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みっふー♪
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novelistID. 21864
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ヅラ子とベス子のSM(すこし・ミステリー)劇場

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+++5



――どうも、おじさんは先生に拡声器を返すと照れ臭そうに頭を掻いた。
「……いやぁ、学生時代に憧れてよくやってたんですよ、バリケード強行突入ごっこ」
「はぁ……」
先生が曖昧に笑い返した。しーんと鎮まり返った中庭に、
「――ごめんください」
表門のあたりから女の人の声が響いた。
「はぁい、」
――誰かしら、いそいそ姉が出て行った。
「……。」
――やれやれ、まだむは一服すると、固まっているCGメイドの太陽光バッテリーパネルを開けた。――洗濯昼からで間に合うかァ? 空を見上げて猫ねーちゃんが欠伸した。
表から戻って来た姉が、窺うようにおじさんの方を見た。
「マ夕゛オさん、奥様だって方が……」
姉の後ろに続いた訪問着姿の人物がおじさんを見てにっこり笑った。
「お久しぶりです、あなた」
正面顔が明度を落としたソフトフォーカス気味なせいか、どことなく雰囲気が先生と重なる。それとも単にそういう人種特有の醸す空気なのかもしれないが。
「おっ、おおおおオマエっ」
――どーしてココにっ?! おじさんが慌てふためいた。ころころ笑って妻は言った。
「いやぁね、前にお手紙出したじゃありませんか」
「そそそれはそうだけどもっ」
おじさんは盛んにグラサンの位置を意味なく上げたり下げたりした。妻は上品な着物の色柄と同じに落ち着いていた。
「良かった、またコソコソ逃げられちゃ困るから、探偵さんに張り込みがてら痺れ薬入りのグラサン預けといたんです。おかげでうまいこと足止めできたみたいね」
「――あっ」
ワン公に圧し掛かられていたままの女装子探偵が声を上げた。
「それじゃあなたが依頼主の……」
「ああ、グラサン仕掛けてくれた探偵さん?」
ちらと目線を送って妻が言った。
「……。」
――なぜあのナリの人間を即座に探偵だと見抜けるのだろう、少年は疑念と同時に畏れのようなものを覚えた。
「ほらっ、ほらなーっ、俺はグラサン仕込んだつっても仕事でやっただけなんだっ、この奥さんがそう言ってるだろっ」
根拠がわからないが、勝ち誇ったように探偵が言った。
「紛らわしーんだよてめえはっ」
天パが締め上げた女装子の襟をガスガス揺すった。
「ンなこと言ったってしょーがないだろっ、ウチみたいな零細は大手の四次請け五次請け仕事が主なんだからっ」
――ねーっ奥さん、化粧崩れも著しい女装子がサワヤカぶって笑いかけた。それからはっと何かを思い出した顔をして、
「あっ、あのですねっ、枕元にグラサン設置は成功したんですけど、古い方のグラサン回収し忘れまして、――しまったっ!て、もっかい屋敷に忍び込んでみたところ既に事件発生しててですね……、まっ、この際結果オーライってことで!」
都合のいいことを言って女装子はへらへら締まりのない顔をした。
「……親事務所には知らせないでおきますわ」
一切含むところなど見せず、妻は極上の笑みを浮かべた。
「ああっ、ありがとうございますたすかりますっ」
女装子が妻を拝み倒した。妻はくるりとおじさんを振り向いた。
「本当すみませんお騒がせしちゃって、この人もねー、前はこんなじゃなかったんですけど、今じゃすっかりろくでなしのマ夕゛オになっちゃって、」
――さっ帰りますよアナタ、奥さんが小さくなってるおじさんの半纏の首根っこをズルズル引っ張った。
「待って下さい!」
少年は堪らず飛び出して立ちはだかった。
「そりゃ、奥さんから見れば確かにいまのマ夕゛オさんはまるでだめなおじさんそのものかもしれないですけどっ」
――それでも僕たちには、言葉を詰まらせた少年に、妻がすっと目を細めた。
「……この人はね、昔はそりゃもう輝いていたわ、燃える野心と理想とをクールなグラサンの下にひた隠して、それでいてたまにギター掻き鳴らしてあのムダにイイ声でじゃんがじゃんが、自作のフォークソングなんか歌うのよ。自己プロデュースでギャップを演出してみせるなんて、なんてキレる人なの、只者じゃないと思ったわ」
「……」
少年は押し黙った。遠い目をして妻は続けた。
「……あの頃私の家の名を目当てに近付いてくる男はいくらもいた、甘い言葉に猫撫で声、皆同じ顔に見えたわ、だけどこの人だけは違ってた、デートしててもいつもむっつり不機嫌そうで、自分じゃ財布も出さないの、……おかしいでしょう? 私をものにしたいならせめて付き合っている間だけでも嘘でも優しくするものじゃない、でもね、そんな裏表のないこの人だから信じられた」
「……。」
少年は何も言えないまま拳を握った。
「ちっ、違うんだっ、」
よせばいいのに、掴まれた首根っこを振り払っておじさんが弁解した。
「俺はそのっ、サークルの合ハイで一目惚れしたこの人に勢い余って告白したはいいもののっ、彼女の家と俺とじゃとても釣り合わない、これ以上好きになる前に、早く嫌われなくちゃと必死だったんだっ、それであんないっつもエラそうだったんだよォォ、かっ、金がなかったのはガチだけどっ」
おじさんはグラサンごと赤面を掌に覆った。
「…………。」
格好いいのか悪いのか、少年にはだんだんおじさんがわからなくなってきた。そういうところがミリキだと思えるほどにどうやら自分はまだ達観できていないらしい。
ため息混じり、妻の昔話は続いた。
「この人と知り合った頃、私大学校の院にいたんです。薬理生化の博士号取って、卒後後は学所に入らないかって誘われたりもしてたんですけど、好むと好まざるとに関わらず、私は家の名を背負って生まれてきてしまったんですもの、自分の夢はすっぱり諦めてこの人に賭けました」
――だってね、妻は肩を竦めてくすりと笑った、
「奇跡だったんです、自分がこの人だって思った人間と、親の選んだ相手が重なった、後悔はひとつもありませんでした」
「……。」
――ううう重い、これは重いなァァ、達観したところでなおかつ若さと勢いだけで太刀打ちするにも限界があるぞっ、眼鏡を俯かせて少年は思った。妻は小さな息をついた、
「……この人がドロップアウトしてから、私も何のあてもなく家を飛び出しましたけど、今じゃちょっとした研究所に臨時で籍を置いてるんです。この人の行方もそこの諜報機関に依頼して知りました」
「……ぇっ」
少年の心の声が思わず外に出た。――何だか妙な方向に話が込み入って来たぞ、……ちょっ、諜報機関付きのラボぉ?
「ねぇあなた、帰りましょう、」
妻は再び笑うと男の手を取った。
「あなた一人くらいなら私が何をやったって食べさせていける、だからお願い、私の元に戻って、」
「……」
男は妻の手を振り払うようにグラサンを直した。妻の眉間が悲しげに寄せられた。低い声に、絞り出すように男は言った、
「私は帰らない、こんな顛末で君の元に戻るわけにはいかない」
妻は再び甘えるように男の手に縋った、
「どうして、もうあの家は関係ないのよ、私とあなたと二人ならどうとだってやり直せるはずよ、」
グラサンの下の男の髭面がふと歪んだ、
「……君は本気かい?」
「もちろん、本気よ」
妻は揺るがぬ微笑を浮かべた。男は息を漏らした。