何かを言い掛けた。

しかし思い留まったように言葉を飲み込み、フュリーはすぅっ、とエドの傍から離れた。

ちらりとハボックがエドを観れば、エドは恨めしそうにハボックを見上げている。


「あぁ、そうそうエリザベス。そう言えばローレライはどうしてる?」

『相変らずよ。どうかしたの?』

「まぁ、大した事じゃ無いんだけどローレライから預かった子犬が淋しがっててさ。相手してやって
も俺じゃやっぱ駄目みたいなんだ」

「フュリー曹長、ハボック少尉犬預かってるの?」


再びエドに言葉を掛けられ、フュリーはびくりとして顔を上げた。


「え・・・さぁ・・・僕はちょっと・・・」


ふぅん、と声を漏らし、エドは先程までフュリーが座っていた場所に腰を降ろした。

デスクの上に転がっているペンをころころと転がしながら面白く無さそうに息を付く。


「ローレライはいつ戻る?一応連れて来てるんだけど、出来れば早く引き取って欲しいから寄って
欲しいんだ」

『もう上がりだから寄るように言っておくわ。他には?』

「あぁ、後は・・・」

「犬、ここに居るんだ。俺暇潰しに相手して来ようかな。曹長、ハボック少尉が預かってる犬、
何処に居るの?」

「え・・・えぇ・・・?あ・・・あの・・・」


いちいちハボックの言葉に反応するエドに、フュリーはどうしていいか解らないようにハボックを観る。

しかしハボックは相変らず背を向けたまま話している。

反対側のファルマンに視線を移せば、ファルマンは開いていた本を立て、隠れるように身を沈ませた。


「うん・・・うん・・解った。それじゃ待ってるよ。あぁ、そうそうパイナップルの美味いのが
あるんだ。後で土産に持って行くから。それじゃまた」


漸く受話器を降ろしたハボックは、胸ポケットから煙草を出し、火を点けるとひと吸いして深く
煙を吐いた。


「少尉、犬何処に居るの?」


ハボックはゆっくりとエドに向き直ると、再び煙を吐き、言葉を紡いだ。


「すぐに解るさ」

「はぁ・・・?」


訳が解らないと言ったように声を漏らし、エドは首を傾げた。


「あぁ、そうだエド。もう少ししたら大佐戻って来るから、執務室で待ってろ」

「え?戻って??大佐、非番なんじゃないの?」

「そんな細かい事はいいんだよ。俺もう少ししたら出るから相手出来ねぇんだ」

「え・・・あ・・・うん」


エドは不思議そうに頷くと、それじゃと言い残し部屋を後にした。

エドを見送り、はぁ、とフュリーが大きく息を吐く。


「もー・・・どうしようかと思いましたよ・・・」

「まぁまぁ、いいじゃねぇか」


くっくっと笑いながら、ハボックは窓の外に視線を移した。


「やっぱ子犬は飼い主で無いと駄目なんだよ」




急ぎ足で戻って来たロイが執務室のドアを開けたのは、それから数十分後の事だった。




                               Fin.