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冬の旅

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 セブルス・スネイプにはイライラさせられるが殺すほどでもなく、だからと言って信用できるわけでもない。そもそもヴォルデモートは誰も信用していないのだが、マルフォイ家の当主にはそれなりに目をかけている。頭の回転は悪くないし、魔法力も他と比べると高く、なによりマルフォイ一族は頭数が多い上にルシウスに従順だ。そういうのは悪くない。
 それにしてもこの頭痛はどうにかならないものか。さっきまで目の奥が痛いだけだったというのにいまやこめかみまでがずきずきする。ヴォルデモートは右手を振って薬瓶を呼び寄せると白い錠剤を2粒口に含み、テーブルに用意されていたレモン水で流し込んだ。これでまた眠気がやってくる。懐から出した時計は14時15分。10分ほど眠る時間はあるだろう。思わずため息を漏らし、頭を背もたれに預けるとそのまま目を閉じた。眠りが訪れるまでに考え事をするくらいの時間はある。
 ヴォルデモートはマナリーからの一報を受け取った後、ただちにルシウスたちを呼び戻した。あんなに人が密集しているところを探しても意味がないからだ。どうせ見つからない。それなら使えない者たちの中でもマシな二人を無駄使いしたくない。最近、騎士団の動きが活発になってきているし、そばに置いておきたかった。
 ジェームズ・ポッターには苦しんでもらう。それはヴォルデモートの中で決定事項だった。殺すわけにはいかないのだからそれくらいやらねば気が収まらない。さて、あの愚か者たちはどこまで耐えてくれるだろう。苦しみに歪む顔を見せてもらわねばつまらない。苦痛にかすれる声を聞かねば面白くない。
 ヴォルデモートは昔々気に入っていた女のことを思い出した。他人に蔑まれながら、地べたに這いずくばるような日常を淡々と生きていた。あれは潔かったと口元が緩む。
 『独り』より『二人』が強いと人は言う。だが、それはどうだ? 自分に災難が降りかかればそうだろう。しかし、自分の災難が他人に降りかかればどうなのだ? それでも『二人』のほうが強いと言えるのか。ポッターにはそれをご教授いただこう。
 ヴォルデモートは最近のイライラした気持ちが少し解消された気がして、ゆるやかにやってきていた眠りへと意識を沈めることに決め、大きく息を吐いた。


 ジェームズは腰かけていたベッドから立ち上がり、身なりを整え、一度メガネをはずして汚れがないか光にかざし、ポケットに杖を入れたことを確かめ、クローゼットから取り出した紺色のダッフルコートを身にまとった。そして、きゅっと口元を締めると落ち着かない気持ちを振り切って玄関に向かった。その格好はジェームズを少しばかり若く見せ、まるで学生時代から抜け出てきたような微笑ましさだった。
 居間に顔を出して母親に「小麦粉を買って戻るよ」と頼まれ事を忘れていないことと出かけることを一緒に伝えた。
 スニーカーに足をつっこんだところで、玄関の呼び出しベルが鳴り、ジェームズは扉を開けた。
「やあ」
 目の前に立っていたのは長い髪をポニーテールにしたリリーだった。お世辞にもにこやかとは言えない表情だ。
 やっぱり、とリリーは言った。
「私はドレアから聞いていたのよ、家族ランチは来週だってね。それでもあなたがシリウスたちに嘘をついてまで何かをしようとするなら、それはセブに関係することよね」
 ジェームズはチラッと腕時計に目を走らすと「セブルスの部屋に行くんだよ」と意識して穏やかな声を出した。リリーはジェームズの顔をちょっと見つめてから片方だけ眉を跳ね上げた。
「そういうごまかしは必要ないわ。そんな眼鏡をかけても無駄よ。あなたの瞳が雄弁に語っているもの、邪魔するなってね」
「視力が下がったから使っているだけだよ」
 ジェームズは微妙にずれた答えを口にした。こんなところで長話をしたくない。不本意だがリリーの言うことは当たっている。『邪魔をして欲しくない』。さっさと姿くらましをすれば良かったとすでに後悔していた。
 リリーはジェームズの言うことは聞いてないことを隠しもせずに言葉をつづけた。
「あなたはだいたいなんでも上手にごまかすのよ、誰にも気づかれないようにね。ペテン師にならなかったのは幸運だったわ」
 ひどい言われようだが、ジェームズにごまかそうという気はなく、結果的にごまかした格好になることは少なからずある。物は言いようだ。知らせなくていいことをわざわざ口にすることはないし、デリケートな物事は必要最低限以外の人間は知らなくていいと言う考え方から、話を別方向へ誘導することはある。
「それで、君は何をしに来たんだ」
「あなたが何をするのか、したいのか、しようとしているのか、確かめに来たのよ。絶対あなたは何かやる。シリウスたちに嘘をついたんだもの。ごまかせないから嘘をつくしかなかったんでしょ? そうまでするのはセブに関してしかない。簡単なことだわ」
 そして、気に入らないけどこのことは誰にも言ってない、だから白状しなさい、とジェームズを睨みつけた。
 ジェームズはリリーを嫌いではなかったがこういうところが気に入らない。だからはっきりと口にした。
「リリー、君の言い方はかなり人の神経を逆なでするね。もっと普通に言ったらどうなんだろう」
 そうして、いつになくいらいらしていることも手伝って、珍しく余計なひと言を付け加えた。
「可愛気がない」
 それについてのリリーの答えは『大きなため息』と『鼻を鳴らす』だった。
「別に。可愛気なんかなくったって生きていけるわよ。もういいわ、行きましょう」
 さっさと背中を見せるリリーにジェームズは眉をひそめて言った。
「行きましょうってどこに」
「馬鹿なことを言わないで。セブのところに決まっているじゃないの」
 振り返ったリリーは当然のように言い、肩から下げていた鞄から杖を取り出した。彼女の杖は柊に一角獣のたてがみが使われたもので、手に馴染むよう持ち手が優美な曲線を描いていた。
「何を勘違いしているのか知らないけど、僕が行くのはセブルスの部屋だ」
「じゃ、それでいいわ。行きましょう」
「勝手に行ってくれ。君とは行きたくない」
「子供みたいなことを言うのね。あなたのことだから防犯魔法をかけているでしょ、私は入れないわ」
 ジェームズは盛大に舌打ちをした。賢い女は好きだが小賢しい女は嫌いだ。この女が嫌いだ。ジェームズは女性を蔑視することはないがこのときは強烈にそう思った。
 見たこともないほど、実際誰も見たこともないほど不機嫌な顔をしたジェームズを眺めてから口を開いたリリーの口調は先ほどとはうって変わって静かで頼りなかった。
「ジェームズ。シリウスにもリーマスにも誰にも言ってないわ。私ひとりで来た」
 リリーは力なく杖を下すと目を伏せた。
「私の言い方が気にさわったらごめんなさい。あなたも知っているでしょう。私はセブに返すことができないほどの借りがあるのよ。セブに何かあったら・・・、もう何か起こってしまっているけど、これ以上耐えられないわ。あなたの邪魔はしない。だから連れて行って、お願いよ」
 ジェームズとリリーは向い合って立ちつくした。どちらの思いも譲ることは難しかった。
作品名:冬の旅 作家名:かける