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【FY】詰め合わせ

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圏外の真ん中でおめでとう



 新木場方面へ走り去っていく10000系を見送っていると、改札外乗り換えのはずである後輩が、なぜか自路線のホームに立ってこちらに向かって手を振っていた。
「せっんぱーい、お疲れ様でーす☆」
 それも、ご丁寧に目には見えぬが何となくうっすらと察してしまう星マーク付きで、だった。
「……や、何してんのお前」
 もう夜も更けて深夜と表現して差し支えのない時間帯であるにも関わらず、手を軽く掲げながら軽快に笑ってみせるその顔は、昼食時に見たものと丸っきり同じものであった。寧ろ、昼に見た時よりも晴れ晴れと輝いているようにすら見えて、改めて若さって凄い、と有楽町は肩を落とした。
「何ヘコんでるんですか先輩」
「ヘコんでるんって言うか、脱力してんだよ……」
 きょとんとした顔で問うてくる後輩に向かって、話題を散らす為に手を払うように振ってみせる。何の事かさっぱり分からないと言った様子で表情を維持したまま首を傾げる後輩の態度は取り敢えずこの場では置いておく事として、有楽町は丸めた肩のラインを直線に戻しながら問い掛ける。
「で、何の用だよ。この時間にトラブルか?」
「その、仕事中に顔合わせる度に開口一番で『何かあったか』って言うのやめて下さいよ、先輩。僕がヘコみますよ」
「仕事中なんだから当然だろ?」
 わざとらしく悲嘆する後輩の演技力については何も言うまい。と言うか、己に課せられた勤務時間の終わり近くにこのテンションに付き合うには、有楽町はもう若くないのだ。池袋なら同じ改札内の丸ノ内に絡めよ、と思いつつも、線路と車両を共有している関係である以上、自分達にしか起こりえぬトラブルも多々あるし、気恥ずかしいやらみっともないやらであまり認めたくはないが、二人にしか共有出来ないものも、設備以外でもやはり多々あるのだ。
「……で、何の用だよ」
 大きな吐息を吐く事で意識を切り替えて、もう一度問い掛ける。今度はビジネスライクな問いではないと言う事を察してくれたらしい、副都心はにこりと人の食えぬ笑みを浮かべて、はい、と頷きながら掌を差し出した。
「先輩、携帯貸して下さい」
「………は、何で」
「御託は結構ですから、いいからさっさと貸して下さい」
 それが人にものを頼む態度か、と説教したいのも山々だったが、その言い様がいやにすっぱりとしていたせいで咄嗟に言い返す事が出来ず、気付けば有楽町の手はスラックスから引っ張り出したゴールドの携帯電話を副都心の掌に載せてしまっていた。
 掌に加わった重みに、にたりと副都心の口の両端が吊り上がる。そうして笑うとまるであのおとぎ話のチェシャ猫みたいだ、と思っていると、副都心はそのまま器用に親指で携帯のフラップを開けて、恐らくは終話ボタンがあるであろう箇所をぐっと長押しし始めた。
「え、ちょ、おま……!」
「何驚いてるんですか先輩、ちょっと電源切っただけですよ、ホラ」
「いやそれ『だけ』じゃないから! 緊急連絡とかどうするんだよ!」
「どうせ僕の方にも来ますよ、同じ線路使ってるんですし」
 ホラ、と見せびらかすように見せられた液晶は真っ黒に沈黙していて、確かに副都心の言う通り電源が落ちてしまっているようだった。
 あと三十分かそこらで勤務が終わるとは言え、その間に何か起らないとも限らない。しかし、有楽町がきりりと眉尻を引っ張り上げて怒鳴っても、携帯を持った副都心は淡々と言い返すばかりで、すぐに電源を入れ直してくれる様子はなかった。
「お前なあ、勝手に人の所に来ておいて何なんだよ」
「ちょっと待って下さいね」
 有楽町が肩を怒らせている間も、マイペースに腕時計に視線を移したりしている。全くこの後輩ときたら一事が万事この様子で、有楽町に合わせると言う「後輩」としては至極初歩的な事を一切してくれないのだ。
(ったく、新線の時は先輩先輩ってひな鳥みたいだった癖に!)
 だが――もう一度叱責の声を上げる為に息を吸い込んだ、その時であった。
 開いていた携帯を丁寧に閉じて己のスラックスのポケットへ突っ込んでしまうと、副都心はおもむろに有楽町の手をぎゅっと両手で握ってきた。え、何、と目を丸くさせて辺りを見回すと、ホームに立っていた駅員がこちらを見て微かに笑っていた。意味が分からない。
「35回目の開業日、おめでとう御座います、先輩」
 その言葉を言う時ばかりは年相応(と言う表現が果たして鉄道路線にも当てはまるのかは分からない)に可愛らしく笑った試しのない目の奥をきらきらとさせて、単語を区切りながら、まるでひどく大事な事のように言うのだ。それはそれは、思わず有楽町の頬が熱くなってしまうくらいに。
「…………あ、ありがと」
 ぽろりと転がるままに返した感謝の言葉は、深夜のホームの真ん中で馬鹿みたいに響いた。こう言う時に限って自分達の周りに乗客がいないのは、一体どう言った偶然なのだろう。総合的に言って、出来れば来年からはご遠慮願いたいくらいに恥ずかしい雰囲気だ。
「まさか忘れてたんですか、先輩」
「……そうじゃないけどさ。まさかお前、その為にこっち来たの?」
「当たり前ですよ」
 しれっと当然だと言ってのける後輩にも、自分達を微笑ましく見守りつつ、おめでとう御座います、と口の動きだけで祝ってくる自路線の職員にも、言いたい事がありすぎて頭が追いつかない。
「激ニブの先輩には言わないと分からないと思うので言っておきますが、携帯の電源切ったのだって嫌がらせじゃなくて、誕生日メールとかに先越されたくなかっただけなんですからね」
「……あ、そ」
 頼むからこれ以上追い打ちをかけるのはやめて欲しかった。今なら多分、羞恥と喜びで腰が抜かせられる。
 開業日は真っ先に祝わせて下さいって言ったじゃないですか、と膨れながら言われて、そう言えば数週間前にそんな事言われた気がする、とその時の事を思い出しかけて、腰が抜ける前に目眩を覚えて有楽町は数度瞬いた。
 いけない、あれの詳細をここで思い出したら間違いなく憤死する。
 そのフレーズは本当はラブレターだと副都心の主張する紙切れに書かれていたらしく、生憎とそれをラブレターと知らぬまま屑籠へ放り込んだばかりに、有楽町はその文面を一字一句違わず(あの語り口からして、恐らくそうだろう)電話で伝えられると言う有り得ないくらいに恥ずかしい思いに遭ってしまったのである。
「先輩、24分の池袋行を見送ったら仕事終わりでしょう? それまで付き合わせて下さいよ」
「その後は?」
「誠に遺憾ですが、メトロ全路線総出で寝不足必至のお誕生日会です」
「やっぱりか……」
 他路線の時もそうなのだが、このメトロの「お誕生日会」のひどさと言ったらない。場が混沌とならない日などないし、そしてその場合大抵あれやこれやの処理に当たるのが有楽町の役目なのだ。――たとえ、それが己の開業日であったとしても、である。
「って、何で『遺憾』なんだよ」
「そりゃあ、僕としてはゆっくりねっとりしっとり、先輩と二人きりでお祝いして差し上げたいですからね」
「い、いい、遠慮する」
作品名:【FY】詰め合わせ 作家名:セミ子