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toccata

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閑話・作業部屋にて


その日の作業部屋は、随分と”賑やか”になっていた。
時刻は18時47分。
普段は多くても3人しかいない部屋に、8人の人間がいた。
その人数が入れない部屋ではないが、人口密度は上がっている。

「七海、大丈夫なの!?」

自分の事のように、音也は心配を身体と声全てでレンに伝えてきた。

「あぁ、医者からは安静にしていれば大丈夫って言われたよ」

レンの言葉を聞いて良かった…と胸を撫で下ろす音也の隣で翔が言葉を挟んできた。

「でも、お前らどうすんの?まだ二人での楽曲終わってねぇんだろ?」

作曲家の心配も勿論しているだろう彼は、同時にレンと聖川の二人の事も心配していた。
メールでのやり取りは、今回のプロジェクトに関わっている人間全員に伝わっている。
だから、知っていて当然なのである。

「絶体絶命の大ピンチ…ですね…」
「お、ん前!余計なこと言うな!」

那月なりの心配の言葉に対し翔は持っていた鞄を彼にぶつけ全力で突っ込みを入れた。
ご、ごめんなさい…と那月は怒られた理由が分からないまま謝罪した。
それを、月宮は苦笑しながら、日向は呆れた視線で眺めている。

「…兎に角打開策を見出さないと、体調を壊してまで頑張ってくれている七海さんに申し訳ないでしょう…」
「あら〜?体調を整える壊すのは自己責任だから、彼女が全面的に悪いのよ〜?」

月宮の言うセリフにトキヤは一瞬彼を睨みつけてしまった。
その表情を見て月宮は唇の端をくっと上げ、トキヤに気が付くよう促す。
数十秒後に、トキヤは自分の言葉を反省する。
これは事務所からの仕事でも「プロの仕事」なのだ。
全てにおいて万全の態勢で臨むかどうかは、本人次第。
弱っている作曲家の寝顔を見て、彼女の今までの動きを思い返して、「作曲のプロ」になろうとしている彼女に対し自分は失礼な事を考えている、と思った。
うつむいてしまったトキヤを横目に月宮は続ける。

「で、ピンチなのは変わらないんだけど。あなたはどうしたい訳?」

レンに意見を求めた。
医者の診断結果は、大事を取って今日と明日は絶対安静、と言うものだった。
熱は解熱剤で少し下がっているが、劇的な下がり方はしていない。
疲労をしっかり回復できないまま仕事を続け、殆ど缶詰の様な不健康な生活を送っていた為か、体力と免疫力が落ちているらしい。

寝間着姿の春歌の腕には、今点滴の針が刺さっている。
本当は彼女の部屋に連れて行くべきなのだろうが、一人きりにして何かあった時が問題と作業部屋であるレンと聖川の部屋で安静にする事にした。
ベッドは、レンが最初に運んだ彼が利用しているベッドだった。
着替えは診察に来てくれた医師と看護士に頼んで行って貰っていた。

「その事についてはねぇ…、リューヤさんに一寸相談…というかお願いごと、あるんだ…」

レンはしっかりと前を見据え、聖川にはまだ話してもいない、彼からそして彼女から了承も得ていない自分の中で決めている事を口にした。


星がきらめき始め、月も又淡い色を残している。
時刻は、23時を回っていた。
部屋の人数は、先程の数の半分になっていた。

明日仕事があるトキヤ、翔は後ろ髪を引かれるように。
月宮と日向は学園での仕事があると言った事が理由で、部屋を出て行った。
後者は鋭い視線と切るような声で、
「七海を襲うなよ」
と釘を刺してから出て行った事が余りにも面白くて、レンは1時間ほど笑っては我慢して笑っては我慢してを繰り返していた。

「でも、マサに教えなくてよかったの?」

音也は、窓付近で立っているレンに近づいて話しかけた。
構わないんだよ、とサラリ答える。
でも、と食い下がる音也に対して、音もなく近づいてきた褐色の肌を持った美少年が語りかけてきた。

「オトヤ、レンは心配かけたくないと思っテそう言う事をシタ。トテモ友達思い」

セシルの尤もな言葉に、音也は何も言えなくなってしまった。
確かにそうだ、と思った。
仕事中の聖川には、進んでいない現状と今の七海の状況を知らせるのは不味い。
冷静沈着に見えて、彼自身実は視野が狭い時がある。
まっすぐしか見ておらず、周囲の景色に気が付けない。
その事を学園時代に月宮から指摘されている事を、音也は思い出していたのだ。

「てっぺんまで仕事なんて、真斗君も忙しいですねぇ」

那月はデザートのプリンをスプーンでつつきながら、入口の扉へ視線を飛ばしていた。
夕食は残りの人間でルームサービスを呼んで食べていたのだ。
彼のリクエストでプリンも人数分やってきた。
どうやらこのホテルで食べたプリンが思いのほか美味しかったらしく、僕ここのプリンのファンになりました〜、と運んできたホテルマンにニコニコしながら報告している姿を音也は苦笑しながら眺めていた。

てっぺんとは、24時を過ぎる事。
つまり、既に翌日になっている事を示す。
芸能界は時間帯は不定期だ。
子役ではないとは言え、まだ未成年。
本当は時間がもう少し短くても良いのかもしれないが、外での「夜間シーン」の為どうしても遅くなってしまったらしい。
一つでも多く仕事をして名前を覚えてもらわなければいけない時期だ。
何か一つ一つについて突っ込みを入れていたらきりがない。
逆に面倒くさい奴で終わってしまい、業界から干される可能性もある。
だから、事務所側も最低限守って欲しい事や余程の劣悪な環境でない限り、釘をさすレベルで終わらせる事が多い。

「ハルちゃん…大丈夫でしょうか」

那月はそう言ってから、プリンを一掬いして口に放り込む。

「…たしかに心配デス…」

セシルは春歌のいる部屋の扉を眺めながらぽつりとつぶやいた。

「大丈夫だよ。彼女の傍には医療関係者がいるし」

自分にも言い貸せるかのような口調で、レンはセシルに告げた。
彼女の部屋には、レンが呼んだ医者と一緒に来ていた看護士がいる。
春歌が倒れたと聞かされたジョージが、レンや他のメンバー、事務所の人間を安心させるために今日の夜だけと残す事を提案し、看護士もその提案を飲んでくれた結果だった。

「そう言えばさ、レン」

音也が疑問に思っていた事を質問し出した。

「あのさ、日向先生に話していた事だけど…」
「ん?」
「いや、別に悪いとかそういう事じゃなくて。その…」
「楽曲を彼女が創らないで俺と聖川で創るって話?」
「そう。確かに今の体調だと七海は難しいと思うけれど、でもそれは彼女、嫌がるんじゃない?」
「そうだね、俺もそう思う」
「だったらどうして…」

まっすぐに見つめるその大きな瞳の奥に、レンは彼の中にある解消しがたい疑問を感じ取っていた。

「時間がないからだよ。それに、今回の事は俺達にも責任があるしね」

レンは、三人の方を向いて数日間の事を話した。
とても格好悪い事だと言う事は十分承知している。
だが、話さなければいけないと思った。
春歌の気持ちを無視して、日向に提案したのだ。
自分や、その当事者である聖川が”しりぬぐい”をする事は当然だ、自分たちの仕事なのだから。

「聖川には、戻ってきたら俺から話すよ」
「喧嘩はダメですよ…きちんと仲良くしながら話しあって下さいね」

那月は立ちあがったと同時に、レンをたしなめる。
作品名:toccata 作家名:くぼくろ