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お題で短文浦一

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レインレインレイン



あ゛ー畜生、びしょ濡れじゃねぇか。誰にともなく吐き捨て、一護はぶると頭を振った。飛び散った水滴がぱたぱたと背後のシャッターを打ったが、激しい雨音がコンクリを打ち付ける音に難無く掻き消される。出先からの帰り道突然の夕立に遭い、とりあえず走ってはみたものの頭上にのさばった雷雨から逃れられるはずもなく、仕方なく通りかかった商店街の軒先へと非難した。雨の中を走っていた時間は三分に満たないが、一護は頭から足先まで見事にずぶ濡れだった。ここまで濡れてしまえば雨宿りも何もないだろうと思わないでもなかったけれど、降りしきる雨のせいで数メートル先の光景すら覚束ないでは断念するしかなかった。身体にぴたりと張り付いて煩わしいことこの上ないTシャツの裾を引っ張り、ぎゅうと絞る。しかし数滴滴ったのみでは気休めにもならない。一護は諦めて溜息を吐くと、額に張り付いた前髪をかき上げた。依然として突発的な豪雨は続いている。一体どこまで走って来たのだろうかと辺りを見回すが、寂れた商店街風の店先はどこもシャッターが下ろされ、人の気配が感じられない。一護もあまり来た記憶の無い通りだった。見通しの悪い視界に何か見知った看板でも標識でもないものかと目を凝らしていると、誰もいないと思い込んでいた空間に突然他人の声が降って湧いて一護はびくん、と大仰に反応してしまった。
「雨、止まないッスね」
「ッ…!……あ、んた、いつの間に…」
見ず知らずの他人に思わず礼儀も何もかもぶっ飛ばした一護を気にすることなくきょとんと首を傾げた男は、一護から人三人分程離れた同じ店の軒下で初めから居ましたよ、と言って一護を驚愕させた。気付かなかったッスか?と問われ、一護は決まり悪く頷いた。男は少し笑ったようで(目深に被られた変てこな帽子のせいで目元が判然としない)そりゃ、驚かせてしまったみたいで、スミマセンと言いながら、一護との間に横たわった三人分の距離を二人分だけ詰めて来た。一護は何と答えたものか迷って、いや別に、とだけ答えた。のそりと何故か一護に近付いて来た男を警戒しながら横目でそうっと観察する。受けた印象を一言で表してしまえば胡散臭いであった。天鵞絨の作務衣に二枚歯の下駄を履き、何といっても緑と白の縞になった帽子が男の印象を怪しげなものにしている。けれども、その変な帽子から覗く髪はキラキラとした綺麗な金色をしていた。帽子に押さえつけられあちこちに跳ねながら、控え目なそれでいてはっきりとした色彩を保って一護の興味を誘った。ちら、とだけ観察するはずがついまじまじと眺めていたらしく、見上げていた一護の視線はうっかり見下ろした男の視線とかち合ってしまった。ぱちりと合わさった視線の先の鍔に隠れた瞳が不思議な金色に光った気がしたけれど、しっかりと捉える前に一護は気まずくなって顔を俯けた。ごうごうと耳鳴りのような音がしている。どこかでこんな雨にも負けずに鳴く蝉の声が響いていたのだけれど、雨やら何やらの音と一緒くたになって今は一護の耳元で唸っている。うるさい。眉間にぎゅっと皺が寄るのを感じていると、ふいに横から伸ばされた指先が一護の頬を撫でた。びっくりして顔を上げる。隣に立った男がひっそりと呟いた。
「水滴、垂れてる」
「………え」
ああ、ともうん、とも言えず、一護は固まる。帽子から覗いた両眼が金色に輝いて一護を見下ろしていた。一護は動けない。男の指先は一護の頬を撫でている。水滴を拭っているようでいて、全く別のことを意図しているようでもある。男のもう一方の手が持ち上がり、頭上に乗せられていた帽子を取り去る。そのままその手が一護の背に回り、軽く引き寄せられた。決して強い力が込められているわけではなかったのに、促されるまま一歩男に近付いて、顕わになった男の容貌を間近に目にする。やっぱり、瞳の色まで金色だ、と今更のように一護は思った。帽子が無いだけで幾分にも印象が違ってくるから不思議だ。今一護が見上げている男の顔貌は繊細だとすら言えるだろう。どこにも隙がない。敢えて上げるとすれば、疎らに生える無精ひげくらいか。男の顔が近付く。一護は金色の色彩から逃げられない。吐息が触れ、距離が重なる。寂れた商店街のシャッターが下りた店ばかりが連なる軒下で、雨の帳の内側で、一護は胡散臭い男とキスをした。全くどうかしている。自分で自分に呆れ果てるのに、男の瞳を見てしまうともう駄目だった。金色がゆうらりとたゆたうように、一護を呑み込んで何処かへ連れ去っていく。ぴたりと止んだ蝉の声。鳴り響く一護の心臓。ひっそりと耳元で声がする。抑えられているのに芯から何かを揺さぶり起こすかのような。一護の全てをぐずぐずにして溶かして丸呑みにするような、甘い声音だった。その声が一護の耳においでと囁く。手招くその手を取ったらもう一線越えるどころか、何処か違う世界へ踏み出してしまいそうであるのに、一護の中にはもうその手を取らないという選択肢は存在しなかった。ごうごうと脳を揺さぶる耳鳴りはもう雨の音ではなかった。


(狂気と言う名の、)


作品名:お題で短文浦一 作家名:ao