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toccata

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聖川の場合(4)


壁をちらりと見る。
そこには時計がかけられていた。

現在、17時33分。
思っていたよりも進みが遅い、と俺は思っていた。
それを顔に出すのは不味いと分かっているので必死に隠す。

お互いのソロ曲は出来ている。
だが、まだデュエット曲が出来ていない。

(後…)

数えそうになって俺は思考を停止させる。
これ以上焦っても仕方がない。
今はこの現場に集中しなければ、と喝を入れる。

今朝、部屋を出る前にも神宮寺と一悶着が合った。
何をしても、すぐ言い争いになるのだ。
ひっこめどころが分からないのか、

(幼い頃はそんな事無かったのに…)

そんな詮無き事を考えても仕方がない。
首を軽く横に振って、頭の中から余計な事を消す。

今必要なのはこの現場をしっかりこなす事と、帰ったら彼女との楽曲を作り上げなければならないと言う事だ。
少し困るのは、対立する彼がいる事だ。
どこかで妥協点はないかと悩むが、結局無理なのだ。
喋っていて何時の間にかヒートアップして彼女が
「も、もう少し冷静になって話しましょう!」
と止めに入る。
又すぐ考えるが…結果は同じ。
これの繰り返しだった。
時間は随分使ってしまった、もう本当に時間がない。
一分一秒おしいのだ。
だけれど、”仕事”は入る。
社長からの命令の中には、「仕事もこなしながら」と言うものがった。
だから、このように「曲がまだ完成していなくとも仕事に出る」と言うのは当然なのだ。
勿論今回だけでなく時間が経過すれば、別の機会の時も同じ事が起こるだろう。
この時期になれておかなければ、乗り越えなくてはいけない。

俺はまた時計を見る。
18時。
前方を見ると、まだ先程から何も進んでいないように見える。
自分の番になった時に失敗するわけにはいかない。
台本へ目を通し、俺は自分の出番の為に備えた。


21時半過ぎ。
やっと出番が終わる。
だが、これからまた少し勉強のために見ていなければならない。
いつもだったら心躍るが、今日ばかりは少々きつい。
マネージャーに、楽曲の話を告げる。
うーん…と悩んだ顔を浮かべながら、時間に区切りをつけて現場から出る事が出来るよう交渉してくれる事になった。

交渉の末出られたのは22時を回っている。
移動でどれくらいかかるだろうか、と帰りのタクシーの中でやきもきしていた。
こう言う時の渋滞ほど胃に悪いものはない。
頭に描いているデュエット用楽曲のテーマや歌詞を忘れないよう、鞄からメモ帳を取りだし走り書きをしていく。
時間がない、時間がないのだ。
焦る気持ちが止まらない。
だが、そんな自分をあざ笑うかのように見事なるまでのライトの道が広がっている。
事故が合ったようだ。

(はぁ…ついていない…)

俺は背もたれに背中全部を預け溜め息をつく。
焦るな、焦るな、と自分に言い聞かせるが何故か、胸の奥のざらつきが消えない。
これは一体何なのだろうか、と不思議に思う。
その理由が分からないまま、それでも過ぎて行く時間に製作が追いつくように、今出来る事をするしかないと俺はメモ帳への走り書きを続けた。


部屋に戻ってみて驚いた光景が合った。
一十木、四ノ宮、愛島が部屋にいたのだ。
いるはずもない人間がいると、何だか不思議な感覚だ。
既に時刻は24時を回っている。

「あ、お帰りマサ」
「一十木、お前どうしてここに…」
「いや、それには深い訳が…」
「イッチー、いいよ。お疲れ聖川。一寸ね、緊急事態になった」
「緊急事態だと?」

一十木が何か言いたそうにしているのを止めた神宮寺の口から”緊急事態”と言う言葉を聴き、タクシーの中で感じていた胸の奥にあったものが更に大きくなっているのを感じた。
楽曲製作に何かあったのだ!、とそう思った。

だが、俺が聞いた言葉はそれ以上のものだった。

「た、倒れた…だと」

神宮寺の説明を聴いた後も、頭の中が混乱してそう言うのが精いっぱいだった。
一十木も間に入って、俺が部屋にいない間の説明もしてくれた。
俺は全身の力が抜けそうになって、慌てて近くの椅子に腰をおろした。
しばらくの沈黙。
何も言葉を紡げなくなっている俺に、神宮寺は一つの提案をする。

「提出期限は変わらない。だから、今回はレディの途中まで創り上げてくれたものを使いつつ、俺達も作曲することになった」

社長にも了承を得ているらしい。
簡単に言うが、作曲と言う作業は歌うとは全く違う。
クリアー出来るのか?と疑問が過ったのを読んだのか、神宮寺はきつい表情で告げる。

「俺達の自業自得だ、聖川。後、レディに気を配れなかった罰だよ。今出来る事をやってレディに許してもらわないとね」

はっとする。
俺は自分の事だけではないかと。

(まさかこいつに気が付かされるとは…)

少々悔しい気もしていた。

「とりあえず、今日は休め」
「もう”今日”だ」
「そっか、じゃぁ…遠慮なくやるか?」

神宮寺の誘いに乗ろうとしていると一十木が間に入ってきた。

「駄目だよー、マサ確り寝て。じゃないと頭回らなくなっちゃうよ。レンも、無理させちゃ駄目だよ」
「分かってるって」
「ならよかった。あ、お風呂入れてこなきゃね、一寸待ってて!」

一十木は風呂がある場所へ走って行く。
学園時代から気遣いが絶えない奴だった事を思い出す。
神宮寺と目があった。

「…と言う事だ。決戦は明日だけど、覚悟は出来てるよな?」

低い響き。
俺に対して“覚悟”を聴いている。
腹は決まっているのだ、最初から。
決してあきらめない、そして目の前にいる男には負けない。

「当然だろう、逃げることなどするはずもない」

俺は握っている拳に、更に力を加える。
陽が昇ったら、もう終わりまでは全力で走りきる。
今はそれしか考えられなかった。

作品名:toccata 作家名:くぼくろ