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Grateful Days

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Between Friday and Saturday @ OZ



「…あれ?」
 ぱちっと目を開けて、なんだか違和感があるような気がした。体がいやに重い。というか重心が低い。いくら自分がインドアの生き物だからって限度と言うものが…、と思った健二だったが、持ち上げた手が視界に入った瞬間絶句した。

「…ゆめ?」

 平和的な解決を求めて呟いた。どう考えても鉛筆なんか振り回せそうもない手で、頬をつねろうとしたけれどやはり無駄だった。
「…なんで! なんで僕! アバター?! えええええ!」
 絶叫したら勢いで倒れて転がった。ひどいや佐久間、何か恨みでもあったわけなの…? 
「この体むっちゃくちゃうごきにくいよ…」
 しくしくしく、と泣いていたら、何か気配を感じて顔を上げた。そうしたら、そこにいたのは。
「…え…っ」
 今度こそ夢だろう。そうじゃなかったら気絶する。そう思ったけれど、もう何がなんだかわからない。
「少年。久しぶり」
 にやりと笑う口は非常識に裂けたり、歯がとんどもなくむきだしになったりもしていなかった。だけれどもなんだか表情がちょっとシニカルだ。
 ――そこにいたのは、健二が以前使用していたアバター。その、往時の姿だった。丸い耳がついた人型のアバター。そのアバターが、健二をじっと見ていた。
「え! ラ、ラブマシーン!?」
「違う違う、俺、俺」
 ちっちっち、と指を振った後、アバターは詐欺のようなことを言った。リスのアバターの顔が物凄く不審げな、非常に不細工なものになる。
「…誰?」
「陣内侘助。久しぶり、小磯健二、君」
 夢なら早く覚めてほしい。今度から夢を見るときはリセットボタンがついてるやつを希望する。そんなことを、力なく健二は考えていた。
 今は勿論、あたりにリセットボタンなんて見当たりはしなかった。

 で。と健二は切り出した。
 で? と侘助は切りかえした。
「…これ、夢じゃないんですか?」
 仕方なく健二は問いかけた。侘助は別に意地が悪いとまではいかなそうだが、といってボランティア精神に溢れたタイプには間違っても見えない。
「その問いかけは俺も百回くらいした。残念ながら、違う」
「…。色々聞きたいことはあるんですけど、なんで…そのアバターなんですか」
 ここは一体どこなんだ、とか、なんで自分達はアバターの姿になっているんだ、とか、どうすればここから出て行けるのか、とか。
 尋ねるべきことはたくさんあった。だがどれもこれも重要で、正直、何から尋ねるべきか健二も判断付けかねた。というか、あまりにも事態が予想外すぎて、もう普通に問いかける元気もなかったといのが正しいかもしれない。
 それでもこれだけは聞かずにいられなかった。あの時ラブマシーンと一緒に消えてしまったと思ったアバターが、なぜ今ここにいて、そして侘助のものとなっているのだろうか。
「…ラブマシーンを作ったのは、俺だから、かな」
「……」
 何となく侘助が言わんとすることはわからないでもなかった。戒めとか詫びとかそういうものだろうかと。そうはいっても元をただせば健二のアバターなわけで、そうですか、と頷いてしまってよいものかどうかと彼は少し悩んだ。
 悩んだが、結局「そうですか」とだけ答えることにした。ロジックなら解こうとも思うが、これはロジックではない。もっとやわらかくて、そしてもっと難しい、規則性のないものだ。
「…で。根本的な質問なんですけど。僕たちはその、一体今どういう状態なんでしょうか…」
 侘助であるらしい、健二の元アバターは瞬きめいた仕種を見せた。
「どう、って?」
「どうというのはですね、あの…ログインしてる僕がいて今ここで喋ってるアバターがいるってよりですね、なんというか僕自身がこいつになってしまってる気がするというか」
 言えば言うほど馬鹿げていた。言っていて健二は泣きそうになったくらいだ。だが侘助は笑わなかった。
「…君は、ゴーストを追いかけてたりしなかったか?」
 リスは瞬きした。
「え! なんで知ってるんですか…?」
 アバターは肩を竦めた。
「俺も追いかけてたというか…俺の場合は、追いかける前に見かけた所でここに捕まったというか…」
「えっ、えっ…なんでですか? 何があってそんな」
 もしかして侘助が何か関与しているのだろうか、と健二の心臓は飛び跳ねる。果たして?

「ラブマシーンのプロトタイプなんだ」

「……はい?」
 呆気にとられて、リスは首を傾げた。傾げすぎて、転んだ。やはり鉛筆を振るのは無理そうだ。自分が頭を振りすぎて大変なことになりかねない。
「だーから、ラブマシーンのプロトタイプ! つまり、あいつも俺が作ったの!」
 なんて迷惑な! という叫びを寸でのところで健二は飲み込んだ。仕方ない。どんな小説でもマンガでも、天才マッドサイエンティストは世の中に迷惑な存在なのだ。きっとそうなんだ。…「マッド」は言いすぎかな、と思った後で人のいい健二は少し反省した。
 というより「サイエンティスト」とは微妙に違うかもしれない。そして、とにかく原因を作っているのは侘助なのだから、健二はもっと怒ってもいいはずだった。ここに佳主馬でもいたなら呆れているだろう。健二の人のよさに。
「…で、…で。あの、なんでそれがこんなことになってるんでしょう…」
 プロトタイプとかそういうことはもういい、と健二は根本的なことを尋ねた。これがわかれば大体解決だろう。
「それがなあ…」
 へらっと笑った侘助(旧健二アバター)は、全く悪びれずに言ってくれた。
「プロトタイプだからな、ラブマシーンと同じようなところもあるし、違うようなところもあるんだな」
「はあ」
 というか一体どれくらいあるんだろうか、そのプロトタイプというのは。ここから無事に生還したら全部封印、いやデリートしてもらわなければいけない、と健二はひそかに決意した。
 あんたならできる、という栄の言葉が聞こえた気がした。
「うん…あいつは、人間の思考をパターン化してベースにしてるんだ」
「…よくわかりませんが」
「だぁから。実在する人間の思考パターンからできてるの、あいつは! …ただ、容量の都合で、子供レベルだけど」
「つまり、モデルというか…モデル? がいるってことですか」
 侘助は曖昧に笑った。
「まあ、な」
「まあ、って…。じゃ、じゃあ、そのモデルの人の願いってのが、あのゴーストの願いなんですか?」
 侘助は黙り込んだ。
「えっ、えっ…違うんですか?」
 汗を大きく周囲に飛ばしながら、リスは必死だ。どうにかしよう、というのがすごくよく見て取れる。対して少年型の方はどうにも諦めている風情が感じられる。いやしかし、諦められては困るのだ。
「侘助さん!」
 リスが叫ぶと、侘助、は溜息をついた。
「…俺なんだよ」
「…はっ?」
「だぁから、俺なの。…作ったときは、とにかく試しに自分の脳波から」
「……じゃ、じゃあ!」

 ママはどこ?

 と、聞いているのは侘助だっていうのか!
 リスは小さな目を精一杯見開いて固まった。今度こそ呪縛はすぐに解けそうもない。少年型アバターの方でもうまく言葉が接げないのだろう、沈黙してしまった。
「…。わ、わかりました」
作品名:Grateful Days 作家名:スサ