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冬の旅

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 どんなことがあっても、セブだけは守ろう。それがジェームズと自分の望みだから。ジェームズは死んでもいいと言ったが、リリーこそ心の底でいつ死んでもいいと思っていた。人ひとりの運命を左右するするほどの愚かな行為を犯して以来、笑っていても楽しんでいても、常に心の片隅には黒い闇が存在した。相手が大嫌いな、または恨むほどの罪人であれば違ったのかもしれないが、リリーの相手は純粋に好きな人でさらに取った行動は軽率だった。後悔は津波のように押し寄せ、リリーをのみ込んで離しはしなかった。
 リリーは沈みかけている気持ちに歯止めをかけるため、無理矢理にっこりと笑った。それは彼女の後悔以上のものが表れた、誰が見ても痛々しいものだった。
 ジェームズはわかったと言った。リリーがすべてを承知し、さらに覚悟を決めたことを理解していた。
「じゃぁ、行こうか」
 リリーはジェームズがまっすぐに差し出した手に自分の手を重ねた。その手の冷たさにリリーが何かを言う間も与えず、ジェームズは姿くらましをした。術の風圧の中で無理に目を開けて見えたジェームズの横顔は何の表情も浮かべておらず、それがまるで死人のようで悪い予感がリリーの胸を騒がせた。
 すでに時間は約束の午後3時を少し過ぎていた。二人が雪の積もった高原に降り立ったとき、スネイプと輝くばかりの美貌の男が並んで立っていた。


「セブルス!!」
 ジェームズの声は悲鳴となって雪原に響き渡った。雪を蹴って走り寄ろうとしたジェームズをリリーがとっさに腕を掴んで止める。
「離せっ!」
「よく見なさいよ! セブは拘束されてるわ!」
 答えるリリーの声も悲鳴だった。俯いたスネイプの腕はしっかりと男につかまれ、そこを起点にようやく立っているような印象を二人に与えた。見れば衣服も乱れている。この寒い中、ブラウス1枚で、胸元のボタンさえないありさまだった。
「ようこそ! ポッター」
 男はこの上なく美しい顔に笑みを浮かべて陽気に言ったが、不思議とそれは邪悪さを感じさせるものだった。時に美しさは禍々しさを放つが、それは多分に内面からにじみ出るものだ。
「少々時間に遅れたな? 私は定刻より少し早くに来たというのに。ジェントルたるものそれがマナーだろう?」
 取り出した懐中時計をわざとらしく覗き込みながら、ヴォルデモートは優雅な口調で言い微笑した。
「あまりに暇だったからセブルスに相手をしてもらっていたところだ。セブルスもいい具合に身体が温まったことだろう」
「なんだとっ」
「おやおや、何を怒っている? お前が時間通りに現れていれば私が暇を持て余すこともなかったのに」
 ヴォルデモートは時計をしまうとスネイプの後ろ髪を強引に引いて顔を上向かせた。紙のように真っ白な顔をしたスネイプの口元は赤く、適当に血をぬぐった後が見て取れた。淡い黄色のブラウスに不規則な大きさの赤いドット柄。あれはもしかして・・・・・・。
 ジェームズの目の前に稲妻のような銀色のきらめきが飛び散った。怒りのあまり声も出ず倒れそうになる。目がくらむとはこのことか。
「お前はっ! セブルスに何をしたっ! 何をしたんだっ、このクソ野郎っ!」
 ジェームズは腕を振り回して暴れた。怒りが身体を支配していた。こいつを殺してやるっ。殺せ、殺せ、殺せっ!
 僕が大切に抱きしめてきた! 大事にしてきた! セブルスッ!
 いまやリリーはジェームズの腕ではなく、正面から抱きつくようにして身体を止めていた。頭の上で荒れた獣の息遣いが聞こえる。ジェームズの心臓が早鐘のように打っている、身体が震えている。力いっぱい足を踏ん張っていてもそのうち倒されてしまうだろう。涙はジェームズのダッフルコートに次々としみこんでいった。
 どうして。どうしてこんなことになっているの? セブの状態はどうなっているの?
 横目で見たスネイプはピクリとも動かない。
「ジェームズッ!!」
 リリーの声に反応するのはうすら笑いを浮かべたヴォルデモートだ。その笑いさえ、他人が見たら美しく感じるのだろう落着きだった。微風になびいて輝く金髪、エメラルドの瞳に覆いかぶさるようなまつ毛、彫刻のような鼻筋もすべてが完璧で、美貌は何も損なわれてはいなかった。
「ポッター、先ほども言ったがお前が遅れてこなければこのようなことにはなっていない。セブルスはお前が遅れてきてつぶした私の時間の代金を身体で支払ったということだ。心配するな、別にこれくらいいつものことだ。騒ぐほどのことでもない」
 しれっとヴォルデモートは言い放った。
 この状態がいつものことだと? 真っ白な顔をして、口から血を流し、髪を掴まれようやく立っているような状態が? 胸元から見える赤い痣は時間がたてば紫に変わりそうなのに?
 ジェームズは絶叫した。叫ばずにはいられなかった。冷静になど話せない! ただ一つの言葉が身体を支配する。
「お前を殺す! 殺してやるから杖を出せ!」
 ジェームズはポケットから杖を掴み出して、しがみついてるリリーを吹き飛ばす勢いで暴れた。それを見ながらヴォルデモートはふふっと笑った。
「それはいい。望むところだ。わざわざ自分から死を望むとはお笑いだ」
 そのときだった。ぐったりと目さえもつぶっていたスネイプが「やめて、ください」と掠れた声で言った。それはほとんど囁き声だったがジェームズとリリーの動きを止めるには十分だった。
「セブルス!」
 スネイプはヴォルデモートに手荒く雪の上に放り捨てられた。支えを失ったスネイプはその勢いのまま、雪に半分埋まりしばらくの間動くことさえできない。
 ジェームズはスネイプに走り寄りたかったがヴォルデモートがゆったりと懐から杖を出したのを見て踏み止まった。
「お前がそこから一歩でも動いたらこれは殺す」とヴォルデモートは起き上がろうとしていたスネイプを一蹴りしてから足をかけて言った。
「わかった、動かない。動かないからやめてくれ。そんな風に蹴るなんてやめてくれ」
 いまやピクリとも動かないスネイプから目を離せずにジェームズは言った。信じることのでいない状況に息が上がる。胃から何かが湧き上がる。
 なんてひどいことを。やめてくれ、本当に。蹴るなら僕を蹴ってくれ。蹴り殺されたっていい。
 心が痛い。痛くて痛くて息が止まりそうだ。目の前がぼやけて視界が揺らぐ。力任せに袖で目をこすると涙があふれ出た。
「頼むから足をどけてくれ。こんな寒いところで、そんな格好でセブルスを放っておくのはやめてくれ、お願いだ」
 リリーはようやくジェームズを抑えるのをやめてヴォルデモートに向き直り、その足元を見てフラリとよろめいた。仰向けになった腹の上に足を置かれたスネイプの顔に汚れた髪が張り付いていた。死んでいると言われても疑わないほどの白い顔だった。
「お前の『お願い』を私が聞かなければならない義理がどこにあるか?」
 薄ら笑いとともに返された返事にジェームズは手の中の杖を一層強く握りしめた。身体中が叫んでいる。奴を殺せ。あいつを殺せ。粉砕しろ。
「僕に話があるんだろう。呼び出した用件はなんだ」
作品名:冬の旅 作家名:かける